SmartHR 社員1,300人の組織内コミュニケーションを支える HRBP ────SmartHR六本木さんインタビュー
同じ組織でも、他の部署や経営層とのコミュニケーションはチーム内とは違う難しさがあります。
そこで今回は、組織の中で他部署をサポートする役割である SmartHR の HRBP 六本木さんに「他部門とのコミュニケーション」や「経営層などレイヤーが違う人とのコミュニケーション」についてお聞きしました。
きっと今日から使える組織コミュニケーションのヒントになると思います。どうぞ、最後の「まとめ」までお読みください。
六本木啓央
株式会社SmartHR 人事統括本部 HRBP本部 組織人事部 部長
新卒でシンクタンクに入社。システムエンジニアを経て、人事として人事制度の企画・運用、人事データの利活用の推進に従事。2022年に株式会社SmartHRに入社、現場各部門における人事課題、組織課題の解決に幅広く携わる。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。
組織課題を解決する専門チーム、HRBP。
六本木さん、今日はよろしくお願いします!
まずはSmartHRと六本木さんについて簡単にお話いただけますか?
株式会社SmartHR の六本木です。よろしくお願いします。
お渡しした名刺に「六本木」が3つ入ってるのが持ちネタです。
(※六本木3丁目の 住友不動産六本木グランドタワーにあるSmartHRオフィスでインタビューしました。)
SmartHRは私が入社した2022年は500人ぐらいだったんですけど、2024年には1,300人ほどになりました。
えっ、1,300人。
いまそんなに社員いるんですか……
そうなんですよ。
しかも、新卒採用しないでここまできて。
えー、中途採用だけでそこまで急激に人を増やせるんだ……
いやー、急激すぎてビックリしますよね~
カルチャーマッチ重視でがんばっていて、採用は大変です。
そこまでの急拡大だと、組織内のコミュニケーションとかも大変じゃないですか……
それもあって、人事体制が再編されたんです。
私は人事の中にあるHRBPとして、事業部門の課題解決を支援しています。
HRBP(Human Resource Business Partner)
人事(HR)の専門性をもって事業部門のビジネスパートナー(BP)として動く役割。
従来型の人事部門では事業側と切り離された機能になりがちだったのに対し、HRBPは事業成長や目標達成のためにヒトや組織の課題解決をサポートする機能を担っているのが特徴。
おー、HRBPがある会社って増えましたよねえ。
とはいえ、HRBPってめっちゃムズくないですか。
名前だけHRBPでビジネスパートナーになっていない従来型の人事部門と変わらないってことも多い気がするというか (笑)
あっ、すっごくよくわかります。
SmartHRでも組織を変える前は、制度設計やサーベイ運用なども組織人事で全部まるっとやってたんですが、それを2024年の夏から事業部門のパートナーとなるチームとして再編しました。
いまはHRBP全体で30人。半数以上は採用業務で、事業部門のサポートをするメンバーは私を含めて9人います。
SmartHRにおけるHRBPの役割を3段階にわけて説明した資料。
株式会社SmartHRのnoteより引用
この3段階にあるように事業部門と信頼関係を積み上げながら、パートナーとしての成果を出していくイメージです。
この資料、わかりやすいな~
現場の事業部だけで課題解決がんばれって丸投げしても上手くいかないし、従来型の人事部門から全体に向けて制度だけ作ったりしても個別のコミュニケーション課題が解決できないから、HRBPが現場に入り込んでいくんですね。
コミュニケーションとかヒトの課題解決を専門的にサポートするチーム、めっちゃイイな。
他部署から信頼を得る方法。
とはいえですよ、人事からの介入って事業部門のマネージャーが面倒がりそうなイメージあるんですけど、どうなんですか (笑)
人事から「ちょっと話聞きたいんだけど」って声かけられても、ぼくが事業部側のマネージャーなら「人事から時間とってくれって言われてるの、面倒だなあ」って思っちゃうかも。
HRBPとしてはサポートする相手から面倒くさいとか、いらん介入してくるって思われたら困りますよね。
「他部署に入り込んで信頼を醸成していく方法」ってHRBPに限らず、多くの人が知りたいテーマだと思うんですけど、社内支援の専門家としてどうやって推進してるのか教えてほしいです!!
知りたい!!!!
幸いなことにSmartHRはオープンな会社なので、現場でやってる会議に聴くだけでいいので参加させてもらうとか、議事録やドキュメントを見るとか、情報を得やすいんです。まずは、相手を知ることからスタートですね。
そこから、じゃあ人事としてこういう価値提供できるかなみたいなところを考えてくっていう感じです。
いくら同じ会社内の人とはいえ、いきなり「なにか解決したい問題ないっすか。助けましょうか?」って聞きにいってもダメですもんね。
相手を知って、「もしかして、それ手伝ったら助かります?」って聞くイメージですかねえ。
はい。本当にそんな感じですね。
いきなりマネージャーに「課題は何か」ってグイグイ聞きに行ったら、うまく聞き出せなくて表面的な話しかできなかった……って経験もたくさんあるので、壁打ち相手にしてもらえるくらいの信頼関係を構築するのが先ですね。
もちろん、その前に事業部門で実際にやっている業務やビジネスへの理解も必要になってきます。
やっぱり他部署との信頼関係の構築って、難しそう……。
事業推進の力のあるマネージャーほど「これに困ってるから助けて」って言ってくれなそうだし (笑)
実際にあった例としては、チームメンバーの動きと会社が打ち出してる方針が噛み合っていない部署でワークショップをやったことがあるんですね。これは私ではなく、HRBPのメンバーが担当した例なんですが。
それなりに上手くいった後で、振り返りで教えてくれたんですけど、現場側の責任者も最初は「なんかめんどくさいこと言ってきたなー」って思ってたらしいんですよ(笑)
うははははは (爆笑)
なんか上手くいってないなーって違和感あるときに人事から来たメンバーが「ワークショップやりましょう」って言っても、事業側のマネージャーが「そんなことやってる場合じゃあねえ」ってなるのは不思議じゃないですよね。
結果的に「やって良かった」って言ってもらえて、課題を解決するサポートができたと思います。
マネージャーとメンバーが一緒に話し合って、噛み合ってないところの理解が深まるようなワークショップをHRBPのメンバーが企画・設計して。
おお、それは人事の専門性をもった人が現場のマネージャーを支えた、HRBP成功事例って感じですね!!
事業側だけで、そういう解決策をとれない場合って多いでしょうし。
解決策を「やろう」って言ってもらうためにも、マネージャーとよく話をして、それからメンバーにも話を聞いて、「わかってくれている人」と感じてもらえる関係性になっておく必要があるんですよね。
部門内だけで解決すべきこともあるので、HRBPがサポートすべき課題か判断できるくらい、事業部門側にちゃんと入り込んでおく。
あと、マネージャー会議に参加させてもらったり。マネージャー間ではどんなことを話題にするのか聞いて、「話のわかるやつ」になっておかないと壁打ち相手にもなれないので。
「正しい解決策を提示できるやつ」になる前に、そもそも「話のわかるやつ」というポジションがなければ解決策の提示もできないってことですね……
こうすれば良いって「型」があるというより、相手を尊重するコミュニケーションを丁寧かつ実直にやるってことですよね。
そうやって関係性を築いていくと、「この人がこんなに言うんだったら1回とりあえずやってみるか」って思ってもらえるんですよね。
相談したら良くなるかもという期待をもってもらえることが大切なので、ともかく事業部門の人たちとそういう関係性になれるよう努力していますね。
SmartHRのHRBPは、誰がどの部署のサポート担当になるかを割り当てる担当制にしてるんですが、担当者が個人の力だけでマネージャーと対話をして説得するだとか、他部署に入り込んで関係を築いていくって難しいんです。
なので、チーム戦ととらえて「あの部署はこれに困ってるけど、どうサポートしようか」とか、「このマネージャーとこんな関係性だけど、どうアプローチしようか」みたいにHRBP内で話し合ったり、振り返りをして進めてますね。
相手から「ビビッドな反応」が返ってくるのは対話のチャンス。
他部署との信頼関係を築く話をしてもらいましたけど、次に、経営層とのコミュニケーションで気をつけてることって聞いてもいいですか?
実は「こんな取り組みを始めたい」っていうことを説明して全然うまくいかなかった失敗エピソードがあるんですけど (笑)
2年くらい前の話なんですが、ちゃんと仕組み化されていなかった制度があって、「こういう仕組みに変えましょう」と人事側で提案をまとめて、役員やVPに説明しに行ったんです。
仕組み化されていないのを変えましょう、という良い提案をしたわけですね。
そうです。
良い提案のはずなんですけど、説明をしたら「なんでやるのか全然わからない」みたいな反応が返ってきて。
「そもそも、これ何のためにやってるの?」とか「この変更は面倒すぎるんだけど」みたいな強めの反応がバーッと返ってきて。
説明しても、ぜんぜん上手くいかなかったんです。
このときは本当にキツかったですね~
この失敗体験から、いわゆるビックバンリリース(大きな変更)をいきなり見せちゃ駄目で、ちょっとずつ情報を出さなきゃいけないんだな、みたいなことを考えるようになりましたね。
ああああ、めっちゃわかります。
提案する側は持っている情報量も多いし、どう課題解決するべきか検討を沢山してきているから解像度が高い。
経営層だとか忙しい人たちは、提案する側が通っている理解するプロセスがないまま、いきなり「完成した大きなもの」を見せられることで、その失敗談みたいにズレが発生しちゃう
そうですそうです。
それ以来、作り込んでから見せるみたいなことはせず、こまめな情報提供をしています。
「今こういうことを考えています」とか「この課題に対してこうアプローチしたら、こういう結果になると考えてます」とか、生煮えの状況で伝えていくようになりました。
こまめに伝えるって、めちゃくちゃ難しかったりしません?
相手との時間がとれないとかもあるし、中途半端な状態で見せるリスクがあるというか。
幸い、Slackでなんでもやり取りする文化なので、経営層もSlackでメンションしたらわりとすぐに何か返ってくるんですね。
例えばマネージャーが見ているチャンネルで「今こういうこと考えてるんですよ」って言うだけでも、なんかちょっとそれ違和感あるなって思う人からの反応が拾えたりするんです。
えー、でも生煮えの情報を出すのって勇気いりますよね。
まだ確定じゃない情報に反対意見が返ってきたりすると、それはそれでキツいじゃないですか。
「役員の○○さんが反対してるから止めよう…」とかなって、考えていることに急ブレーキかかっちゃうことありそう。
そうですね~
「ちょっとそれ困るんだけど」みたいな反応が来ることもあります。
でも、そういうビビッドな反応をするってことは、この課題に興味を持ってるってことでもあると思うので、チャンスなんですよ。
ビビッドな反応が返ってくるのはチャンス!!
ぼくなら、強めの反発がきた時にそんなポジティブには受け取れないなあ……
いやいや、その返信を見た瞬間は普通にダメージ喰らいますよ (笑)
あ、そうなんだ (爆笑)
六本木さん、なんでも穏やかに受け止めてそうに見えるけど、ちゃんとダメージはあるんですね~
ただ、そういう反応する人がいるってことを知るのはすごく大切なことだと考え直します。
なぜそういう反応をするのか相手のことを理解して対話しないと前に進まないので、本当にチャンスなんですよ。
厳しい反応が返ってきたとしても、それを利用して「いや、まだまだ決定事項じゃないんで、一緒に考えてください」ってディスカッションの時間をとれる。
そうしてるうちに、施策として固まってきたときに相手側も理解しやすい状態になってるってわけですね。
そうなんです。このプロセスを挟むと結果はぜんぜん違いますね〜
しかも、相手から見たら「自分の意見が反映されている」って思える内容になっていたりして、それによって「これは進めるべき」と言ってもらえますからね。
なるほどなあ。
生煮えの情報を共有するって難しいけど、大事ですね~
チーム内でも同じように、ハッキリしていないことでも共有することを大切にしていて。
HRBPは職種の特性上、ほおっておくと「同じチームでも隣にいるHRBPが何をしているかわからない」みたいな個別の動きに陥りやすいんです。
そういう個人戦にならないようにするためにも、生煮えでもいいから共有をして、チームで話し合いながら取り組めるようにしています。
ヒトの違いが掛け算になって、組織の強さになる。
経営層や上のレイヤーとのコミュニケーション方法、すごく勉強になります。
よく「相手と対話しましょう」って言うけど、ここまで対話の仕方を工夫できている人ってあまりいないかもしれませんね。
「上はわかっとらん」って言いがちな人ほど、これをやれていない気がします。
六本木さんをはじめ、HRBPのメンバーが「仕組みやルールでの課題解決」と「個別のコミュニケーションでの課題解決」の両面から取り組んでいるのが理解できました。
ありがとうございます。
「これは他の人から見ても良い施策だろう」と考えているものでも、反対意見は出ますし、同じことを伝えてもAさんとBさんで結果は違うんですよね。
「ヒトって本当にわかんないな」って思いますけど、それが面白いし、その違いの掛け算が組織の強さにもなると思うんです。
六本木さんのそういう感覚だとか、ビビッドな反応でもチャンスと考えられるような人間力みたいなものが、すごいなあ~
このインタビューの前に「六本木さんがいかにSmartHRでチームワークの要になっているか」ってコメントをHRBP本部 組織人事部の方々からいただいていて、今日はそれを読んでから来たんですよ。
広報の方が取材前の情報としてチームのみなさんの声を資料として送ってくださったんですが、六本木さん本人は知らなかったんですね~
- 頼りがいがある
- 周囲のメンバーも六本木さんの仕事の進め方を参考にしている
- 決めたままにせず、さらにより良くアップデートできる人
……なんてメンバーの方からの声を読ませてもらいました (笑)
いやいや、自分ではまだまだだなあと思うことばかりで……
めっちゃ謙虚ですね~
そういう柔らかな受け止め方をしながらも、前向きに仕事を進めるスタイルが信頼関係を生むんでしょうね。徳が高い……
実際にお話してみて、チームのみなさんが六本木さんを「チームワークの要」と言う理由が本当に理解できました。
まとめ: 組織内コミュニケーションの見本。
■ 共創する仲間になる前に、依頼に答えるフェーズと壁打ち相手になるフェーズがある。
■ まずは相手を知ることからスタート。
■ 相談したら良くなるかもという期待をもってもらえることを目指す。
■ 提案や改善は作り込んでから見せるのではなく、生煮え状態でも見せてしまう。強めの反応が返ってきたときこそ、理由や視点を教えてもらうチャンス。
■ 「これは他の人から見ても良い施策だろう」というものでも、反対意見は出る。相手の観点を知ることが大切。
■ 「仕組みやルールでの課題解決」と「個別のコミュニケーションでの課題解決」の両面から取り組んでいく。
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(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2024年12月