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「社内政治」は避けるべきではない!? ─────ヌーラボ中道一志さんインタビュー

見出し画像。タイトルと株式会社ヌーラボ中道さんのアップ写真

『社内政治』と聞くと、“駆け引き”や“足の引っ張り合い”といったネガティブな印象を抱く方が多いかもしれません。でも実は、「チームが前に進むために欠かせない調整や対話」でもあるんです。

「苦手な人こそ、社内政治を避けるべきではない」と語るのは、株式会社ヌーラボの中道一志さん。どうすれば社内政治が「前に進む対話」になるのかを伺いました。

今日から使える社内政治テクニックも紹介いただいたので、ぜひ最後の「まとめ」までご覧ください。

中道一志さん


中道 一志

株式会社ヌーラボ Project Empowerment & Successチーム所属
2022年6月よりヌーラボに入社。プロジェクトマネージャーとしてプロジェクトを推進する役割を経て、組織全体のプロジェクトを推進するProject Empowerment & Successチームへと転属。

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。

なぜ社内政治!?そんなことしたくない!!!

フジイユウジ

さて、今回のテーマは『社内政治』なんですが……一般的に言うと社内政治ってすごく悪いイメージがあるじゃないですか。
ぼくも「社内政治なんて、したくねえ」って思ってるクチなんですが……

複数のチームで仕事を進めていると、小さな衝突や摩擦が絶対起きるじゃないですか。
チームAがやること、チームBがやること、チームCがやること、それぞれをうまいこと収められるようにする行為が、社内政治なんだと考えています。

中道一志さん

ヌーラボオフィスの会議室でフジイと中道さんが対面で座っている

フジイユウジ

「良い仕事のため、やるべきことを前に進めるためだよ」って、ポジティブな文脈で『社内政治』ってワードが出てくることあるんだ (笑)

たしかに、言葉のイメージが悪いですよね。
言葉の印象でなんとなく「社内政治が必要のない環境が良い」と僕も考えてた時期がありました。

中道一志さん

中道さん作成のスライドより「政治って言葉の印象で嫌ってるだけじゃない?」。

中道さんのスライド「プロジェクトにおける政治について」より引用

事業の価値を高めるとか、良い結果を出すために、進むべき方向にみんなが同意してくれるように努力する、それを『社内政治』と捉えれば、僕は避けるべきではないと思います。
どんなにフラットで意見を言える組織でも、人が集まり、複数のチームがあれば摩擦や小さな衝突は起こるので。

中道一志さん

フジイユウジ

たしかに〜!!!!
「うちはフラットな会社で社内政治とかない」って言われるとポジティブな印象を持っちゃうけど、間違ってましたね。
フラットな組織であっても、摩擦や衝突がないはずはない。立場や職能が違うヒトたちとのコミュニケーションを調整しなくては、より良い仕事ができるはずもない。

そうですね、事業を成功させる・組織を良くするといった結果を出すためにも、社内政治をやらないといけない。
もちろん、何もしなくてもみんなが同じ目線を向いて、目標達成できるのが一番いいと思ってはいますが、摩擦は必ずあるので必要なんです。

中道一志さん

中道さん作成のスライドより引用「利害の衝突は自然なことであり、悪ではないのだよ。そこから進む道を探すことが重要なんだよ」

中道さんのスライド「プロジェクトにおける政治について」より引用

フジイユウジ

この中道さんのスライドに出てくる「利害の衝突は自然なことであり、悪ではない」って言葉、ハッとさせられるわ〜

そうなんです。
所属する部やチームによって目標が違うのは当たり前なので、皆が真面目に仕事をするだけで衝突は発生するんですよね。
だから、社内政治はした方がいい。

中道一志さん

フジイユウジ

「むしろ社内政治をしろ」って、すげーメッセージじゃない? (笑)

人は感情的な生き物だと思うし、どんなに賢い人たちを集めても合理的な判断だけで進むなんていうことは起こり得ない。
そのために、衝突を避けて声の大きい人に従うことがないよう、皆の考えを擦り合わせる必要があると思っています。

中道一志さん

何からはじめる?社内政治、はじめの一歩。

フジイユウジ

ぼくは社内政治のド初心者なんですが (笑)
まず、なにから始めたらいいですか?

まずは、ステークホルダーを整理することですね。社内外問わず。
どこの会社でも「なぜ協力的じゃないんだ」とか「そんなもんそっちでやれよ」みたいなことを相手方のチームに感じてしまうことはあると思うんです。
それは、相手の背景情報を何も知らないから、そういう思いを強く感じてしまうだけですよね。

中道一志さん

フジイユウジ

あー、直接プロジェクトに関わってるメンバーしか視野に入れてないことってありますよね。
実際に協力をしてもらう相手はたくさんいるのに、調整が必要な相手だって認識がないの。あれは良くない。
その相手の事情や思いを把握しておく必要があるってことか。

利害関係者みんなとちゃんと話し合っていたら、プロジェクトとか仕事が頓挫するようなことはないと思ってるんですよ。

中道一志さん

真剣な表情で話す中道さん

ヌーラボであれば、何かを変えようとしても、頭ごなしに否定されることはなくて、建設的に話し合える人たちばかりです。
でも、そんなフラットな環境でも、話が通っていなかった相手から「急にそれを言われても対応できない」と言われ、摩擦が起きることはある。

中道一志さん

フジイユウジ

なるほど。どんなにフラットな組織でも、話が通っていなければ、そうなることはある。
だから、ちゃんと話し合っていれば頓挫しない、と。

互いどんな事情を抱えているのか、対話を通して分かり合っていったら、あとのことはすべて調整可能だって思うんですよ。
だから、まずはステークホルダーを整理して、その相手方の事情や考え方を把握することが初めの一歩としては大事ですね。

中道一志さん

根回しとは「噛み砕いて咀嚼する時間」をつくること。

次にやるのは、取り組みの価値とか進むべき方向に、みんなが同意してくれるように努力することです。
どんなにフラットな組織でも、いきなりみんなで意見を言い合ったらうまくいかないんです。

中道一志さん

フジイユウジ

あー、取り組みの価値も進め方も合意がされていないのに「意見を言いましょう」って場をつくられてもダメ。
自分もやってしまっているなあ……

意味を考える、噛み砕く時間がないと「なんか嫌だ」とか「え?」ってなるんですよね。

中道一志さん

フジイユウジ

うわああああああああ、わかる!!!!
わかる上に、ぼくも相手に噛み砕く時間を与えずに進めてるって気づいてしまった。反省しかないわ……

そうならないように、事前にキーマンを含めた色々な人に少しずつ伝えていくようにしています。
この取り組みがどんな価値を生むのか、一緒に話しながら噛み砕いていくんです。

中道一志さん

フジイユウジ

周辺にいる関係者は、取り組みの当事者ほど詳細に状況を理解してるわけじゃない。
会議で全貌を説明されても咀嚼しきれなくて、取り組みの当事者と同じ目線に立てないから「なんか引っかかる」ってなっちゃうやつ。

会議室のテーブルを挟んで話すふたり

フジイユウジ

これ、よく見かけますよね。
取り組みの当事者側が「全部説明してるし、ロジックは通ってるのに、なんでわからんのだ」ってなってるの何度も見たことある。

「なぜやるのか、何を目指すのか、どう進めるのか」を関わる人たちみんなが咀嚼しきれていれば、その取り組みが破綻することはないと思うんです。
そのときどきで意見が違っても、「何を目指しているのか」が同じなら前向きに意見を言い合える。
だから、まず先に話を通しておく必要があると思っています。

中道一志さん

フジイユウジ

Agendでは、同じヌーラボ所属の原田さんにチームワークマネジメントをテーマにインタビューしてるんですが、「目的の共有」が必要だって同じようにお話されていましたね〜
ステークホルダーみんなに対して、目的やそれぞれの担って欲しいことをすり合わせていくわけですね。

チームワークマネジメント:

異なる職種や部門のメンバーで助け合いながら、共通の目的に向かって自律的に動けるチームを運営するための概念。チームワークマネジメントをするためには、目的の共有や、役割の明確化などが必要とされている。
詳しくは、チームワークマネジメントでチーム力を高めるを。

そうですね。
どんなに正しいことだとしても、いきなり大上段から話を落としていくんじゃなくて、色々な人に話してみるのがいいと思うんですよ。

中道一志さん

笑顔で手振りを入れながら話す中道さん

「私はこういう課題があると感じているけど、どう思いますか?」みたいなね。
「自分もそう思う」みたいな反応をもらえたら、そこから自然に対話が盛り上がっていくような流れが理想ですね。
こうした巻き込み方を設計していくのも、僕はチームワークマネジメントの一部だと思っています。

中道一志さん

フジイユウジ

オフィシャルな場で話す前に、まずは個人的な観点を教えてもらいながら観察していくわけか。
全員と対話していくと、摩擦が減っていくという感じですね。

その課題にどんな人が関係してるのかとか、誰に話を聞けば知恵が集まるのかを調べて、まずは周囲と少しずつこそこそ話すことから始めるといいかなと思ってて。
あ、「こそこそ」って聞こえが悪いんですけど、いきなり上の人に話を持っていくのではなくて、身近な人と雑談レベルで話してみるくらいの、ちょっとした探りを入れる感じですね。

中道一志さん

スパイを送り込む!?!?

フジイユウジ

正しさよりも対話と観察って話、めちゃくちゃ良いですね〜
とはいえ、話し合ったときには「いいんじゃないですか」と口では言ってるけど、本当はその人は良いと思っていないってケースも割とありますよね?

そうなんですよね。
そういうときは、スパイを送り込む……ですかね。

中道一志さん

フジイユウジ

えええええ!!?!!?
さっきまでめちゃくちゃイイ話だったのに、急に社内政治ドラマみたいな話が出てきたぞ (爆笑)

普段から、色々なチームに雑談できる相手をつくっておくと、「ちょっと相談したいんだけど」と話せる人が他のチームにもいるようになっている。
そうすると、自然と気になることも拾いやすくなるというか。

中道一志さん

少し笑いながら、身振り手振りを大きくまじえて話す中道さん

「◯◯さん、会議でこの話が出たときにちょっと黙ってたけど、何か気になってるのかな?少し聞いてみてくれる?」
みたいに、本人には聞きづらいことを周囲から探ってもらうこともありますね。

中道一志さん

フジイユウジ

なるほど~
気遣いの社内政治(笑)

納得できていない人や、自分の思いを言い出しづらい人を無視しないで、ちゃんとケアすることが大事だと思うんです。
そのためにも「あの時、みんなの反応が悪かったけれど、何を考えてたんだろう?」といった本音や状況を、こっそり聞けるような関係性を作っておくことも大事ですね。

中道一志さん

良い社内政治がないと「悪い社内政治」が入り混んでしまう。

フジイユウジ

ここまでお話を聞いてきたことって、『社内政治』と言いつつ『チームワークを発揮するためのマネジメント』って感じですよね。
ヌーラボさんらしいチームワークマネジメントの話だったので、『社内政治』の印象が変わりました。
で、この中道さんの『社内政治』についての説明スライドなんですが、めっっちゃくちゃ良いですね、これ。

中道さん作成のスライドより引用。

中道さんのスライド「プロジェクトにおける政治について」より引用

フジイユウジ

「自己利益の追求」というダークサイドの社内政治もあるが、「組織全体の目標達成」という良い社内政治もあるのだ、と。
これを見た瞬間に「この人に取材したい!!!!」って思いましたもん。

ありがとうございます。もともとは社内向けに作った資料なんですよ。
ヌーラボには、だれかの足を引っ張ったり、邪魔してくるような人はいない。フラットな組織で、良い人たちが多い。
そんな弊社でも『社内政治』を避けてしまったら前に進まないよと。

中道一志さん

フジイユウジ

ヌーラボにはいないかもしれないけど、世の中の組織内には悪い社内政治の使い手っているじゃないですか。
自分への評価を得るとか、自分のやりたいことしか考えてないやつに出くわしてしまったら、どうしたらいいんですか?

そういうときには、あるべき目標であったり、達成のために必要なことであったり、さまざまな数値であったり、そういったものをちゃんと整理して、対話できる材料として提示することになるんじゃないですかね。
それでも、対話が成り立たない場合は、第三者が見ても納得できる形で、根拠や方針をぶつける。

中道一志さん

フジイユウジ

あるべき目標とか、まっとうな論理を使って対話をするのか。
ダークサイドな社内政治との戦いじゃあないか……

本当はそういう構図にしたくないんですけどね(笑)
だから、日頃から信頼してもらえるような関係をつくっておくことも社内政治の一部だと思っています。

中道一志さん

フジイユウジ

そうか、正しさをぶつけるときも周囲から信頼してもらえてないと、悪い社内政治に押し切られてしまうこともあるよなあ。
まっとうな目標に向かうためにも『社内政治』が必要なんですね。今日で完全に意識が変わりました。

まとめ: 『社内政治』はチームを前に進めるために必要なことだった。

  • 社内政治=悪ではない
    「人と人の利害を調整する技術」だった。
  • カギは “先回りコミュニケーション”
    会議でモノ申す前に、関係者の “気になるポイント” を一足先に聞きに行こう。後から修正依頼が飛んでくるより、先に懸念を潰しておく方が圧倒的にコスパ高い。
  • 「正しさ」を提示する前に「巻き込み」から
    自分が正しいかどうかより、「相手も勝てる形」をデザインする。目的や進め方が咀嚼されていれば、大きな決裁もスッと通る。
  • 悪い社内政治の抑止力にもなる。
    「正しさ」を通せるようにすることは、悪い社内政治の予防。

中道さん X/Twitter

ヌーラボ(チームワークマネジメント)


(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2025年07月

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