「働くしんどさ」とどう付き合っていくか———『エンジニアのための自己管理入門』著者、小田中育生さんインタビュー
上司の指摘は正しいのに何故か心がザワザワする、順調だった作業に差し込み作業が入ってきて心が重くなる———働いていると、そんな「しんどさ」やモヤモヤが毎日少しずつ積もっていきませんか? 多くの人は、その感情を押し殺すことでやり過ごしています。
今回のAgendは、「働くしんどさ」との付き合い方、ワクワクやモチベーションを高めるモヤモヤとの付き合い方について、小田中育生さんにお聞きしました。
どうぞ、最後の「まとめ」までお読みください。
小田中 育生(いくお)
『エンジニアのための自己管理入門』著者。他の著作に『アジャイルチームによる目標づくりガイド』など。 現在はKDDIアジャイル開発センター株式会社に所属。以前は株式会社ナビタイムジャパンでVP of Engineering、株式会社カケハシでHead of Engineering を歴任。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。
「働くしんどさ」やモヤモヤ付き合っていく技術
今日は、仕事の忙しさやストレスといった「働くしんどさ」とどう付き合っていくかって話をしたいんですけども。
その本が出たからインタビューに来たんで(笑)
Agend読者向けに「働くしんどさ」とどう付き合っていくかを教えてもらいたいんです。
「なんでこんな作業させられてるんだ」だったり、人間関係がストレスだったり……。
「ツラい」とか「ムカつく」って感情を押し殺そうとしても、なくならないじゃないですか。
そもそも、現代の仕事って変化が激しいので、感情はグラグラ揺れるんですよ。
新しいことをやれば不安になるし、状況が変われば戸惑う。
感情が揺れるのが当たり前なんだけれど、自分を守るために感情を揺らさない選択をしようとしてしまう。
「感情を揺らさない選択をしてしまう」って、会議でちょっと違和感があっても「言うと面倒になるから」って飲み込むみたいなことですよね。
課題を特定したり、新しいやり方を発見しても、「だいそれた事を始めない方がいいな」って見なかったことにするとか。
そうですそうです!!
でも、心を動かさないというのは、ワクワクもしないってことなので、モチベーションも湧いてこない。
そうやって人はどんどん保守的になって発言やチャレンジをしなくなっていく。
自分の感情が揺れない動きをしてたら、自分の可能性まで一緒に殺しちゃうんですよ。
んー、なるほど。
それにしても、「仕事しんどい」って気持ちとか「感情が揺れる」ってことと付き合って仕事していくってことって、ムズいっすよね。
抑え込まずに「付き合っていく」って言葉は理解できるけど、そう簡単じゃないというか……
そうなんです。
全部をロジカルに進められたり、感情を自分で制御できるなら、ストレスマネジメントもアンガーマネジメントもいらないんですよね。
大前提として「人間はロジックで動いていない」んだから、順調だった作業に差し込みが入ったらツラいと思うし、正しいことだとしても上司から何か言われたら心がザワザワする。
そうですよね〜
みんな、仕事マシーンじゃないし、感情がありますからね。
みんな「それを頑張った方が良いのは分かってるけど、なんかモヤモヤする〜」って思いながら働いてるんです。
セルフマネジメントを「意識高い人がやるやつ」みたいに捉えず、「モヤモヤと付き合う技術」と思ってもらいたいんですよね。
おー、「モヤモヤと付き合う技術」とか「ご機嫌に仕事するための技術」って捉えると、すごく理解しやすい。
心理学や医学でも、「ストレスコーピング」って用語がちゃんとあって、ストレスの原因やツラさに対処するための行動や技術のことなんです。
難しく考えずに、みんなに必要なものって思ってもらえると良いんですけどね。
モヤモヤする人間関係とどう付き合っていくか
いくおさん、みんなが「これをやれば良いのは分かってるけど、なんかモヤモヤする〜」って思いながら働いてるって言われてましたけど、本当にそうですよね。
上司はよく分かってくれないし、同じチームの人は勝手なこと言うし、みんなモヤモヤを抱えながら働いてる。
プロのお笑い芸人って、プライベートではお互いの連絡先も知らない、現場でも必要なこと以外しゃべらない、みたいなコンビがいるんですよね。全員じゃないけど、割といる。
でも、舞台に立った瞬間、誰よりも息の合った最高の漫才をやる。で、お客さんは「この2人、仲良いんだろうなあ」って笑ってるわけですよ。
つまり、「仲が良いか」と「一緒に良いものを作れるか」って、別の話なんですよ。
うおおおお、わかる〜
飲み会とかランチに行く仲の良さはあるけど、仕事では前に進まないチームも見てきたんで、めちゃくちゃ分かります。逆にプライベートの付き合いはゼロなのに、成果を出し続けるチームもある。
どうしても、噛み合わない状態が続くと、人はつい「あいつはそういうヤツだから」って、個人の人格に理由を求めちゃうんですよね。
そのほうが説明がラクというか、自分が納得しやすいので。
でも、実際に起きてることを見ると、仕事のリズムが違うとか、大切にしていることの主義・主張が違うとか、仕事のスタイルのズレが問題だったりする。
「あの人、こういう人だから……」じゃなくて、仕事スタイルのズレの問題だってのは間違いないっすね。
丁寧に作り込むことを大切にしてる人と、どんどん前に進めないとヤバいと思ってる人がいたときに「合わない」で片づけちゃいけなくて、「今チームってどういう状況で、何を大切にしないといけないんでしたっけ?」って問い直すってことですねえ。
そうです。
「今は短期的なことを頑張って走るフェーズだから一旦置いといて」とだけ言われると、丁寧にやりたい人は「結局、自分の大切にしたいことは、ここではダメなことなんだ」と不安になるし、不満につながっちゃう。
そこで、「利用者が増えたら影響が大きくなるから、そこからは丁寧にやっていこう」とか、フェーズが変わるトリガーをみんなで決めておくと、丁寧タイプの人も「あ、その時が来たら自分の得意が活きるんだ」と思えるし、周りも「そうなったらやり方を変えるんだな」と分かる。
これが「合わない」を突破するための鍵だと思うんですね。
めちゃくちゃ良い話ですね、これ。
「今がそういうフェーズなの、理解しろよ」じゃなくて、「あなたの実力をこう活かしてね」って話になるもんなあ。
……とはいえ、ですよ。
そこを整理しても、ニンゲンはモヤモヤし続けるもんじゃないですか?
そうなんですよね(笑)
そのモヤモヤは、無理に消そうとしなくていいんですよ。
じゃあ、「モヤモヤする自分」とどう付き合っていくか
その感情とかモヤモヤを抑え込むよりも「なんで自分はこの感情を持ってるんだろう」って感情の発生した理由を辿ってみるんです。
「自分の感情」を観察するのって、めちゃくちゃムズいと思うんですけど、どんなふうにやればいいんですかね。
たとえば、「アイツは必要な作業でも手を挙げないな。自分ばっかりやってるな」ってモヤモヤがあるとします。
ついつい、モヤつく「相手」のことを考えちゃうけど、そのときの「自分」を観察する。
それ、自分がバリバリ働いた分、ちゃんと認められてる実感があれば、他人のことは気にならないかもしれません。気になるってことは、頑張ってるのに報われてない感覚が自分の中にあるのかもしれない。
あー、感情を観察してることで、自分の価値観を考えるリフレクションになるのか。
その考え方は好きなんですけど、感情の裏にある価値観を見出すのムズい気がします。
ついつい、イライラする相手のことばかり考えて、相手へのヘイトを高める方向に行っちゃう人が多いし。
難しいですよね。
だからこそ、他人ではなく「自分」を起点にするんですよ。
たとえば「フジイさんが細かいことに口出ししてきて、ビンタして説教したいんだよね」と思ったとして。
ビンタして説教(爆笑)
「他人」じゃなくて「自分」を見るっていいですね。モヤモヤしてるときって、他人を見ちゃってることが多いから。
そうなんです。
「なんで俺はフジイさんをビンタしたいんだろう」と反芻して、自分を見る。
「アドバイスしてくれて助かってます」って思えていたら、ビンタしたくはならないですよね(笑)
ということは、「本当は自分がやれると思ってるのに、やらせてもらえないのが嫌なんだ」とか「アドバイスは適切だけど、タイミングが悪い」っていう、自分の価値観とズレたものが相手から降ってきてると感じて、受け入れたくないって気持ちになっているってことですよね。
「相手はどうしてこんなことを言うのか」とか「どうしたら相手は変わってくれるのか」って変えられないことをモヤモヤ考え続けちゃう人が多いけど、「自分はどうしてそう感じるのか」はセルフマネジメントできますからね。
これってた問題をなくそうとするんじゃなくて、自分の感情を紐解くってことですよね。
そうなんです。
仕事だから問題の解決はできた方がいいけど、全部は解決できないじゃないですか。
変化があったり、他人が関わることで、感情が揺れるようなことは沢山あるんだから。
だから、自分の感情が揺れなくなるように「どうしたら思い通りになるのか」と悩んで考えこむんじゃなくて、感情を紐解いて自分をラクにすることを優先にした方がいい。
元気で前向きになってから、問題を解決すればいいんだから。
なるほどなあ。 「他人の言葉」じゃなくて「自分の感情」を見るのは、めちゃくちゃ大事ですね。
一方で、それって自分の「どうしたら思い通りになるのか」って考えから離れて、「どうして自分はこの感情を強く持っているのか」って思考をするわけじゃないですか。
これ、めちゃくちゃムズくないですか?
「どうしたら思い通りになるのか」っていう『Want』と、「自分が大切にしたい価値観」という『Will』が混ざっちゃう人が多いからですね。
あーーーー その整理いいっすね。
自分がモヤったり、イライラするのは、「自分が大切にしたい価値観」があるからだもんなあ。
「自分の動機」だと思い込んでるものと、実際に心が動くものは違うことも多い。
「自分が大切にしたい価値観」という『Will』というのは、自分の動機はなにかってことでもあります。
「役に立ってる感じがする」だとか「面白いと感じる」や「成長実感できる」といった、自分が動く燃料になってるものは何か。
人によって動機は違うし、あまり自覚もできてないことが多いから、整理が必要なんです。
自覚もできてないことが多い、わかる〜。
「俺は金のために働いてます」って言う人に「給与査定プラスになるけど、あのめちゃくちゃイヤな仕事がんばれる?」って聞くと、「いや、そこまでして稼ぎたくはない」ってなる場合も多い。
実は「金じゃなくて、評価される・承認されること」が自分の欲しいものだったとか。
「人を助けるのが好き」って言ってるけど、自分から助けにいくことはしていなくて「楽しいと思える新しい仕事を任されるのが好き」って人もいるし。
僕自身もそうでしたよ。
最初に勤めていた外資系の会社をリーマンショックで辞めることになって、転職活動したとき「自分は金で選ぶ」と思ってたんです。
でも、給料がいい会社にどうもピンとこなくて。 「なんでだろう」と思いながらいろんな会社の話を聞いていたら、「社会の負の解消にアプローチしている」というナビタイムジャパンに出会って「ギャン!」と来たんですよ。
そこで初めて、「もしかして、自分は金じゃなくて、課題と向き合うことや社会への貢献になる仕事が好きだったんだ」と気づいた。
自分が大切にしている価値観だと思い込んでるものと、実際に心が動くものって、結構ズレてるんです。
「やりたいこと」を問われてもわからないって人が多いし、それが当たり前だと思うんですよね。
「思わず没頭したタスクはなにか」とか「やってて苦じゃない作業」って何だろうって振り返りがあるといいんでしょうね。
モヤモヤしたり、イライラする感情を丁寧に「なんでここでイライラするんだろう」と紐解いていくと、実は気づいていなかった自分の価値観や動機が発見できる。
だから「相手をどうにかする」とか「問題を解決する」より前に、自分の気持ちを紐解いていくことで、本当の動機に出会ってほしいんですよね。
「自分を見つめ直しても問題は解決しないし、あのモヤモヤさせてくる人は変わらないだろ」って思ってしまうときは?
本当の動機が分かれば、「自分らしくパフォーマンスを発揮する」にはどうしたらいいのかがわかる。
環境や他人に振り回されている惰性の状態じゃなくなって、「自分でハンドルを握っている感覚」が得られる。
「自分でハンドルを握っている感覚」がないと、問題の解決もできないもんねえ。
たぶん、この記事の読者は「自分を見つめ直しても問題は解決しないし、あのモヤモヤさせてくる人は変わらないだろ」って感じながら、読んでると思うけど(笑)
求められた仕事をこなす、評価されそうな方に合わせる、環境や他人の都合に振り回されるまま働いてるのって「他人にハンドルを渡してる」状態じゃないですか。
そういう、惰性で働いてるほうが問題解決しないんですよね。
惰性で働いてるほうが問題解決しない!!!
本当にそうですよね。
でも、頭では理解できるんだけど、それがなかなかできない……って人が多いじゃないですか。
現状やってることで評価されたいし、ストレスが少ない状況にしたい。成果は出したいけど、そのためにストレスがかかるのはイヤだし……って。
なんというか「カントリーマアムを食べながら体重を落としたい」みたいな感覚って、誰しもあると思うんですよ。
そういう願望を持つこと自体はダメじゃないし、自然なことなんですよ。
めちゃくちゃ運動するとか、他のハイカロリーな食事をひかえるとか、トレードオフをいくつか考えると、自分が本当に大事にしているものが何かわかると思うんです。
あー、仕事なら「ラクだけど、大きな成果にはならない」とか「結果は出るかもしれないけど、ストレスが大きい」のを選ぶとしたら、どっちを取るかを考えるってことですか。
そうです、そうです。
矛盾しているように見える願望も、それを紐解いて自分の大切にしたいことは何か考えて選んでみると、自分が本当に大事にしているものが浮かび上がってくる。
自分の中にある、そういう矛盾を受け入れるのが近道なんですけど、紐解いて選択できるようになるには「自分がラクになる技術」を身につける必要があるんですよ。
自分がラクになるための私の一番のおすすめは、ヘヴィメタルを聴くことです。
ヘヴィメタルの効果・効能には個人差があるでしょう(笑)
でも、そんなふうに自分をリセットするのが上手くなることや、考え方を整理するのが上手くなる「自分がラクになる技術」が必要なんだなって思いました。
みんな、モヤモヤの「原因」ばかり追求しようとするんですけど、それが分かったからって「よし切り替えよう」とできるわけじゃないんですよ。
その前にまず「自分でハンドルを握っている感覚」を持つと問題解決する力が得られやすくなる。それが近道なんです。
まとめ: 「働くしんどさ」と付き合うには?
モヤモヤの多くは、視線が他人に向いて「ハンドルを他人に渡している」ときに生まれます。セルフマネジメントとは意識の高い人がやる努力ではなく、ハンドルを自分の手に戻すための技術と言ってもいいかもしれません。
- モヤモヤは、消さずに紐解く。
相手ではなく「なんで自分はこの感情を持ってるんだろう」と自分の側を観察してみる。その先に、気づいていなかった自分の価値観や動機が見つかります。
- 「合わない人」は、人格ではなくスタイルのズレとして見る。
「あいつはそういうヤツだから」と人格に理由を求めるとツラくなります。仕事のリズムや大切にしたいことのズレとして捉え直す。
- 見直ししないで惰性で仕事をするほうが、実は大変。
求められた仕事をこなし、評価されそうな方に合わせて働くのは「他人にハンドルを渡してる」状態で、ラクなようで問題解決から遠ざかります。自分の動機を深掘りすると、自分らしくパフォーマンスを発揮しやすくなります。
Agendのイベントではありませんが、いくおさんとフジイユウジが、「ひとりひとりが頑張りすぎない、成果を出すプロダクトチームの動き方」をテーマに話すトークイベントが8月4日に開催されます。詳細は、以下の投稿をご覧ください。
『エンジニアのための自己管理入門』
小田中 育生(いくお)
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2026年6月