チームビルディングのプロ、楽天大学学長 仲山進也さんに聞く「会社を変える方法」
『組織にいながら、自由に働く。』という本を執筆され、ご自身もそのスタンスでお仕事をされている、仲山進也さん。楽天大学の学長として、さまざまなチームを支援してきた経験があり、現在ではご自身でチームビルディングプログラムを主催しています。
今回はそんな仲山さんに「そもそもチームビルディングってどういうもの?」や「良いチームをつくるには」をお聞きしてきました。
その中でわかったのは、人の集団を「チーム」に変化させるためにはどんなことをすべきか、ということです。ぜひ、最後までお読みください。
仲山進也
仲山考材株式会社 代表取締役 / 楽天グループ株式会社 楽天大学 学長
まだ社員20人しかいない創業期の楽天に入社。楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長、起業家。2011年バンダースナッチを創業。様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。
なぜ、組織の課題は軽視されやすいのか?
先日、Agendで「よなよなエール」のヤッホーブルーイングさんにインタビューしたんですが、そのときにチームビルディングから飛躍的な結果を出すための改革がはじまったという話をお聞きしたんです。
仲山さんが楽天大学でやっていたチームビルディングプログラムをヤッホーブルーイングの井手社長が体験したことが発端で、今でも携わっていらっしゃるとか。
この記事です。
そうですね。
ヤッホーブルーイングの「てんちょ」こと井手さんが、2009年に講座に参加してくれて以来です。
ここ数年は「エア社員」として組織文化醸成にがっつり携わっています。
※エア社員: いるのかいないのか分からないが、会社にとって必要な存在。社外でも社内の人でもない社員というはたらき方。
今日は、ヤッホーブルーイングが飛躍的な成果を出す組織に変わるキッカケになったチームビルディングプログラムとは何なのかを教えてもらいたいんですよね。
そこからスタートして、より良い会社組織をつくる具体的な手段についてもお話を伺いたいと思います。
では、チームビルディングに関わるようになった経緯からにしましょうか。
楽天大学は、店舗さん向けに「どうやったら売れるか、よい商売ができるか」をテーマにした講座から始まったんです。
講座を開催していくうちに、商売が軌道に乗ったお店が多くなると「売上の伸ばし方はわかるけど、人が増えた割に伸びなくなってきた」と、人や組織の問題について悩む店長さんが増えたんです。
なるほど、売れるお店にするところだけではなく、会社やチームのコミュニケーションをサポートしないといけなかった、と。
ぼく自身、楽天に入って20人の会社が数年で数千人になるプロセスを経験したんですけど、ある本を読んで衝撃を受けたんです。
会社が大きくなるときの成長痛みたいなものがステージごとに体系化されている内容で、「たしかに、ほぼこの通りのことが起こった。日記を読んでるみたい!」と思って(笑)
自分が経験したことは特殊なことではなく普遍性があるとわかったんですね。そこで、得られた学びを共有できたらいいなと。
おお、楽天が成長していく中で起きていたこととも合致したんですね。
そこで、「チームビルディングプログラムを提供しよう」ってなったってことですか?
いえ、自分の中で「こういうことが大事」というコンテンツはあったのですが、伝え方がわからなかったんです。自分が体験していない組織の問題って、話だけ聞いても全然ピンとこないので。
というのも、ぼくは「Rakuten DREAM」という店舗さん向けの月刊誌を作っていたのですが、毎号、店舗さんのインタビューが載っているんですね。
で、ほとんどのお店が「売上が急激に伸びたタイミングで大変なことになった」というエピソードを語ってくれているのですが、それを読んでるはずの人たちも、みんな同じ落とし穴にハマってしまいがちなんです。
なるほど、自分たちに同じことが起きるとはわからず、そこから学べないのか。
売り方の話であれば、商品ページのラフ案を作るグループワークをして、「この視点が抜けてましたね」みたいな気づきを得てもらえます。疑似体験から学べる。
でも、組織課題の場合は、どうすれば疑似体験してもらえるかがわからなかったんです。
問題意識がないと変わらない、体験しないと腹落ちしない。
組織課題は、経験していないうちに伝えても分からない。
なるほどなあ。
その後、どうしたんですか?
楽天の創業副社長から紹介してもらった長尾彰さんが体を動かすアクティビティを通じてチームづくりを体験的に学べる研修をやっていたんです。
そこで「コラボしたら面白いものができるのでは」ということになって、今やっているチームビルディングプログラムを2人で作りました。
体を動かす実体験を通して、言ってもわからんことも理解しやすくできたってことですか。
とはいえ、参加を検討している人から「これ、具体的にどんなことをやるんですか?」と聞かれたたときに、説明しても伝わらないわけですよね?
はい、伝わらないので具体的な内容は言わないです。
「言っても伝わらないから言いません」って(笑)
言わないんだ(笑)
それもそうか。内容を言ったところで、みんなでワークショップとかゲームみたいなことして意味あんの?って思われるだけですもんね。
具体的には「チームの成長ステージ」というフレームワークを、身体性を伴って理解してもらう、ということなんですけど、そんな説明を聞いてもイメージできませんよね。
なので、「人や組織について、こんな問題意識をお持ちの方にはヒントがあります」という伝え方をしています。
「判断=価値基準×入力情報」という公式があるのですが、同じ状況を見たときに、同じ価値基準で解釈するようになっていくからチームとして息が合うわけです。
みなさん「思ってることを言い合えない」とか「こぼれ球を誰も拾いにいかない」みたいな事象を個別に解決しようと思いがちなのですけど、同じ価値基準で解釈できない、成長ステージが低いから起こるということをチームビルディングプログラムで体験として知ってもらう。
それらを個別に解決しようとしても、組織のステージを変えないと解決されないですよって話なわけですね。
人が集まって不安や緊張が生まれる「フォーミング期」、意見をぶつけながらすり合わせをする「ストーミング」をする段階など、チームがどうやって上手く協力するようになるかのステップを示している。
タックマンモデルをベースにして 組織の成長を4ステージにわけた解説(画像は仲山さん提供)。
会社を変えるには「プロジェクト化」で、継続性と推進力を作り出すことが大事。
実際の体験を通して、考え方を伝えると理解してもらえるというか、腹落ちするんですよね。
あと、だいたいの研修って、受けてやる気になっても3日後には忘れたり、元に戻ったりするじゃないですか。
だから、単発の研修だとあまり意味がないなと思っています。
「全員参加」みたいにしがちですが、問題意識を持っていない人が参加すると場の熱量が下がるので、挙手制でやるほうがうまくいきます。
なるほどなあ。
それにしても、みんな組織を良くしたいとは思っているんだろうけど、組織として覚悟を持ってちゃんと変える、ちゃんと良くするって難しいですよね。
なので、そもそも「チームビルディングの研修」と呼ばないようにするのが大事だと思っています。
ぼくは「組織文化醸成プロジェクト」という位置づけでやるようにしています。
社内に推進チームをつくって、時間をかけて醸(かも)していく感じ。
研修やセミナーを1回受けて上手くいくんだったら、世の中こんなに人の問題に困ってる会社だらけにならないですよね(笑)
それはそう(笑)
長期にわたってやるものにする、社内にそれを推進するチームがあるっていうプロジェクト形式にするってのは素晴らしいな。
単発の取り組みではなくなれば、社内での重みもある扱いになる。
日常的に取り組むようになるだろうし、めっちゃ良いですね。
職場にいる大半の人が、「良い仕事をするにはみんなで入力情報と価値基準を合わせないといけないよね」って日常的にチームとして動くことを体現をしていれば、異動があったり、新しい人が入社してきても、自然と似た動きができるようになります。
そこまでいったら、プロジェクトチームはいらなくなるかもしれないけど、それでもメンテナンスも続くし、状況が変化したときに何らかの形でチームの良い状態を維持し続けられる仕組みをチューニングし続けることが大事です。
当たり前のことだけれど、良い状態を「日常」にするためには、日々それをリテンションする必要があるし、社内から取り組みを骨抜きにするようなブレーキがかかったりすることに対して「必要なんです」って言いつづける必要がある。
日常的に社内に働きかけることを継続する方法としてプロジェクト化はかなり有効ですが、それで上手くいくってほど容易ではないですよね。
プロジェクトチームも、意志をもった人たちを集める必要がありますよね。
「プロジェクトをやれと言われたから」やってる人たちでは上手くいかないですから。
たしかに、社内コミュニケーション改善のチームが「社長の決めたお気に入り」で固められてて、他の社員からは冷やかにとらえられて上手くいってないの、見たことありますわ(笑)
挙手制でやる方が上手くいきますよね。
仲山さんは著書『「組織のネコ」という働き方』で、組織に忠実な「イヌ」と対象的な、組織の中で自分に忠実な「ネコ」も活躍できるということを書かれていましたが、こういったプロジェクトチームにもネコ的な人がいてくれると良さそうですよね。
ネコタイプの人は、プロジェクト立ち上げは得意ですからね。
そういう人にプロジェクトチームに入ってもらうためにも挙手制が有効なんですよ。
「どうすればもっとみんなが楽しく働けるだろう」とわちゃわちゃ試行錯誤しながら、ブラッシュアップしていくのが楽しい。
プロジェクトが軌道に乗って社員数や業務量が増えると、マニュアル化が得意なイヌタイプが活躍するステージになる感じですね。
※ネコ: 会社組織の中でイヌにならずに自由に働くという考え方を示した仲山さんの著書『「組織のネコ」という働き方』に出てくるタイプ別の概念
現代では、リーダーだけが学んでいてはいけない。
そろそろ、まとめに入っていこうと思うんですが(笑)
「ただ人が集まって分業しているだけ」の状態から「チームになる」には入力と価値基準を合わせることが重要というお話がありましたよね。
これまではリーダーやマネジメントだけが分かっていれば良いことがあり、メンバーはそれについていけば良かった。
でも、現代ではチームとしての力を発揮した組織の方が強い、と。
はい。これまではリーダーだけが地図を持って「次は右に行く」とか「そこを左」って指示を出してたかもしれないんだけど、現代では全員が地図を持ってリーダーが決めた目的地を目指す。
カオスな時代を切り拓くためには、メンバーから、「あのー、こういう変化が起こっていたのでこんなふうにしてみたらうまくいったんですけど、みなさんにも共有したいなと思って」と言ってもらえるようなコミュニケーションがどれだけ生まれるかが重要だと思っていて。
でも、リーダーだけが学んでいると、そうはならない。
リーダーだけが学んでいてはいけない!!!!
これは最高だな。良い話すぎる。このひとことに全てが集約される気がします。
同じ目的地を目指すことは変わらないけれど、どうやって向かうかの方法論はチーム戦にしちゃう方が強い。
これまではリーダーの学びって、「リーダーとメンバーの学びは別物」という形だったように思います。
リーダーは、正しく判断ができるように自分の知識や経験を増やしていって、 メンバーに慕われるために人間力を磨いていく。
メンバーはリーダーから指示されたことをがんばってできるようにするためにスキルを学ぶ、みたいな。
チーム戦はリーダーもメンバーも、チームワークを引き出す努力や学びをし続ける。
いかにみんなが見えてるものと価値基準をそろえられるか。
リーダーやマネージャーは「自分だけが知っていること」をどれだけ減らせるかが、自律型の人材や組織をつくるために大事なんです。
まとめ:「会社の変え方」を教えてもらった。
チームビルディングの話からはじまり、具体的な「会社の変え方」を教えていただいた貴重なインタビューになりました。
■ 「チームの成長ステージ」に当てはめて考えることで、発生している問題や打ち手を明確にする。
■ プロジェクトの生成・達成・解散を繰り返しながら、継続的に組織をメンテナンスし続ける。
■ 入力情報や価値基準が合っていないとチームにはなれないことを理解して、入力と価値基準を合わせる。リーダーだけが学んではいけない。
現代のリーダーやマネージャーに必要なのは、メンバーを巻き込んで入力を合わせること。
これまでマネージャーだけが見て、マネージャーが答えを出していた課題を、チーム全員で解決するようなお題設定に変える力が必要になるのだと教えていただきました。
チームメンバーも、課題を解くための情報を自分が持っているか振り返ったり、インプットや価値基準があっているよう維持を頑張ることで「チームに貢献できる人材」になれるのだなと思いました。
『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』
『「組織のネコ」という働き方』
『組織にいながら、自由に働く。』
GetNavi web「組織のネコトレーニング」
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2023年9月