Agend(アジェンド)

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「よなよなエール」ヤッホーブルーイングの『飛躍的な成果』を出すための企業文化とコミュニケーション。

見出し画像。ヤッホーブルーイングの長岡さんが自社のビールを前にポーズをとる

「よなよなエール」で知られ、日本のクラフトビール業界を盛り上げてきた株式会社ヤッホーブルーイング。実はとてもユニークな組織コミュケーションの文化や仕組みをもった会社としても知られているのはご存知でしょうか。

今回はそんな地ビールブームから不遇の時代の紆余曲折を経て、創り上げられてきた独特の組織コミュニケーション文化についてお話いただきました。

記事の終わりに面白い体験を短い動画にしたオマケもありますので、最後までお読みいただければうれしいです。

ちょーさん


長岡 知之 / ちょーさん

株式会社ヤッホーブルーイング ヤッホー盛り上げ隊 ユニットディレクター。
新卒で株式会社星野リゾートに入社。人事部門で経験を積んだ後、グループ企業の株式会社ヤッホーブルーイングに移籍。建て直し直後のヤッホーブルーイングの現場の経験を経て、働きがいのある会社づくりに注力。

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。

地ビールブームの失墜でどん底を経験したから、いまのヤッホーブルーイングがある。

フジイユウジ

ヤッホーブルーイングさんといえば、「よなよなエール」をはじめ「インドの青鬼」「水曜日のネコ」「正気のサタン」といったユニークなクラフトビールで有名ですよね。
いまや、どこのビール売り場に行っても見かける最大手のクラフトビールメーカーだと思いますが、ヤッホーブルーイングについてあまり知らない方向けに、どんな会社かをあらためて教えていただけますか?

私たちは、ビールが好きな方に「ささやかな幸せ」をお届けするってことを大切にしていまして。
自分たちをビール製造販売業だと思ってなくて、ビール自体は「ささやかな幸せ」をお届けするキッカケと考えて、最近ではビールを中心としたエンターテイメント事業の会社と言ってます

ちょーさん

棚にならぶ様々なグッズ

ファンが作って送ってくれた、手作りの「よなよなエールグッズ」や、イベント報告など。楽曲を作って送ってくれている方も。

フジイユウジ

今日は、そんなヤッホーブルーイングさんの社内コミュニケーションについてお話を伺いたいと思っています。
多くのファンを生み出すほどの製品やブランドの世界観を作り上げているのは「独特の組織があるから」と他のメディアや新聞などでも取り上げられていますよね。
そこまで組織文化やコミュニケーションを大切にする会社になったのは何故なんでしょう?

今でこそ、多くのお客様に製品をお届けできていますが、どん底の時代というのがあったんですよ。
ぜんぜん売れなくて、作ったビールも廃棄して、チームもひとつになるどころか社内の雰囲気は最悪。そして、人がどんどん辞めていく。
何か問題があると、課題を解決するよりも犯人探しが始まってしまう……。
現在のヤッホーブルーイングとは完全に真逆の会社をイメージしていただければ。

ちょーさん

フジイユウジ

先程、ぼくたち(Agend取材班)がオフィスに入らせていただいた際に、社員のみなさんから大歓迎をしていただきましたけど、まさに明るく楽しい健康的な職場って感じでした。(※この記事の最後に動画があります)
このインタビュー中も、オフィスの中から楽しそうに仕事をしている活気あるやりとりが聞こえてきますし。
この雰囲気からは、そんな暗い時代があったなんて想像すらできませんね(笑)

そのときの経験があるから、絶対にまたあんな状態にしたくないという強い思いが働いて、メディアや他社の方が驚かれるほど組織文化やコミュニケーションを徹底して大切にしているんだと思います。

ちょーさん

「質の高い打ち手」と「実行力」を生み出すために、良質なコミュニケーションが必要だった。


フジイユウジ

どん底から、またそうならないように徹底して頑張れたとのことですが、その状態からどう抜け出したんでしょう。
頑張るだけではこんな飛躍的な成果は出ないと思うので、どう頑張ったかのところを教えていただければ。

「飛躍的な成果」を出すためには2つの重要な要素があって。
ひとつめは「質の高い打ち手」。
ふたつめは、それを「実行する力」だと思います。
しかし、 「質の高い打ち手」は、十分な議論と合意形成がないと出てこないし形にならない
そして、「実行する力」は、みんなの納得感やチームワークの発揮がないと生まれない

ちょーさん

飛躍的な成果についての解説スライドを指差す、ちょーさん

フジイユウジ

おお。そこでチームコミュニケーションの話になるわけですね。
飛躍的な成果のための「質の高い打ち手」と「実行する力」を生み出すには、良質なコミュニケーションができるチームであることが必須条件だ、と。

そのコミュニケーションを生み出すためにやっている「チームビルディングプログラム」っていうものがありまして、共通の目的に向けてチーム一丸となって取り組むアクティビティをやるんですよ。
みんなで共通の目的を達成したくても、同じ目標を見ていないと行動がバラバラになるとか、お互いの立場や前提をそろえないと意見がすり合わないとかを体験できるんですね。
実際の職場でも、なにをしたら悪いことが起きて、何をしたら良くなるのかわかるわけです。

ちょーさん

フジイユウジ

「率直に意見を出し合えたから、質の良い打ち手が出たのだ」とか「チームワークが発揮されたから実行する力になった」みたいなことを体験していない人には、いくら言葉で伝えてもわかるはずはないから、業務ではないところでアクティビティとして体験してもらうんですね。
飛躍的な成果を出す状態がどうしたら生まれるのかが、ロジックではなく体感として理解できる。

もともとは、てんちょ(代表取締役社長の井手さん)が、楽天大学でチームビルディングを体験してきたんですが、もう、ものすごく衝撃を受けて帰ってきて。
「今のヤッホーブルーイングに必要なのはこれだ!」と興奮気味に話していて、そこまで言う何かがあるんだなと思いました。
でも、最初の印象は「この得体の知れない怪しい研修はなんだ」っていう感じなんですよ。

ちょーさん

フジイユウジ

得体の知れない研修(笑)
ワークショップ系の研修って社員にそう思われがちなところありますよね。

ちょうど、私はヤッホーに入社したばかりだったんですが、その頃はみんな自分のことで精一杯だし、会議の場で誰も意見しないといった感じで……。
そういうのを何とか変えたいと思っていたので、私自身がヤッホー内のチームビルディングプログラム1期生として参加したんですね。
そこで、「共通の目的に向かって何かをするっていうことは、こういうことか」と、てんちょと同じ気持ちになったんですよ。
参加したい人がやらないと効果が出ないので立候補制なんですが、参加済みの人を見て「自分もやってみたい」と連鎖していって、今やほとんどの社員が何かしらの形で参加しています。

ちょーさん

フジイユウジ

任意参加なのに、ほとんどの社員が。
社員のみなさんも職場の雰囲気の良さをつくる源泉だってことがわかっているんでしょうね。

※チームビルディングに関しては、後日公開の別記事でも取り上げる予定です。

コミュニケーション施策を「マップ化」する効果。


フジイユウジ

コミュニケーションマップという、多数のチームコミュニケーション施策を並べた図を公開されていますよね。
こういう施策はどこの会社でも少しくらいはやっているものですけど、ここまで網羅的に徹底してコミュニケーションの穴を埋めようとしている会社は、そうないと思います。

コミュニケーションマップ図

「質←→量」と「大人数←→少人数」のマトリックスにして、コミュニケーション施策が大量にマッピングされているコミュニケーションマップ(ヤッホーブルーイング提供)
個々の施策は、よくあるものから独特の変わったものもあり、少人数から大人数、量だけではなく質といった感じで網羅されていることが特徴。

そうですね。コミュニケーション量を増やすとか、質を高めるとか、とにかく色々なことをやっています。
例えば、参加メンバーをシャッフルして雑談する朝礼があるんですけど、それまで話したことがなかった人と共通の好きなことがあるのがわかったりとか。
そういうキッカケでもないと、普段の仕事で関わることが多い人たちだけでコミュニケーションしてしまうので。

ちょーさん

仕事時間に敢えてムダ話!チームで働くヤッホーブルーイング流 雑談朝礼

フジイユウジ

施策ひとつひとつを見れば「こういうのウチもやったよ」とか「やったことあるけど、効果なかった」っていう会社も多いと思うんです。
このコミュニケーションマップのすごいところは、よくありがちな「コミュニケーション量を増やす施策」だけではなく「質を高める施策」などをマトリックスにして漏れなく実施できるようにしてることですよね。

大人数との機会を増やしたら、少人数もやったり。
シャッフル朝礼のように関わりが少ない人とのコミュニケーションを増やしたら、普段の関わりが強い人たちとより深く話す機会を作ったり。

ちょーさん

フジイユウジ

なるほど。
量も質も大切にというお話でしたが、雑談にテーマを限定した朝礼は、特にヤッホーブルーイングらしい文化を生み出すのに効果を発揮していそうですよね。
人は誰しも相手がどんな反応をするかわからないとコミュニケーションにブレーキをかけてしまうから、一緒に働いている人たちを知ること、気軽に話せる人を社内に増やすことを大切にしている感じが伝わってきます。

新卒でも誰でも「自分の意見を言える」ようになる仕掛け。


フジイユウジ

ここに来てまだほんの1時間くらいしか過ぎてないんですが、みなさんのホスピタリティあるコミュニケーションや、このオフィスの雰囲気に「これは、すごい職場だ……」と圧倒されています(笑)
中途入社された方が、他の会社で経験したことないような職場に驚かれたりしませんか?

新卒とか若い子がめちゃくちゃエネルギッシュってことは驚かれますね。
相手が誰だろうと、自分が新卒だろうと意見をしっかり言うので「いままで働いていた会社ではありえない」と中途入社された方がビックリする。

ちょーさん

フジイユウジ

元気にチームでワイワイやってる会社だとわかって入社してくると思うんですけど、それでも驚くんだから、よっぽどですね。

新卒入社した方は、逆に「え?全然普通だけど」みたいな顔してるんですよ(笑)

ちょーさん

笑顔のちょーさん

フジイユウジ

これ、コミュニケーションが活発な職場づくりの良いモデルケースだと思うんですけど、どうやってそんな良い状態を実現してるんですか?
新卒に限らず、若手は「先輩や上司には意見しない」みたいな態度をとってしまいがちだと思うんですけども。

入社前の会社説明会から、入社後の研修に至るまでヤッホーがどんな職場かを伝えることに時間を割いていますね。
ただ、なにより効果があるのは、実際にやってみる体験です

ちょーさん

フジイユウジ

実際にやってみる体験……?

入社したばかりって、知らないことやわからないことだらけですよね。
それを自分で拾いにいって埋められるようになることが大切なので、新卒は入社時の研修で実際にやってみるんです。
「こういうことは誰に聞いたらいいんだろう?」とか「○○はどういう理由でこうなっているのか」って疑問に思ったことを先輩社員にインタビューしてまわったり、全社員にアンケートを送ったり。

ちょーさん

フジイユウジ

あっ。実際にやってみるってそういうことか。
これ、ちゃんと体験が設計されているの、すごいですね。
わからないことを聞いても、自分の意見を言っても怖くないってことを体験できるようにしてある……。
めちゃくちゃすごいのでは?

質問されたり、アンケートの回答を頼まれた先輩社員たちは、親身になって回答するし、一生懸命に伝えようとしてくれる。
みんな自分たちも苦労したとか経験があるし、入社したばかりの人が頑張ろうとしているのは応援したくなるから、アンケートの質問とかに「もっとこういう質問のやり方がいいよ」とか「もしよかったら詳しく教えるからいつでも来てね」とお節介も焼いてくれる。

ちょーさん

フジイユウジ

うおお。コミュニケーションの質も量も体験できるように設計されてるんですねえ。
先輩とか上司に「聞きに行くのが怖い」とか「変に思われるんじゃないか?」みたいな気持ちになることもなく、「こんな単純なことを聞いてもいいんだ」とか「こうした方が良くないですか、って言っても良いんだ」ってのを自動的に経験できるわけですよね。
話したことない人も減るし、先輩社員にとっても新人に優しくできる機会だし(笑)

ここで、インタビューに同席していた研修中の新卒社員の方が立ち上がり……

ちょうどいいのがありました!
(ノートPCを持ってきて、画面を見せながら)
実際に私は研修でこんなアンケートを送ったんですけど、初日から先輩社員の方たちがバンバン回答してくれたんですよー

べってぃー

フジイユウジ

おおおお。いま、ぼくはヤッホーブルーイングの組織文化を体験しちゃいましたよ……。
社外から来た初対面のおじさんが上司にインタビューしてるところに、自発的にスッと横から「これ見てください」なんて言える研修中の新卒社員、いないですよ、普通の会社には。
すごいな、本当にすごい(興奮)

広報の3人が並んで手をひろげた、明るく元気な写真

同席していたヤッホー盛り上げ隊(広報)のみなさん。
驚くフジイを見て「こんなことで褒められるなんて思わなかった」と爆笑していました。

フジイユウジ

本当に若手からベテランまで、明るく健康的なコミュニケーションを取っていて、すごいですよね。
いまので、ともかく感じが良い人たちが素直なまま働ける会社なんだと心から感じました。
オフィスに入ったら社員のみなさんから盛大に歓迎されたし、今日は良い意味で「企業文化でぶん殴られてる」って感じる取材になってます(笑)

どうして、ここまで徹底してチームやコミュニケーションにこだわることができたのか。


フジイとちょーさんが笑いながら話している


フジイユウジ

他の会社でも「チームビルディング研修をやりましょう」とか「質・量ともにコミュニケーションを設計しましょう」ってことを始めることはあると思うんですけど、なかなか「飛躍的な成果を出せる組織」には至らない。
つまり、多くの会社では、質の高い打ち手と実行する力がそろったチームになるまで徹底しつづけることができないんだと思うんですよ。

たしかに、ここまで徹底して成果が出るまで続けるっていうのは、なかなかできないんじゃないかと思いますね。
短期で成果があらわれるものではないですし、ヤッホーブルーイングも種をまいて芽が出るまで3年ぐらいはかかりました。

ちょーさん

フジイユウジ

どうしてヤッホーブルーイングは、それをやり切って、今でも継続できているんだと思いますか?

つくったビールを廃棄するほどの赤字を経験して、チームの雰囲気すら良くない、会議でもみんなしゃべろうとしないという最悪の経験をしたからだと思います。
その経験があるからこそ、またもとに戻りたくない、絶対に「飛躍的な成果を出せる組織」であり続けるんだという強い気持ちを持てているんじゃないでしょうか。

ちょーさん

まとめ:

チームビルディングやコミュニケーションマップなど、素晴らしいチームづくりの工夫のあるヤッホーブルーイング。
ここから素敵なビールが生まれ、それが多くのファンに喜ばれているのも納得です。

「どん底の時代に戻らない、飛躍的な成果を出すチームでいる」という強い想いを駆動力にして、飛躍的な成果を出せる明るく元気な職場をつくりあげています。

■ 飛躍的な成果を出すためには「質の高い打ち手」と「実行する力」が必要。
■「質の高い打ち手」は十分な議論と合意形成がないと出てこないし形にならない。
■「実行する力」は、みんなの納得感やチームワークの発揮がないと生まれない。

コミュニケーションの良い職場にしたかったのではなく、辛い経験を乗り越えて飛躍的な成果を出すためにつくられた組織。
参考になる点も多かったのではないでしょうか。

ヤッホーブルーイングコーポレートサイト

よなよなエール公式サイト「よなよなの里」

Agend編集部がヤッホーブルーイングのオフィスに訪問したとき、どのように歓迎されたのかを見ていただければ、いかに明るく楽しく働いているかよくわかると思います。

オフィスにお伺いして、こんな歓迎されることあります?(笑)

仕事でかかわる人たちにささやかな喜びを届けようとしている人たちのホスピタリティに本当に驚かされる取材でした。

(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2023年9月

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