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ただの「雑談」「飲み会」では、求める社内コミュニケーションは生み出せないと思った―――アナグラム代表・阿部圭司さんインタビュー

アナグラム代表阿部さん


アナグラム株式会社。Webマーケティングに携わったことのある人であれば、何かしらで名前を知っているのではないでしょうか?今回は、アナグラム代表の阿部さんが掲げる「粋な商売人を輩出する」を実現するための組織づくりとコミュニケーションについてお話を伺いました。

阿部 圭司さん


【アナグラム代表 / フィードフォースグループ取締役】阿部 圭司

大手アパレルメーカー、Web制作会社を経て運用型広告の世界へ。2010年にアナグラム株式会社を設立。現在は運用型広告の支援を軸に、さまざまなマーケティング支援を実施。著書には「新版 リスティング広告 成功の法則」「いちばんやさしいリスティング広告の教本」など多数。

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。

即答で「上手くいってるわけじゃないです」


フジイユウジ

ご多忙にもかかわらずお時間いただき、ありがとうございます!
阿部さんとアナグラム株式会社について知らない読者のために自己紹介いただけますか?

運用型広告を軸としたマーケティング支援をしている、アナグラム株式会社の代表をやっています。
アナグラムはもうすぐ14期目の会社で、2020年に上場企業のフィードフォースグループにジョインしました。いまは社員も100人を超えましたね。

阿部さん

フジイユウジ

アナグラムさんって、企業としても成長していて、運用型広告の技術も高い、業界でも有名な良いチームづくりをしている会社ってイメージを持っている方が多いと思うんです。
でも、今回「チームコミュニケーションについて話して欲しい」って阿部さんにメッセしたら、即答で「上手くいってるとは限りませんよ」って返信されましたよね。

コミュニケーションというお題として答えるのであれば、経営してて上手くいったことは一度もないと思っていますよ。

阿部さん

フジイユウジ

おおおおー。言い切った。

逆に「ウチはコミュニケーションが上手くいっている」って自分で言う会社は怪しくないですか?
3人とか少人数だったらね、「みんなで上手くやってます」って言われてもまだ分かりますけど。

阿部さん

フジイユウジ

なるほど、アナグラムさんは常に組織内コミュニケーションの課題を見て、改善続けようと考えているからこその「上手くいったことは一度もない」なんですね。

「粋な商売人」を輩出するための自由。


アナグラムというか、僕個人の軸でもあるのですが、その中で実現したいテーマがあって、それは「粋な商売人を輩出する」なんです。
いつか独立してビジネスやっていけるようになる人であれば、自ら動いていかないといけないよね、と。

阿部さん

フジイユウジ

社員さんに求める姿勢や行動に筋が通ってますよね。
商売人らしく自分で考えて自由に、自律的に行動することを会社として社員さんに求めている。

中途入社したクルーが「本当に自由なんですね……」と言って、戸惑うぐらいは自由ですね。

阿部さん


※アナグラムではメンバーをクルーと呼びます

フジイユウジ

それはマジで自由ですね(笑)
「粋な商売人」として活躍してもらうために、信頼できる人を採用して、自由に動けることによってパフォーマンスを出すことを軸にしてる組織なんですね。

はい。採用時にかなり見極めをするので、信頼して入社後は自由にやってねと言ってます。
いまは、入社して1ヶ月間研修がバーッと走ってるので前よりしっかりしてるとは思いますし、ついてるマネージャーのスタイルにもよりますけど。

阿部さん

フジイユウジ

マネージャーのスタイルも自由なんですか?

いまはマネージャーで分かれた3つの組織があって、三者三様。6月からはこれが5つの組織に分かれる予定です。
チームクルーの家に「泊まりに来て」と招かれちゃうくらい仲良くやってるコミュニケーションモンスターのマネージャーもいれば、プライベートの関わりはあまりないけど仕事の信頼関係はバッチリみたいなマネージャーもいますね。
個々のやりたい方針で上手くやってくれるなら方法論は違って良いと思ってます。

阿部さん

フジイユウジ

部下の家に泊まりに行くのマジですか(笑)

さすがに「本当に行ったの? 大丈夫?」って聞きましたけど(笑)
アナグラムとしては「粋な商売人」になってもらうためにマネージャーが組織運営をやるのも必要なことだと考えてるんですね。各マネージャーがどんな組織にしたいかをそれぞれのスタイルで決めるので良いじゃないかということです。

阿部さん

フジイユウジ

マネージャーとして「粋な商売人」の模索ができる、会社の経営に近い環境を用意してる。
これは、いいですねー。

会社主催でただの飲み会をやるのはイヤだ。


フジイユウジ

今日はオフィスにお邪魔してますけど、出社されている方も多いですね。
(インタビューしている横を社員さんたちが沢山通りかかる)
九州や大阪からフルリモートで働いてる方もいらっしゃると聞きましたけど、出社でもリモートでもOKなハイブリッドなんですね。

これ、記事に書けるか分からないけど、リモートワークが増えてきたら「寂しい」って言われたことあって。
クルー同士でそういう話をして、僕に相談してくれたんです。

阿部さん

フジイユウジ

おお、それをオープンに代表に伝えられるチームっていいですね。

寂しいって率直な感情を言ってくれるのはありがたいし、何とかしてあげたいけど……寂しいっても難しいじゃないですか……業務が上手くいっていないとか、大変なんですって話ならどうとでもするけど……。

阿部さん

フジイユウジ

確かに(笑)

コロナ禍の初期にも、みんなのカレンダーを見たら「雑談」という予定が入ってる人が何人かいて……。
「今日の10時から雑談します。Zoom発行します」って予定が入ってるの、おかしいと思ったんですよ。
その予定では上司と話さなければいけない。しかも仕事っぽくない話を。
僕はコミュニケーション不足の解消にならないと思って、それは止めてくれって言ったんですね。

阿部さん

フジイユウジ

仲間とのコミュニケーション不足を解消したいっていう、善意からの行動なんでしょうけどね。

そう。善意だけどよくない方向にいっちゃう。
そこで、ひとつ試してみたことがあります。弊社が運営する Marketeer(マーケティア)があるじゃないですか。以前フジイさんにも出てもらった。

阿部さん

Marketeer(マーケティア)は、アナグラムが運営する全国で活躍するマーケターにがっつり迫るメディア。フジイも記事にしていただいたことがあります。


オフィスのスペースにゲストを呼んで、 Marketeerの公開インタビューをするイベントをやったんです。50人近くの社員が見に来てくれたかな。
内容はアナグラム社内にしか出さないようにして。遠方に住んでる社員にはライブ配信しました。

阿部さん

フジイユウジ

うわーーいいなあ!
公開インタビューっていっても社内限定なんですね。
それはお金払って参加したいくらい楽しそうなイベントだ(笑)

社内限定ならゲストもオフレコが話もできるんで楽しいですよ(笑)
ゲストと生で会って、質問もできる。
ここからが「寂しい」の話に繋がるんですけど、イベント後に参加者でTGIF、つまり懇親会を実施したんですね。
そのゲストの人が今日話した内容について、みんな共通の話題があって、ライブだから熱量も高い。
その状態でみんなでご飯を食べたり、お酒を飲んだりする。

阿部さん

※TGIFは、”Thank God It’s Friday” の略で、日本語でいう”華金”。転じて金曜の夕方から行われるお酒や飲み物を用意したユルめの全社ミーティング。Googleがやっているので有名。

フジイユウジ

それ、映画を一緒に見に行った後に感想を話し合う感じですよね。

まさにそんな感じです。
仕事に関係していることで、楽しく「この話をしたいね」ってお題が整っている状態なんですよね。
なので、そこから色んな話に発展しやすくなる。

阿部さん

フジイユウジ

強制的に集められた飲み会、楽しめる人もいるんでしょうけど、ただ雑に設定された「飲みニケーション」ではコミュニケーションの課題解決しないでしょうからね……

それまで何度かコミュニケーションが足りないからTGIFやろうという声も社内から上がっていましたが、会社主催でただの飲み会をやるのはイヤだって伝えたんですよ。
自発的に仲良い人たちが飲みに行くのは別にいいけど、会社主催としてコミュニケーション促進のためにやるなら、軸のある場を提供すべきだと思ったんです。
この社内向けイベントは結構やってよかったなと思ってますね。
「寂しい」って言ってくれなかったらこのアイディアも出てこなかったし。まだ1回しか実施してないですが、いい感触です。

阿部さん

普段の業務とは違う、学校でいうところのクラスに対する部活みたいなコミュニティをつくる。


フジイユウジ

アナグラムさんは、「グロースハック」や「フォーラム」といった社内の仕組みも特徴的ですよね。

アナグラムのグロースハック: 毎週、半強制的に実務から切り離した時間を作り、普段は自分が関わっていないビジネスアカウントを、担当者とは異なる視点で分析を行って、皆の前で改善案をプレゼンテーションする取り組み。
他のクルーがやっている仕事への批評や意見を気兼ねなく交換できることで、健全で建設的な批判ができる文化を維持している。


人間は成功パターンを使い回したくなるじゃないですか。一方で、運用型広告の世界は日々アップデートしていきます。
今日の正解が必ずしも明日の正解ではないということをお互いに認識して欲しいので、定期的に振り返る機会を作ったんです。

阿部さん

フジイユウジ

担当者じゃ気づいていないことをみんなで分析できるし、良い取り組みですよね。
「他人へ指摘をする・他人からの指摘を受け入れる」ってのは多くの人が苦手なことだと思うんですけど、仕事がより良くなるコトに向かって指摘する・されるを訓練できる場になっていそうなのも良いですね。

指摘した側も言いっぱなしではなく、言ったことを自分もきちんと実践できているか考えることになるじゃないですか。

阿部さん

フジイユウジ

ああああ。他の人にツッコミ入れておいて、実は自分はやってなかったら、それは自分が担当してるアカウントを見られたときにバレる(笑)

そうそう。指摘する側・される側どちらも刺激を得られるんですよ(笑)
チームコミュニケーション文脈の話をすると、前はグロースハックやるときもランダムで組み合わせたチームだったんですけど、今は「フォーラム」っていう固定のチームにしています。

阿部さん

フジイユウジ

そのフォーラムって、どういう取り組みなんですか?

普段の業務で組んでいるのとは違うメンバーでチームを組んで、それをフォーラムと呼んでいます。
普段の仕事で関わらない人と組むとか、新人が直属の上司よりもっと上のポジションの人と関わる機会を作るとか、意図的なチーム構成にしてますね。

阿部さん

フジイユウジ

もしかして、これも雑談の話と同じ、設計された社内コミュニケーションですか?

そうなんですよ。毎週1回だけど、やるべきことや話すべきテーマという軸がある状態で、かつ固定されたメンバーで集まる。
学校でいうと自分のクラスと別に部活というコミュニティがあるみたいな。

阿部さん

フジイユウジ

そうかー。なるほど。
何を話すかの軸がない飲み会や雑談をするんじゃなく、共通のやるべきことという軸を作った上で、普段の仕事とは違うメンバーと話す場にしてるんですねえ。

直属ではない上司や他のチームで働いてる人の発言って、新鮮だったりしますし、刺激になりますからね。
さらに言えばそのメンバーが固定されることで新たな信頼関係を築くことができます。

阿部さん

希望をつくり出す。

フジイユウジ

今日はありがとうございました。
社内のコミュニケーションにはしっかりと軸を用意するって考え方、すごく刺激になりましたー。

余談ですけど、僕の直下についたクルーには、まず家庭のことを話しちゃうんですよ。
「定期的にちゃんと一緒にご飯を食べた方がいいよ」とか「一緒に旅行の計画を立ててみるといいよ」みたいに。

阿部さん

フジイユウジ

もしかして、それは家庭内でのコミュニケーションにも軸を(笑)

旅行の計画ってめっちゃ良いコミュニケーションの軸になるんですよ。
「何ヶ月後先に行く」っていうセンターピンが立つと、人間ってそれに向かって動けるんですね。旅行は希望なんですよ。

阿部さん

フジイユウジ

チームがマイルストーンに向けて走ることで一体化するやつだ。

例えば台湾行くってなったら、台湾のどこで何を食べるか、どこのホテルに泊まるかっていうのをパートナー同士で話しますよね。
旅行が終わるまでは定期的に話すようになる。

阿部さん

フジイユウジ

コミュニケーションの軸となるプロジェクトなのか、旅行が。

それが密なコミュニケーションになっていくんですよね。
軸がないまま、会話を無理やりしようとしてもダメで

阿部さん

フジイユウジ

ニンゲンの習性にどう付き合うかを考え続けている阿部さんらしい話ですねえ!

『ロンリープラネット』ってあるじゃないですか。

阿部さん

フジイユウジ

えっ、あの世界的な旅行ガイドブックの『ロンリープラネット』のことですか?

そうそう。あの分厚い『ロンリープラネット ジャパン』を「目をつぶってめくってみて、開いたページにあった場所に旅行に行こう」と家族に提案したことがあって。
妻からは渋い顔をされましたけど、でも軸がある会話ができて楽しいんですよね(笑)。
会社でも家庭でも、共通の軸になるプロジェクトをちゃんと立てると、無理せずに会話もはずむし、希望が生まれる。
人間って希望がないと生きられない、ってよく言うじゃないですか。

阿部さん

まとめ: 希望をつくる、軸をつくる。


飲むと広告アカウント設計が劇的に上手くなり、CVしまくるコピーが書けるようになるというアナグラム水。(と、フジイが勝手に言っているだけです)

「粋な商売人を輩出したい」というビジョンを実現するための具体的な仕掛けを知ることができた、とても面白いインタビューでした。

メンバー間のコミュニケーションを大切にしたいからこそ、安易な飲み会や雑談の場を企画するのではなく「どうしたらその課題は解決されるのか」を徹底して考えたコミュニケーション設計。

そして、それらの設計した仕掛けが仕事のパフォーマンスを上げることにつながって、社員さんたちがアナグラムらしさ・粋な商売人らしさを持った姿勢になっていく。

ここまで高い解像度で、具体的にビジョン実現に向けた仕掛けを実施できるのが阿部さん率いるアナグラムさんの持つ魅力であり、強さだなと再認識しました。

アナグラムさんが社員に「求める人物像」も是非ごらんください

(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2023年4月

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