成果が出せるやつらだけでチームを組んだら、何が起きるのか―――株式会社MOLTSのチームコミュニケーション
様々な有名企業のマーケティング支援をしている株式会社MOLTS。
「ミッション達成(成果)だけが価値」を標榜し、クライアントの事業成長に徹底的にコミットするための会社づくりをしているとのこと。今回はそんな知る人ぞ知るMOLTSがどんな組織なのか、そしてどのようなコミュニケーションスタイルなのかを、株式会社MOLTS代表の寺倉さん、グループ会社である株式会社月曜日のトラ代表の西さんにお聞きしました。
寺倉 大史(株式会社MOLTS 代表取締役)
1987年、京都生まれ。立命館大学を卒業後、経営コンサルティングファーム、藍染師を経て、2013年から株式会社LIGでメディア事業、人事、執行役員を歴任。2016年3月に株式会社MOLTSを設立。
以前は「そめひこ」を名乗っていた。
西 正広(株式会社月曜日のトラ 代表取締役)
1983年生まれ。電通デジタルを経て2019年よりMOLTSに参画。2020年よりMOLTSグループのKASCADE取締役、2023年より月曜日のトラ代表取締役。
データに基づくサービス改善、ビッグデータ活用、データドリブンなマーケティング組織の構築を支援する。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。
企業理念「美味い、酒を飲む。」の実現のため、2030年の解散を目指す。
MOLTSさんのWebサイトを見ると、 企業理念が「美味い、酒を飲む。」で、ミッションが「2030年、頂の景色を見ながら解散。」って書いてあるんですよね。
ちょっと意味わからないんですけど、これどんな会社なんですか(笑)
MOLTSは、「デジタルマーケティングカンパニー」って言ってるんですけど、決まったパッケージでこれをやろうとか決めてなくて。
マーケティング戦略といった戦略立案から、オウンドメディア、デジタル広告、アクセス解析やBIツール、データ分析、リサーチなどのいろいろな領域のプロが集まって、クライアント企業の課題解決をしている会社ですね。
MOLTS本体はいま30人弱くらいの規模ですが、私はグループ会社でデータ分析を専門にする『株式会社月曜日のトラ』の代表もやっています。
この規模で、本体とは別に子会社をどんどん作っているのも特徴だと思います。
企業理念やミッションはぶっ飛んでるけど、仕事はちゃんとしてるんですね!
MOLTSのWebサイトに書かれた実績をみたら、上場企業や大企業との仕事が多いんだなあというのが印象でした。
何より、どんな成果を出したかを書いてるのって、意外とめずらしいですよね。
MOLTSは、1人でも生きていけるレベルの、独立していたり、他社ならマネジメント職やってるようなメンバーをそろえて、クライアントの課題解決に取り組んでいます。
おかげさまでスタートアップから大手まで、沢山の企業からご相談いただいています。
ただ、「ダサイことはやらない」というのを決めていて、売上を立てるために介在価値がないプロジェクトに入ったりするみたいな仕事の選択はしないようにしてますね。
「美味い、酒を飲む。」というのも、良い仕事をして、圧倒的な成果を出して、みんなで祝杯をあげようぜってことを大切にしてるから本気の企業理念なんですよ。
支援会社としては当たり前のことなんですが、それだけを純粋に体現することだけを目指そうと。
プロセス支援とか技術提供をするんじゃなく、俺たちは成果を出すぞというプロの信念からの「美味い、酒を飲む。」という理念なんですね。
言葉の印象に対して、想いがガチでちょっとビックリしました。
2030年の解散を目指すっていうのも理由があって。
ビジネスをむちゃくちゃ頑張って駆け抜けて、世界で一番美味い酒飲める状況を作るとしたらどうしたら良いかなと考えたときに、期限を設けたらいいのでは?って思ったんですよ。
30年間か50年間か、いつまで続くか分からないことって、いつか頑張れなくなりそうじゃないですか。
僕も今のメンバーとずっと一緒にやるのは性格的にイヤで(笑)
でも、「西さん、2030年まで一緒にやろうよ、2030年でどこまで美味い酒が飲めるか挑戦しようよ」と言うと……
2030年まで一緒にやろうよ、と期限がついていることで、「それまでこいつらと頑張るか」となる(笑)
解散までと区切りを設けることで、いま頑張る意味が発生するのか。
すべてに意味があって、経営手法としてやってるんですね……
長く続けた方が良い生活ができるかもしれないけど、メンバー個人がみんな力ある人たちなんだから、生活のために稼ぐだけなら独立してやればいいじゃんと。
2030年という期限まで切磋琢磨して、一緒に美味い酒を飲むための仕事やろうよという人たちが集まってるのがMOLTSですね。
「ちゃんとしてる人と働きたい」仕事のできるプロに選ばれる会社。
私はデータアナリストなんですけど、分析レポートを出すだけならどこの会社に所属していてもできるんですよね。
ただ、クライアントに分析に合わせた正しい改善を実行するところまで責任を持ちたいなと思っても、大きな組織に所属していると責任を持てないことがある。
施策実行に複数部署を巻き込もうとしても、部署ごとの事情があったりして理想的な施策実行ができず「こうすると良いですよね」といった提言ぐらいにとどまってしまったりとか。責任を持った仕事ができない場合があるんです。
MOLTSは、他社でマネージャーやってた人たちとか、起業していた、またはしたいと思っている人が集まってるんですよ。そういう成果を出し続けることが当たり前な人たちのみが気持ち良く働ける組織を作ってるんですね。
マネージャークラスが社内調整することもなく、他のメンバーを面倒見ることも不要で、プレイヤーとして成果を残してなんぼということだけに集中できる。
稼いだらその分のインセンティブが増えるし、成果を出せない人はすぐ辞める。
ちゃんとしてる人たちと働きたいってなってMOLTSに入ったんですよね。
成果を出すことに責任を負ってる人たちであること、高い技術力や専門性がある人たちが集まっていることで気持ちよく仕事ができる。組織規模が違うことでの小回りの良さだけではなくて。
プロフェッショナルが自分の持ち場で成果出すことに集中できる環境で、自分の領域じゃないところもプロとして信頼できる仲間がいて、背中を預けられる。
プロアスリートの集まりみたいなチームですね。
さっき話した「ダサイことはやらない」に近いと思うんですけど、つまらない理由でできない・やれないとか言うの、ちゃんとクライアントに対して成果を出すことに責任を持った仕事とはいえないし、それじゃ美味い酒を飲める仕事にならないんですよね。
ひとりで独立しても稼げるのに、そこに共感してMOLTSという会社に所属することを選んでいるメンバーだからできるというのはあると思いますね。
誰しも、そうやって能力の高いメンバーと一緒に仕事したらどうなるだろうって考えることあるでしょうけど、それを実現してるんですね。
ただ、そのすごいすごい能力を持った他のメンバーから信頼されるくらいの仕事をできないと辛そうですね(笑)
そうですね。
MOLTSに入社したから仲間、っとは多分誰も思ってなくて……正直、離職率は高いんですけど、良い組織を維持するには「MOLTSという生態系に環境適応できるやつで一緒に仕事やろうぜ」ってスタイルを変えずにやらざるを得ないと思ってるんですよ。
この環境に適応して楽しめる、かつ目指す方向が一緒の奴らが仲間だよね、と。
正直、この話を聞くまでMOLTSさんのことは少人数だから上手くいってるのかなと思ってましたけど、そうじゃないんですね。
組織としての目的があって、それを実現するために高い品質を維持して気持ちよく仕事するための組織があって。仕組みとして歯車がガッチリ噛み合ってる。
すげー尖った組織づくりを緻密にやってますね……。
給与は欲しい額を自己申告。
メンバーの報酬はそれぞれ自分で欲しい金額を決めてもらっています。
ひとりでも稼げるレベルの人たちの給料を会社が決めるのはやりたくなかったので、「年収1000万円欲しいなら必要な売上総利益は◯◯円、それを超えた分には追加でいくら出すね」と自動で計算される感じで。
特に評価制度とかはないです。
すごい仕組みですね……!
その、どのプロジェクトにアサインされるかとかで稼げる売上とか変わると思うんですけど、案件の割り振りはどうやって決めてるんですか?
指名でお声がかかってたり、お問合せに手をあげて対応したりもありますが、基本的には他のメンバーから声がかかる感じです。
「このプロジェクトには解析系が必要だから西さん入ってよ」とか「オウンドメディア伸ばせるやつが必要だから寺倉さん来てよ」とか。
あ、もしかして信頼されない人は声がかからない……?
入社したメンバーにとって最初の課題は、自分を社内メンバーに売り込むことになるんです。
自分が何ができるのかみんなに知ってもらって、仕事に呼んでもらえるようにする。会社がその人を知ってもらうための場を用意することもしません。
マーケティング支援に入るのに、最小単位である自分のポジションを社内に作れない人が、クライアントに価値提供できるとも思えないんで。
あー、信頼を得ないと仕事が回ってこないし、自分が信頼している人と自分を信頼してくれる人のチームになるようになってるんだ……
とはいえ、希望した給与に見合った売上総利益を立てられなかった人っているはずだと思うんですけど、評価制度ないんですよね?
希望する給与をもらったまま仕事しない人が出たりはしないですか?
採用時に絞ってるのもありますけど、そういう人は辞めちゃいますからね。
補足すると、自分で決める報酬とそれに見合った目標はあるけど、会社がノルマを課すってことはないです。会社としての売上・利益目標もないから、それを分担するということもない。
成果が伴わない人は、居心地が悪くなって会社を辞めていきますね……。
あ。他の人から信頼されず、案件にアサインもされないままだと辛くなっちゃうのか……。
売上も給与も社内には全公開されているので、宣言通りに成果を出せているのかは常に社内メンバーからも見られるんですよ。成果を出せている人かどうかはすぐわかっちゃいますからね。
言ってることに成果が伴わない人は辞めていきます。もちろん、成果をバリバリ出していたけれども、方向性の違いから退職する人もいますが。
ちゃんと仕組みとして歯車が噛み合ってるのがすごいですね……!
強い人が集まって個々で好き勝手やってるわけじゃなくて、本当にプロアスリートのチームのようになっている。
突き放しているわけではなくて、あらゆることを聞かれたらちゃんと答えるようなコミュニケーションスタイルにしています。
だから上手く成果出せないとか、案件を振ってもらえないとかで困っているときは、上手くいっているメンバーに聞けばちゃんと答えてくれます。
MOLTSは自立しているプロの集まりなんだから、自ら聞くなり動くなりしろってことですよね。
言わないと動けないような人はあまり入ってこないし、入ってきても辞めていなくなりますからね。
会社が活躍する場をつくるんじゃないんで、プロなんだから各自で活躍してくれよと。その上で、お互いプレイヤーとして高め合っていこうぜと。
あと、カルチャーとして「同情禁止」というのも、掲げています。
MOLTSでは、リソースが空いている人に同情してアサインすることを禁止しています。
それはクライアントのためにも会社のためにもならないから。
「美味い、酒を飲む」には圧倒的な成果を出すことが必要で、そのためには各案件にはベストなメンバー構成でコミットしないといけないんですよね。それが社内なのか、社外なのかも関係なく。
ああー。
厳しい環境に見えるけれど、成果を出すために信頼できる仲間と気持ちよく仕事できる仕組みがそろってるんですねえ。
個人の満足度が高いだけで成果を出してないやつがいたら、自然に相手されなくなる。
成果を出してクライアントに迷惑かけないなら、基本的にどれくらい働くかとかも含めて、みんな大人なんだから自由にやれば良いと思うんですよ。
今年30歳になったメンバーがいるんですけど、彼は週3日くらいしか働いてないんじゃないかな。
前聞いたら働いてない時は川に行って本を読んだりしている。
その人が週3くらいしか働いてないの、西さんは今まで知らなかったんですか(笑)
成果が出せてるなら自由なんで、お互いがどのくらい働いてるかとか、そんなに知らないかもしれませんね。
俺も知らなくて初めて聞いた時びっくりしました(笑)
とはいえ、成果を出すためにゴリゴリにやってる人もいますし、それぞれのやり方でやってるだけだと思います。
自由に働けて個人の満足度が高い、ただ成果が出せてない人がいたら信頼されないので相手にされなくなる。
他の会社ならそんなコミュニケーションはダメなんでしょうけど、独立したら当たり前の話でしかなく。そして、MOLTSは大人同士だからこその対等な関係性があると思ってます。
だから、この環境でやっていけない人たちを無理に引き止めたりしないですし、辞める人はすぐに辞めていきます。合う人には天国、合わない人には地獄、みたいな極端な組織だと思います。
そんなパワフルで優秀な人たちを採用するのって、どうやってるんですか?
半分はリファラル、半分はWantedlyでのスカウトっすね。
えっ!?ここまで尖った組織つくってるのに採用は普通すぎない!?!?(爆笑)
ここ、今日イチ笑いましたよ。
実は、「業界でいう優秀な人」を採用しようとしてるんじゃないんですよ。
優秀さって人や会社によって定義バラバラですけど、MOLTSでは環境適応できたら優秀な人ってことにしていて。いろいろありましたが、今はこの環境で楽しめそうな人を採用していますね。
そして、ちょっとMOLTS違うなって思ったら、そのまま独立すればいいだけの話。
退職者の大半はそのまま独立する人なので、独立するなら一回 MOLTS味わってみたら?って感じで採用活動しています(笑)
まとめ: 理念を徹底するとはこういうことか……
取材はMOLTSのオフィスにお邪魔しました。一軒家を購入してオフィスにしていて、いまは出社1-2名/Dayくらいだそうです。
正直、お話を聞くまでは、たまたま上手く噛み合って成果が出せているタイプの会社なのかな……と思ってしまっていましたが、実際のMOLTSは「会社の存在意義」を定義し、その目的を実現するために「ガチの成果主義」を実行しつづける経営を徹底していて、それによって仕事が増えて、売上/利益も成長し続けている。
そして、その「ガチの成果主義」を回し続ける実行力のあるメンバーだけが生き残るような仕組みが徹底しつくされています。
「調整ごとがいらない仲間とだけで働いたら、気持ち良く仕事できそう」というのは考えるだけなら誰でもできますが、コミュニケーション設計の緻密さ、全てが噛み合っていることなど、実現のためにやっているあらゆることが衝撃です。
ミッションやビジョンが、後付けのタテマエになってしまう会社が多い中、「美味い、酒を飲む。」というシンプルな理念に向かってここまで(本当の本当に徹底して)取り組めているチームがあるとは……。
仲間に安心して背中を任せることができる、自分の持ち場で全力を出せる。
「美味い、酒を飲む。」に向かって本気で取り組むことで、そんなプロスポーツチームのような組織を実現しているMOLTSという会社のすごさを知ったインタビューでした。
株式会社MOLTS
株式会社月曜日のトラ
オフィスにやたら立派な庭があったので、そこでも少しお話させていただきました。
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2023年4月