1on1を価値ある時間にする───1on1ミーティングガイド執筆メンバーに聞く。
多くの企業で実施されるようになった 1on1ミーティング。
ただ、実際には1on1をうまく活用できていないという声もあるようです。
そんな中、2024年5月に『1on1ミーティングガイド』という実践的なガイドが有志でリリースされました。
今回は、その『1on1ミーティングガイド』のメイン執筆メンバーに、チームにとって1on1をより良い時間にする方法を教えてもらいました。
まなみん(尾澤)
1on1ミーティングガイド執筆者。組織支援コンサルタント / 産業カウンセラー。
心理療法などを用いて1on1などの職場内のコミュケーション支援、社員のメンタリング、研修、ファシリテーションを通して人材開発に取り組んでいる。
chachaki
1on1ミーティングガイド執筆者。エクスペリエンスアーキテクト。
プログラマであり開発マネジメントを軸足にしつつ、人間中心設計(HCD)をベースにしたUXリサーチにかかわる。
eroccowaruico
1on1ミーティングガイド執筆者。努力・根性・忍耐がとにかく苦手な弱虫。
「沢山の埋もれた力を最大限に発揮できるようになれば、多くの人がもっと楽に成果を上げられる」「チームが自律的に行動し無意識に成長できれば、最高のプロダクトやサービスを生み出せる」の実現を目指している。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。
1on1の目的を考える
企業や団体による情報発信ではなく、有志のコミュニティで執筆されているのがインターネット的というか、オープンな取り組みで面白いですね。
企業が独自の1on1についてまとめた書籍や、コーチングとしてどう話すべきかというテクニックが書かれた書籍はたくさんあると思いますが、『1on1ミーティングガイド』は汎用的なガイドとして1on1で使えそうなパターンを書き出すようにしています。
そういう背景でもあるので、3人多様なメンバーが書いたこともこの1on1ガイドの特徴かなと思っています。
特定の企業の成功例みたいなものだと、同じ条件がそろうこともあまりないですもんね。
プレーンな性質のガイドがあるのはありがたい。
1on1の有用性や対応がわかるようにまとめられてて、中身もしっかり作り込まれてますね。
そういった1on1のガイドラインを作りたいと考えて、はじめた活動です。
スクラムガイドのように基礎になるものができないかと。
とはいえ、スクラムガイドのように具体的なやり方を書こうとしたら、どうしても「こう1on1をすると良い」というものになってしまうので、汎用的なガイドとしてはなかなかまとまらなくて。。。
また、仕事外のコミュニティ活動の一環として進めていたのもあり、企画から公開まで3年もかかってしまいました。
公開までに、3年も!!
抽象的すぎるとみんなが使えるものにならないし、具体にしすぎるとやり方を限定してしまうから難しいですね。
誰でも使えるプレーンなものを目指したからこそ、それだけ苦労されたんですね。
それで、「自分たちとしてはこういう定義でガイドを書いています」という拠り所になる、『目的』をしっかり決めました。
「1on1ミーティングはなんのためにやるのか」という目的を定義しないとガイドとして成り立つものをかけなかったんです。
1on1はこの目的でなくてはならないと決めたいわけではないので、あくまでも「この定義でガイドしていますよ」という宣言ですね。
1on1の目的
1on1の目的は、第一に、組織で働く個人のパフォーマンス向上・維持である。
第二に、従業員と会社組織がwin-winの関係になるために、個人のモチベーションと組織の方向性をうまくすり合わせることで、組織自体の課題を解決することである。
1on1の目的 | 1on1ミーティングガイドより引用
これ、ちゃんと対話するふたりにとっても組織にとっても1on1を意味のある時間にしましょうということが書かれていて良いですねえ。
eroccoさんの言う通り、こうでなくてはならないというものではないのだろうけど、まずはこれをベースにみんなで考えようって使われ方をすると良さそう。
1on1はふたりだけの時間じゃなく、組織全体に影響する時間と考えてみる。
『1on1ミーティングガイド』では、1on1を業務にどう役立てるかという点を意識して執筆をしています。
目的の項に書いているように、個人のパフォーマンス向上につながって、それによって組織自体の課題を解決するための大切な取り組みであるのですが、1on1に対して「なんでこれをやってるんだろう」と感じてしまう人もいますから。
あー、ぼくは1on1をそういうふうに捉えたことないけど…
「こんな忙しいのになんでこれに時間使わないといけないんだ?」ってなる人がいると、そもそも1on1やらなくなったり、内容を定型化させて業務報告の時間にしちゃいがちですよね。
経営者や管理職が「なんの意味があるんだ」って言うこともあれば、実務者が「忙しいのに業務に関係ないことさせるな」って言い出すこともあるだろうし。
みんな、よくわからないまま実施して、ただの1対1の業務報告会になったりする。
企業が1on1をなぜやるのかという目線はガイドを書く際に意識しています。
会社の時間を使って行う取り組みなので、1on1をやる意味について目線がズレないようにガイドするものになればと。
「目的」の項もめちゃめちゃ良いんだけど、どうするとただ2名でやる業務ミーティングではない、1on1としての効能が得られるミーティングになるのか「前提条件」が書かれているのも良いと思いました。
チームメンバーみんなで読み合わせして1on1の意味を目線合わせするのに使ったり、これとは別の独自の前提をつくりたいときも参考になる。
組織や業務のフィードバックループをつくること
組織内に所属している以上、単に個々の事象では閉じない方がよく、組織の事象が絡むことが多い。「組織や業務のフィードバックループをつくること」という条件では、3つの観点がある。
・組織や業務の課題や要望を伝えられている
・組織や業務の課題や要望に対する結果と理由を返している
・双方にフィードバックがある
1on1の前提条件 | 1on1ミーティングガイドより引用
対話の良さを知らない人からすれば、業務時間を雑談に使われるよりも、実務に時間を使ってほしいと感じるのも致し方ないことだと思います。
でも、その時間は業務に役立つ対話の時間だと理解できれば、意味が変わってきますよね。
『1on1ミーティングガイド』を読んでもらったときに1on1はふたりの時間だけではなく組織全体に影響する時間、業務に役立つ取り組みなんですと理解が広まるように強く意識して書いています。
話す内容が雑談がいいのか、業務の話をしてはいけないのかっていう中身に注目するんじゃなく「対話することでチームにとって良いフィードバックループをつくりましょう」ってことが大事ですもんね。
「対話の効能」がよくわかってないまま取り組みが始まっちゃうとか、なんのための時間なのか理解してないままやらされるみたいなことがあると逆効果になりかねない。
特にマネージャーの時間を使ってるんだから、ちゃんと半年とか一年くらいのスパンで会社のメリットになるような取り組みになることを意識しましょう、ということを書いていますね。
これムズい話だなー
対話の効能がわかっているマネージャーやリーダーなら、「そんな気負わず、ただ話す時間にすればいいじゃん」って1on1の時間をとるだけでも中長期の効果につなげられるんだろうけど、多くの人はそんなにうまくやれない。
何のためにやってるのかわからないまま続けさせられることで、1on1や対話の効能が発揮されるどころかネガティブな効果につながったりもしかねないですもんね。
人間はそんな単純じゃないから、「話す機会つくるだけで良くなっていく」なんてことはないんですよね。
あー、「とりあえず飲み会でなんとかする」みたいな感覚で、「とりあえず1on1しておく」みたいな(笑)
1on1は組織の中で利用できるコミュニケーションのうちのひとつの方法でしかないから、ただ「1on1やってください」でうまくやれるなら良いけれど、そうはならない。
例えば、その方法を使っていく中でのお互いの理想の状態はなにかを伝えあうと良いと思うんですね。
めちゃくちゃわかるなー
目的がすりあってないと方法論が合っててもみんな動けないですもんね。
チームって、仕事がヤバい状態になっているほど話さないといけないじゃないですか。
わかるーーーー
でも、もうヤバくなってから対話しようとしても遅い(笑)
そうなんです。うまくいかないから話さない、話せないが負のループになる。
そうならないように、もっと手前で「なぜ1on1をするのか」の共通理解があるといいと思うんです。
なるほどなあ。
会社のメリットを考えると、短期的な業務の成果ばかりに注目されがちになる。
そこで、「社員は機械や道具ではなく人間なんだから、対話をしていくことが半年から一年くらいのスパンで組織の成果につながりますよね、そうなるにはどうしたらいいでしょう」ということを目線合わせしておくと良いってことですよね。
こういうことって、当たり前に聞こえるのに人によって目線がバラバラだから『1on1ミーティングガイド』を基準にしてチームで話し合うと良さそう。
チームのために1on1ガイドを読む
『1on1ミーティングガイド』は、対話の中で発生するさまざまなパターンを書いているので、「こういうパターンのときはこれに気をつけると話しやすい」といった参考程度に使ってもらうのが良いと思うんですね。
1on1ミーティングパターン
・一緒に場を作っていくことを確認する
・相手を変えようとしない
・アドバイスする前に話を「最後まで聴く」
・思いつきで話してみる
・自分の感情を言葉にする
『1on1ミーティングガイド』から抜粋して引用。他、インタビュー時点で24のパターンが掲載されている。
これ、めっちゃ良いですよね。
他にも「あえて利害関係の無い人と実施してみる」とか「記憶が薄れない程度に実施する」みたいなパターンがある。
冒頭でまなみんさんが話していたように「こうすると良い」が書かれているビジネス書とは違う形で、ガイドとして使ってもらえるようにまとめていきたいなと思って書いています。
チームみんなでこの1on1ミーティングパターンを読んで話し合うだけでもすごく意味がある。
本当に多くのチームで実際に使って欲しい、役に立つガイドだと思います。
まとめ: 『1on1ミーティングガイド』で目線合わせ
■ ただ1on1をやるのではなく、どうしたら対話の効能が得られる1on1になるのか、ガイドを通じて目線合わせをする。
■ 半年や一年くらいのスパンで会社のメリットになるような取り組みになることを意識できるようにする。
ただガイドの通りにやってみるだけでも意味がありますが、目的やどうなりたいかをチームメンバーみんなで目線合わせするために使うことでガイドの本領発揮をするのだなと感じました。
チームを対話の力で良くしていきたいマネージャーは、チームメンバーみんなで『1on1ミーティングガイド』を読む時間をとってみると良いかもしれませんね。
1on1ミーティングガイド (1on1ガイド)
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2023年8月