『北欧、暮らしの道具店』は、無理はしないが手は抜かない。健全な事業成長をするクラシコムの企業文化はどう作られているか。
今回Agendがお話を伺うのは、株式会社クラシコムのお二人。クラシコムはこれまで売上を大きく伸ばし続け、2022年には東証グロース市場に株式上場。テレビ東京の『カンブリア宮殿』で特集もされた注目の企業です。
クラシコムが運営する『北欧、暮らしの道具店』はECサイトでありながら、読み物・ラジオ・動画などの多くの人が楽しめる情報を発信し、最近では劇場映画を制作。そのコンテンツが生み出す独特の世界観に多くの人が惹きつけられています。
そんなクラシコムの成長で特徴的なのは、「非競争志向」で成長していること。
どんなチームを作って、どんなコミュニケーションスタイルでそれを実現しているのか。創業経営者であり兄妹でもある、青木耕平さんと佐藤友子さんのお二人にお話を伺いました。
【クラシコム 代表取締役】青木 耕平
2006年、実妹である佐藤友子氏と株式会社クラシコム共同創業。
2007年より北欧ヴィンテージ雑貨をEC販売する『北欧、暮らしの道具店』を開業。企業経営について独特のフィロソフィーとスタイルを持つことで注目されている。
【クラシコム 取締役】佐藤 友子
インテリアコーディネートの仕事を経て、2006年に兄の青木耕平氏とクラシコムを創業。1児の母。
多くの人を惹きつける『北欧、暮らしの道具店』の世界観・ブランドを創り出している。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。
『北欧、暮らしの道具店』のクリエイティブを支える、意外な文化。
青木さん、佐藤さん今日はよろしくお願いします。
ぼくはクラシコムさんが社員数名のころから青木さんとよく仕事談義とか雑談させていただいてましたし、今日もインタビューという形式なのは気にせずカジュアルな感じでお話をさせてください。
多くの人を楽しませるコンテンツを出し続け、ECサイトなのに映画まで作っている『北欧、暮らしの道具店』を運営するクラシコムさん、上場もされてすごい成長してますよね。
いまは何人ぐらい社員さんいらっしゃるんですか。
お久しぶりですよね。今日はよろしくお願いします。
いまは90人弱くらいの規模になりましたね。
ただ、産休・育休を取るメンバーが3年連続で全体の20%ぐらいいるので、実際稼働しているのは70人弱かな。
なんで最初に社員数をお聞きしたかというと、今期売上の着地予想60億円もの大きなECサイトで、株式上場もされているので、もっと人数が必要そうだと思ったんですよね。
その倍か、もっといてもおかしくない。
『北欧、暮らしの道具店』は、仕入れ商品だけではなくオリジナル商品の企画・生産管理もあるし、高品質な記事や動画コンテンツも作っているから、やっている事は他のEC運営会社よりかなり多いですよね。BtoBの事業もあるし、ECのシステムや基幹システムも自社で開発されているし。
どうやってこんなボリュームの業務をその人数で実現してるんですか。
仕入れや商品開発をして商品ページを作ったり、記事・ラジオ・動画等のコンテンツを作ったりしているクリエイティブの部隊は私の直下なんですけど、50人くらいでやっています。
いま「どうやってるんですか」って聞かれてハッとしたんですが、50人で困ったみたいなことはあんまりないんですよ。
おかしいんですかね(笑)
北欧、暮らしの道具店
クラシコムの土台にあるカルチャーは、オペレーションマネジメントなんですよ。
良いものを作ることを徹底するっていうよりは、 サステナブルにやれるとか、コンフォートにやるためにやれることを全部やるっていう感じで。
読み物やオリジナル商品などのクリエイティブな面が表立っている会社だけれど、安定して継続的にやるためのオペレーションマネジメントがそれを支えてるのが、実はクラシコムらしさなんですねえ。
例えば、創業当初から記事1本に対して、手順はこうで、かけられる時間とコストはこれぐらいで、といった管理をしていたんです。
創業時から、働ける時間を長くするとか休まず働くとかできないメンバーでやってきたんですよね、家族もいるし。やりくりが必要な会社だったから、やりくりせざるを得ない。
どうやってサステナブルにやっていくかが前提になっていたから、リソース管理を徹底してきたんだと思います。
『北欧、暮らしの道具店』の世界観とかコンテンツに触れているだけの人は、徹底した管理ぶりを意外に感じるかもしれませんね。
そうかもしれませんね。
柔軟なところも多いですけど、レポートラインとか組織化されてるところはしっかりしていると思いますし。
うん。うちだと、コミュニケーションパスを軽視する動きとかには厳格かもね。
直属の上司を飛び越えて、上司の上司になんか言ってくるみたいなことは基本的にない。
緊急度高いとかなら、また別だけど。
クリエイティブなコンテンツで有名なクラシコムが実はリソース管理、オペレーション管理の会社だってところ、さらにそこ掘り下げてお話をお聞きしたいです。
時間をかけて、身体的知性を培う。
90名くらいの組織で8割の社員さんが『北欧、暮らしの道具店』のお客様だということを公開されていますけど、クラシコムの世界観が大好きだった人が働き始めたら「理想と現実は違う」と思ってしまう……みたいなギャップってないんですか?
運営側として入ったことで、『北欧、暮らしの道具店』が嫌いになるみたいなことは、おかげさまであんまりないようなんですけれども。
ただ、「こんなに内部で気を配って、緻密にお客さまへのメッセージが作られていたんだ」って知って、日々の仕事をしていくなかで、過去に自分がお客さんだったときどんな風に楽しんでたかわからなくなっちゃう時期っていうのがあるんですよね。
そこを通らない社員は、ほぼいないくらい。
おお、ギャップがあるというよりも、自分がお客さんだったときの感覚ってどうだったか分からなくなるみたいな感じで迷うんですね。
あの多くの人を惹きつける読み物やコンテンツが生まれるのって、印象としてはクリエイティブな人たちが独創的に作り出してそうに感じてしまいがちですけど、緻密な仕組みから生まれてるってことですよね……
そうですね。
多分、外で思われている以上にコンテンツができあがるまでの企画やレビューとか統制については、仕組みがカッチリしてると思います。
もちろん入り口としては動機や創発性みたいなものから生まれてるんだけれど、のびのびやってパッと出すみたいな感じではない。
そう緻密にやっていく中で、自身のセンスというか、良さを感じる支柱みたいなものが揺らいじゃう時期がくるんですけど、上司やディレクター、客観的なデータを提示してくれる人たちからフィードバックしてもらう仕組みを用意しているので、そうやってまたその人らしさを取り戻してもらう。
繰り返し言ってしまうけど、『北欧、暮らしの道具店』の素敵なコンテンツや商品を届けるために緻密なオペレーションを徹底している会社であるっていうのは、外から見てる人には驚きがあるでしょうねえ。
ただ、私たちの会社は、「私たちみたいな誰かに届ける」ということを明確に言葉にしているので、個人が「私」を捨てて作業をするんじゃないんですよ。
記事1つごとに「私たちみたいな誰か」というお客さんを理解しつつ、自分個人としても見たい、読みたいものを考える。
統制の仕組みやチェック体制の中で、削ぎ落とされたり、加筆していったりして、制作者の私を出せるコンテンツができあがっていくんです。
おおおおお。
統制やチェック体制なんかのカッチリしたオペレーションという工程で磨かれてこそ、企画者や制作者の想いとか「私たちみたいな誰かへ」という気持ちが活かされて、『北欧、暮らしの道具店』らしいコンテンツになるってことですね。
新しく入社したばかりの方だと、自分の「好き」を出す蛇口を100%開けた企画を出して、それができないとなると蛇口を完全に閉める。とても難しいことなので、最初はどうしてもどっちかに偏るしかできないんですね。
でも、今回は30%のちょろちょろで行こうとか、60%ぐらいエモーショナルに出してみようとか、企画によって何をどうお客さんに届けるかの目的に合わせて調整しなきゃいけないんです。
経験を積んだクラシコムの社員は良い感じに蛇口の開け閉めができるようになっていくのですけど、この感覚を1年とか短期間で身につけるのは難しいんですよ。
あー、もうちょっと閉めてって言われると、「わかりました。もう一切出しません」って完全に閉めてしまうってなるのも分かるなあ。
オンかオフならできるけど、どうお客さんに届けたいかを見さだめて絶妙な塩梅にするっていうのは、たしかに簡単に身につくものではなさそう……
というか、仮に時間をかけたとして、身につくものなんですか?
私たちは社内のコミュニケーションの中で、その感覚を得ていくんですけど、ひとりじゃできるようにならないんですよ。チームからいろんな客観や感覚を得ていかないと、その蛇口の開け方・閉め方をフィジカルに感じ取れないんです。
チームや上司はその蛇口の開け具合を感覚だけではなく、ちゃんと言葉や論理にして説明していく。
自分たちも説明されてできるようになってきているから、マネージャー陣はみんな説明ができるんです。
我々のやっている仕事って、非常に身体的な仕事なんですよ。
フィジカルな知性を求められている。
例えば、自転車に乗る技術って身体的な知性じゃないですか。だからどんなに本を読んで乗り方をイメージしても、実際に乗れるようになるまでは身体的な知性というのは手に入らないわけです。
クラシコムのオペレーションが洗練されているのは、仕事の絶妙な塩梅については身体的な知性が身につくまで時間かけている、時間をかけられることで成り立っているってことですね。
成長のために「時間をかける」を徹底している……
日々の話し合いとかすり合わせの中で、徐々に身体性に刷り込まれていくんだよね。
全体的なスローガンとかコンセプトみたいなパッとわかった感じになるものっていうものではなくて、フィードバックとかレビューを何度も受けているうちに、なんか昨日わからなかったことが今日はちょっと腑に落ちたかも、みたいな行きつ戻りつの連続性の中で培われていく。
クラシコムは競争をしないし、無理して急成長することを目指さないのを標榜していますけど、それらを捨ててコンフォートを目指したことで大きく成長している企業ですよね。
一般に、オペレーションマネジメントというと、全てに決まりがあって無理して何かを突破してスピードを上げていくイメージがあるけれど、クラシコムでは働いている社員さんたちが感覚的な判断ができるまでじっくり時間をかけて習熟するってことを重視している。
「無理はしないが、手は抜かない」が完全に身につくまで徹底的にやっていて、オペレーションを磨くということの意味が他の会社とは違うのかもしれない。
「相手と向き合って話をする」がクラシコムのマネジメントそのもの。
身体的な知性という土台の上に我々の仕事は成り立っているので、感覚を少しでも近づけるための仕事の道具として共通言語を渡すってことを一番意識しているんですよね。
青木さんや佐藤さんといった経営者自身が「塩梅」や「感覚」を説明できるのは分かるけど、マネージャーみんなが説明できるようになるまで身についてるってのが組織としての異常な強さを感じますね。
多くの会社がミドルマネジメントに悩んでると思いますけど、そういう風な人材が育ったり、うまくやるための型とか仕組みみたいなものってあるんですか。
ご質問いただいて気づかされたなと思ったんですけど、マネジメントについてはあんまり意識してないかもしれませんね。
えええええ
それって、マネジメントも型があるというよりも、身体的な知性的なもので動かしてるってことですかね。
そうかもしれません。
業務にアドバイスやフィードバックをするっていう時とかはもちろん、日々の業務での会話とかでていねいにていねいにちゃんと相手と向き合って話をすることがマネジメントの仕事そのものだと思っていて。
まさに身体的な知性の話と一緒で、マネジメントにやってもらうことにどんな意義があるのか、非常に抽象的でバクッとした話をマネージャーにしてることが多いんですよね。
もちろん、ブレイクダウンした細かい話もしないわけではないんだけど。
急成長を追うよりも、時間をかけた方がうまくやれるってのがここでも発揮されているのか……。
それから、なんていうか、仕事をしてて判断とか解釈みたいなものを言語化するわけじゃないですか。
で、解釈を言語化できたら以降のマネジメントの道具になるんですよね。
仕事の道具として共通言語を渡すってことを一番意識している、ってのはそういう意味なんですね。
自転車に乗れるようになるみたいな身体的な知性を得ていくには、解釈の共通言語化が重要、と。
そうそう。
ぼくとか佐藤が解釈を言語化したものが、道具としてマネージャーに配られることによって、マネージャーのマネジメントコストが下がるというか、ブレを少なくやりやすくなる。
感覚的なものを無理にカッチリした線引きせずに、共通の解釈を持つための言葉をもって習熟する。これも「時間をかけた方が結果的に早い」んだなあ。
クラシコムが穏やかで優しい雰囲気のあるチームなのに、こんなに強い事業になってるのがわかってきた気がします……
クラシコムのマネージャーは「会社としてはこうしたいんだって」とは言わない。
私と兄が次にやることの方向性を合意して、マネージャーに伝えたとするじゃないですか。
そうすると「今後こういう方向でやっていくから、自分たちの部門はこう貢献したい」と、自分の言葉で、自分の意思を話してくれるんです。
そのマネージャーの言葉ではなく「佐藤さんがこう言ってたよ」とか「会社はこうしたいんだって」みたいに伝えてしまわないように、まずはマネージャーの理解が深まるまでコミュニケーションをとるようにしていますね。
フィードバック面談とかでミドルマネジメントが「会社がこう言ってるんで」みたいな第三者っぽい言い方しちゃうの、ありがちじゃないですか。
うちではそういうの絶対NG。
それ、めちゃくちゃ良いっすね。
経営がマネジメントの道具として「言葉」を与えるって意味がわかってきました。
多くの経営者の考えるミドルマネジメントの理想が実現されてるけど、ちゃんとそのためにやるべきことやってる感じだ……。
マネージャーがマネジメントという仕事を喜びを持って取り組んでもらうためにマネジメントに使える道具をそろえる。そして、「自分たちの仕事が確かな意義のある結果に結びつくんだ」って確信をもって仕事に臨んでもらうために120パーセントの承認を与える。
「基本的にマネジメントと部下が対立することがあっても、経営はマネージャーを信頼して支持しますよ」とか。
ぼくと佐藤、経営陣はそれをやる。
マネジメントの型が用意されてるんじゃなくて、道具を渡す……。
型じゃなく、支援があるんだ。
私の直下だと、 5部門のマネージャーがオフィスに対面で集まって、直近の抱えてる悩みとかを私も含めて話し合ったりしてます。
他にも1on1とか、業務にまつわる会議がもうたくさんあって。
そこでマネージャーの悩みだけじゃなく、私が経営の悩みとか葛藤を話すこともあって、「あ、わかる」とか「それ超悩みますね」とか同じ感覚を共有するんですよ。
私やみんなが自己開示して「反対意見とかマジで教えて」って言えたり、それにちゃんと一緒に意見出し合っていけるようになったら、一緒にひとつの物事を肉付けしていく感じの作業になるんですよね。
みんなが率直に自己開示して話せる関係性ができて、それを維持できる仕組みもある。
これ、多くの組織で「ウチもそうなりたいけど、無理だなあ」ってなることが多いと思うんですけど、なんでクラシコムさんはその関係性がつくれてるんでしょうね?
たくさんしゃべってるからですかね。
特にマネージャーとは向き合って、本当にたくさん悩みや不安を話していて家族より会話量が多いかも(笑)
マネージャーには「経営からのメッセージ」ではなく、私個人という人が人に伝えるというのを大切にしていると思います。
「なんか最近こういうお客さんの動きを感じて私も不安になってるんだよね」とか話すとマネージャーは私の悩みに人として私に向き合ってくれる。
多分、そういう人と人との会話が成立するっていう状況にしないと、みんなが経営者の私に言われたことをするだけになっちゃうと思います。
そうか。さきほど佐藤さんが「ていねいにていねいにちゃんと相手と向き合って話をすることがマネジメントの仕事そのもの」っておっしゃってましたけど、マネージャーがそれを実践できるのは、佐藤さんに向き合ってもらっているって感覚があるからなんでしょうねえ。
経営者がそれを手を抜かないってのも、そう簡単じゃないと思うけれど……。
マネージャーが「手一杯」と言ったら絶対に信用し、評価も下がらない。健やかな忙しさがチームや事業の成長につながる。
ひとりひとりに気を配って対話する。
言うのは簡単ですけどマネージャーがクソ忙しい組織だと、実務を回してるうちにそういうことできなくなるじゃないですか。
クラシコムはこんなに業務の種類・量ともに多い事業をやっていて人数も多いわけではない……。
これ、どうやって回してるんですか。
私もみんなも正直とっても忙しいし、いろんな仕事を抱えてて、カレンダーは埋まりっぱなしになってます。
そうやってマネージャーがとっても忙しいっていうのは良いことだと思ってるんですけれど、健やかにいられる忙しさを超えていないかは常に気にしていますね。
健やかにいられないほど忙しくなるミッションを与えてしまったり、売上を優先するあまりチームのキャパを超えることをやろうとしていると、Slackのレスポンスがないなとかちょっとおかしなことが増えるんですよね。
そういうことを見つけて、それこそちゃんと向き合って状況や悩みをちゃんと言ってもらう。
他の予定をリスケしてでも、ケアやサポートをするようにしています。
それくらい「健やかでいられること」は優先度の高いことだと思ってやってますね。
これもやっぱり、オペレーションマネジメントの中でリソース管理を徹底しているというのがあると思います。
トヨタの生産方式にアンドンっていう仕組みあるじゃないですか。
あれは誰でも作業ラインまるごと止めちゃっていい。
で、結局そうやって作業を止めちゃった方が全体ではスループット上がるわけじゃないですか。
アンドン
アンドンは流れ作業のような異常を他者に知らせにくい生産ラインにおいて、異常を他者に伝えることを目的としている。不具合の後工程流出を防ぐためであったり、生産ラインが抱える問題の顕在化(見える化)のためであったりと様々な目的を有する。
アンドンという言葉は日本の製造業が日本国外から研究された際に重要な要素の一つとされ、結果世界中の工場へと広まっていき、日本語以外でもAndonとして通用する言葉となった。
アンドン – Wikipeda より引用
作業にあたってる人は「もっともっと」を求められてると思いがちですもんね。
「ブレーキ踏んでいいんだよ」って言ってもらえて、実際にブレーキ踏める組織なら、長期的には効率が良くってことですね。
そうそう。
マネージャーが「もう手一杯です」って言ったときに、「あいつ仕事できないな」って 評価下がるなんてことがあったら、みんなブレーキ踏まなくなるでしょう。
マネージャーがそう言ったら、評価が下がるどころか「言ってくれてありがとう」って感謝して「じゃあどうしようか」と佐藤とマネージャーがやりくりを考える。
数字下がってもいいし、できないことなら無理しても仕方ないから止めてもいい。
精一杯やってくれてるんだよねって信頼できる人しか採用していないんだから、マネージャーが「厳しいです」ってアンドン引いて止めるなら、それを信用する。
「本当はもうちょっとできるのに保険かけてねえか?」なんてのは絶対に言わないし、言ったことない。
ぐわーーーそれマジ刺さるなあ。
「本当はもうちょっとできるのに保険かけてねえか?」って信頼が崩れるようなを言わないから強いんだ……。
「これは無理そうです」ブレーキを踏んでいいチームだから信頼関係が成り立つ。
とはいえ、仕事の見積もりってベテランでも下手だったりするじゃないですか。
「やれると思ってるけど、できない」もあれば「本人は本気で余裕がないって言ってるけど、無意識にバッファをとってる」みたいなのも、よく見かけるわけで。
人によって余裕を取り過ぎたり、できないくらいカツカツでも仕事増やしたりみたいなブレがあるのに、その人をそこまで信頼するのって難しいようにも思うんですけど。
うちでは、見積もりを求められるんですよ。
入社したら、くりかえしくりかえし見積もらされるというか。
マネージャーの「標準的にはこのぐらいでやれる」って感覚とすり合わせてもらって、「標準的にやれる時間に近づける方法はこうじゃないか?」「一回、それでやってみます」みたいなのを繰り返す。
途中経過で「やっぱもうちょっとかかりそうです」って言われたら、マネージャーが「もうちょっとっていうのは、具体的にどれくらい」って確認します。
「作業を組み替えてみたり順序を変えたらどうか」みたいなフィードバックが、もう日々、全方位すべての部門で行われてるから、見積もりの訓練をずっとしているみたいなものですよね。
身体的な知性の習得だ。
これもまた蛇口を開ける塩梅と一緒の話なんですね。
保険をかけすぎず、絶対できないような非現実なスケジュールにもしない、ちょうどいい見積もりを出すことは、入社時からずっとやることになります。
2年くらいはみんな苦戦するポイントですね。
さらに、マネージャーになったら、自分だけじゃなくてチームのリソースを見積もるようになって、私と何度もチーム全体の見積もりをすり合わせするようになります。
徹底的に身につくまでやるんだ。
リソース管理の鬼すぎて笑っちゃうくらいすごいな(笑)
なにがすごいって「与えられた目標を頑張れ」じゃなく、「しっかり見積もれ、工程から工夫できるところを探せ」ってのを身に染みるまでやってるとこですよ。
そうやって見積もりが上手になってもらうためにも、スケジュールにコミットメントさせないってことがすごい重要なんですよ。
「させない」のか。さっきのアンドンの話と同じですね。
期限を動かす権限がないのに責任を持たされる環境で育ったら、言われた目標をただ受け入れて頑張っちゃう人になるから、見積もりはうまくならないし、クラシコムが大切にしているサスティナブルでコンフォートな仕事ができる人になれない、と。
だからリスケの要請があったら、絶対にはねつけない。
やっぱりもう少しかかる、となれば「じゃあどうしようか?」と一緒に考え、話すんですよ。
最初はみんなうまくいかないですよ。
10日かかる予定だったものができないと、10日目に「やっぱりできません」って言ってくる。
それだと「報告が遅い」と上司にフィードバックされるから、次は5日目くらいに「できません」って言うんで今度は「早いよ」って返される(笑)
入社したみんながまず混乱するんですよ。「じゃあどのタイミングで言ったら良いんですか」ってなる。
そこで、マネージャーがちゃんと話すんですよ。
「10日経ってからあと2日くださいって言ってきたら、売上計画も変わるし、 他の部署にも迷惑がかかっちゃう。
何日目なら正解とかではなく、このプロジェクトの場合はこういうことを考慮しないといけないから早く言ってくる必要があります」としっかり説明をする。
それを理解して次の機会に実践してくれたら「今回はちゃんと言ってくれたね、ありがとう。できるようになったね」っていう感じでフィードバックをする繰り返しですね。
「身体的な知性の習得に時間をかける」と「人として向き合う」を徹底している……
スケジュールにコミットしないでいいんだ、リスケ要請は絶対にはねつけられないんだ、って安心が得られるから、みんなそれができるようになるんですよね。
みんなが自己防衛しないといけないなら、バッファをとらないと身を守れないし、人間関係で派閥を作ろうとする。
組織はその保険や負債が積み重なって余剰人員が増えていく。
フジイさんの「他ではできてないことが何でできるんですか」って質問に答えるならば、無理して頑張ることで潰れちゃったり手戻りしながらやるよりも、時間かけてていねいにやって手戻りが少なくすると遠くに行けるねってことをみんなが「身体的に理解してる」からじゃないかなって思いますね。
まとめ: 時間をかけてつくられたコンフォートさが成長につながる。
■ オペレーションやリソースマネジメントを徹底しているが、オペレーションを型にしてひたすら量をこなすというものではなく、ひとりひとりの「身体的知性」の習熟を重視して、社員ひとりひとりの自分らしさとオペレーションの融合ができている。
■ 徹底的に人と向き合って話す文化で、チームメンバーに配慮をしながら上手な自己開示、自己肯定できている状態を全体につくりあげている。
■ 「健やかな忙しさ」のために、社員を信頼している。信頼できる状態の維持を徹底している。
全てにおいて「手を抜いていない」のに「無理をしない」を両立させ続けている。
無理をしてでも突破していくという安直な答えを出すことなく、クラシコムではひとつひとつの仕事で「無理はしないが手は抜かない」ことが身に染みるまで、時間をかけて時間をかけて身体的知性を身に着けていく。
我々は、仕事のなかで無理をしてでも突破していくという頑張り方しかできなくて遠回りしているのかもしれないな、と考えさせられるインタビューでした。
株式会社クラシコム
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2023年6月