チームワークマネジメントでチーム力を高める────ヌーラボ原田さんインタビュー
多くの人たちが「職場の人たちと気持ち良く働きたい」と考えていると思いますが、なかなか上手くいっていることは少ないのではないでしょうか。
そこで、今回は株式会社ヌーラボの原田さんに「チームワークの高め方」をテーマにお話をお聞きしました。
チーム力を高めるためのマネジメントだけではなく、具体的な方法までお話をいただきましたので、どうぞ最後の「まとめ」までお読みください。
原田泰裕
株式会社ヌーラボ ビジネスグロース部部長。
BtoC〜BtoB問わず商品・サービスのマーケティング戦略の策定などコンサルティングに従事。東証プライム上場メーカー子会社でリテール戦略部門管理職を歴任。2022年に株式会社ヌーラボへ入社し、2023年より現職。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。
どうしたら『チームワーク』は高まるのか?
原田さん、今日はよろしくお願いします!
まずは読者向けに自己紹介をお願いできますか。
ヌーラボは仕事が少しでも楽しくなることを目指して、プロジェクトやタスク管理をする『Backlog』やオンライン作図ツール『Cacoo』などを開発・提供している会社です。
私はビジネスグロース部の責任者で、マーケティング、セールス、カスタマーサクセス、コミュニティ運営が管掌範囲となってますね。
原田さんが提唱してる『チームワークマネジメント』って概念がすごく良いなと思ってまして、今日はそのお話からしたいんですよ。
プロジェクトマネジメントとは違う。
ピープルマネジメントともちょっと違う。
『チームワーク』ってみんなで頑張ろうっていうだけじゃなく、ちゃんとマネジメントしていくものなんだって発見がありました。
チームワークマネジメントは、所属属が異なる人たちでチームを形成して、効率的に目標を達成するためのプロセスなんですが、要は「共通の目標に向かって協力しあう力をマネジメントする」ということです。
みんなが共通の目標を持っているか、一人ひとりが自分が何をしたら目標に向かっていくことになるのかを理解しているか、全員が意見や懸念を自由に言えるか、どうしたらチームメンバーは信頼と協力関係を構築できるか。
これらはチームワークの要素としてバラバラには語られますが、「チームワークをマネジメントする」という考え方ではあまり語られていないのかなと。
プロジェクトやタスクはマネジメントしようとしているけれど、『チームワーク』はマネジメントされていないと考えて整理してみました。
要素ごとではなく、チームワークというものをマネジメントするってひとつの目的があるものと考えるとわかりやすくなりますね。
そもそも組織の責任を背負う人やマネージャーが「チームワークをマネジメントしているか?」と問われたときに「大切だとは思っていたし、意識もしてはいたけど、マネジメントするものとは考えていなかった…」って人もいるんじゃないかなと。
原田さんのnoteよりチームワークマネジメントの要素を要約
目標の明確化
・全てのチームメンバーが共通の目標を理解し、その達成に向けて動いている。
役割と責任の明確化
・各チームメンバーの役割と責任を明確になり、それぞれが何を期待されているかを理解している。
リーダーシップ
・リーダーがその模範を示すことで、メンバー全員がリーダーシップを発揮する環境が整っていく。
特に所属が異なるメンバー間や部門が異なるチーム間をワンチームにするためのマネジメントって、ものすごく難しいって僕は思うんですね。
あ、そうそう。
同じ部門・同じチームの人たちのチームワークのマネジメントは当然に必要だとして。
原田さんの提唱するチームワークマネジメントにおける『チームワーク』ってさらに範囲が広いんですよね。
異なるチームや部門、社外にいる人も含めた個々のメンバーが共通の目標に向かっていけるようにマネジメントすると書かれている。
部門ごとのチームワークももちろんマネジメントするのですが、複数の部門や所属が違う人たちがひとつの目標に向かって協力しあえる状況をつくるイメージです。
そうしないと、『チームワーク』のマネジメントとは言えないことが多いので。
複数のチームをまたいで何かをするだとか、所属が違う部門の人たちが同じ目的を持つなんて、現代の仕事だと当たり前ですけれど、チーム間も含めた「共通の目標に向かって協力しあうことのマネジメント」って実は意識されていないことが多いですよね。
組織にもよりますが、部門が異なる人たちや所属の異なるの人たちも巻き込んで同じ目的に向かって動いていくのって意外と難しいんですよね。
チーム内だけではなく、複数のチームでひとつの目標をもって動ける状態になるようなチームワークマネジメントが必要だと思います。
その状態はワークマネジメントだけでは生まれないし、プロジェクトだけに閉じてはチームやプロジェクトをまたいだチームワークが生まれないですから。
原田さんのnote
チームワークマネジメントはじめの一歩。
チームワークの発揮のためには「自分が何をしたらチーム目標に向かっていくことになるかを、一人ひとりが理解していること」が大事だと思っていまして。
わかるなー
何をしたらチームに貢献できるのか見通しがついてないチームって、メンバーが消耗しますよね~
みんなの目標がひとつだと認識できることが大事で。
共通の目標がフワッとしてしまって、何をしたらチームのためになるのかをメンバー個人ごとバラバラに探してる状況になると、チームワークが発揮されないですよね。
ゴールがひとつで明確になってることって、想像以上に重要なんです。同じ目標のない集団はチームではないので。
ひとつの同じ目標がない集団はチームではない!!
目標が同じではないからチームワークが生まれないって、言われてみると当たり前なんだけど、個人ごとに目標が違ったらお話にならないし、部門ごとも目標が違うことでバラバラの動きになるんだなって改めて理解できますね。
チームにとってフワッとした目標しかないときは、なぜその目標が必要なのかという「目的」を明確にします。
目標と目的を結びつけることで、より納得感が得られるので。
目的があって、そのために目標があるという整理をするわけですね。
はい。
目的を明確にしてから、SMARTの原則を使って目標を設定すると上手くいきやすいと思います。
SMARTの原則
5つの要素を埋めることで、目標が明確になるという手法。
Specific(具体的)
Measurable(測定可能)
Achievable(達成可能)
Relevant(関連性)
Time-bound(期限設定)
事業として見ると、部門ごとにバラバラのKPIになったり、個人ごとも行動目標は別々になるのは普通にあると思うんです。
チームワークマネジメントとして見てみると「共通目標がないとチームワークを発揮できない」という考え方ができると思います。
仕事を前に進める『バックログスイーパー』をチームで決めよう。
目標が今までとは違う意味を持つ、というのは納得です。
とはいえ、『チームワークマネジメント』って、めっちゃムズい考え方ですよね。
チームワークが発揮されるような信頼関係の構築支援って言われても「具体的に何をするんだっけ?」ってなりそう。
目標をひとつにできたら、次はチームでのタスク管理をするっていうのが効くと思います。
「自分の持っているタスクが共通の目標に向かうことに貢献するのか理解できる」だとか、「自分のやったことが別のチームへパスとしてつながっているのを確信できる」といった環境がつくれると、チームワークが高まるので。
これもまた、わかるなー
チームで飲み会やランチ会やるとか、コミュニケーションの機会をつくるとかもダメではないんだけど、やっぱ「仕事で信頼できると感じる」っていうのに勝るものはないですよね。
ワークマネジメントから信頼関係をつくれると理想なんですよね。
とはいえ、ですよ。
世の中の多くのチームで行われるワークマネジメントって、なんというか……そんなにレベルが高くないというか、わりとグタグダというか (笑)
『Backlog』みたいなタスク管理ツールがあっても、チームワークが発揮されるより前にワークマネジメントすらできずに放棄しちゃう……チームでのタスク管理が形にならない……ってこと多いんじゃないですか?
それに対して、ヌーラボでは『バックログスイーパー』という役割をチームに置くことを提唱していまして。
ここで言うバックログはツール名のことじゃなく、やるべきことや未処理タスクといった意味でのバックログのことで。
そのバックログを整理してチームの仕事を前に進める人を『バックログスイーパー』と呼んでるんです。
チームでの管理に慣れていない人たちが多いから、最初からそういう役割を置いてしまいましょうって考え方、めちゃくちゃ良いすね!!
プロダクト開発だと、スクラムマスターとかプロジェクトマネージャーとか、チームの仕事を進める専門的なポジションがあるけど、そういった役割ですか?
やることは少し違いますが、役割は近いと思います。
開発系ではないビジネスチームにも必要な役割なのに、明確にそれを定義したり必要性が叫ばれることって少なくて。それで『バックログスイーパー』という名前をつけたんですよね。
めっっちゃ、分かります。
すべてのチームにその役割って必要なんですよね。
スクラムマスターやPMスキルを得るのは簡単ではないですが、すべてのチームで「◯◯さんにバックログスイーパーやってもらおう」って決めるのは今すぐできるんですよ。
チームでのタスク管理をはじめるのにハードルが高いのは「タスクの起票」で、それさえできれば定期的に進捗確認するMTGをして、完了したものを消し込んでいく。
まずはこれだけでも良い。
会議で話したことがタスクとして起票されていなければ起票する、期限過ぎて滞留してるタスクを整理する、そういう役割としてバックログスイーパーがいることが大事なんですね。
個人の管理能力に依存してやろうとしても上手くいかないけど、チームでならできるので。
個人だとできないけど、チームならできる!!
個人の管理能力に依存しすぎない環境づくり、大事だなー。
この環境づくりこそが『チームワークマネジメント』している状態ってことか……。
週次あるいは隔週でタスクチェックする定例会議をやって、バックログスイーパーがタスク管理ツールを整理していけば、だいたい上手くいくと思います。
「すべてが起票される」と「定期的に整理する」ということを継続し続ける環境をつくることがチームワークの土台になるので。
原田さんがバックログスイーパーについて書いたnote
バックログスイーパーみたいな役割って、アシスタントとかこぼれ球拾い係みたいに低い地位になりがちじゃないですか?
スクラムマスターだとかプロジェクトマネージャーだと、専門スキルと立場のある人としてリスペクトされるイメージあるけど、アシスタントみたいな扱いになると良くないような……
バックログスイーパーの地位をしっかりチーム内に浸透させるというのは必要かもしれません。
ヌーラボでも、バックログスイーパーを評価したり、公式のブログで功績を紹介するっていうことを進めています。
バックログスイーパーの地位の確保も『チームワークマネジメント』としてやるべき大事なことなんですね。
低い地位になったらダメなんですけど、バックログスイーパーがフラットな立場であることも大事なんですよ。
チームメンバーに「できていないことを指摘する人」とか「やらせる人」と思われるような雰囲気が出るとチーム力が高まっていかないので。
バックログスイーパーって役割だからやっている、チームのための役割としてやっているというフラットさが上手くいくコツだったりします。
あああああ、なるほどー
仕事を進めるサポートとかコーチ的な役割であって、権力があると思われてはいけないんだ。
これも、バックログスイーパーに自力でそう思われる地位をつくれって努力を求めると上手くいかなそうだから、チームでの取り組みがいるやつじゃないですか……
はい。
偉いとか地位が低いとか関係なく「そういう役割だからやってる」って状況を作れると上手くいくんですよね。
なので、先ほどフジイさんが言われたようにバックログスイーパーの立ち位置をどうやって浸透させるかっていうのも『チームワークマネジメント』としてやるべき大切なことになるんですよね。
たしかになあ。
メンバーが仕事してるか上司が監視するための管理だとストレスにもなって心理的安全性が醸成されないし、チームワークは発揮されない。
こうやって信頼関係の構築のための『チームワークマネジメント』の観点でタスク管理を考えるって、めちゃくちゃ良いですね~
まとめ: チームワークを作るマネジメント。
■ 「共通の目標に向かって協力しあうチーム力」はマネジメントされなくてはならない、という観点を持つことが大事。
■ メンバー間のチームワークだけではなく、複数のチームや所属が違う人たちもひとつの目標に向かって協力しあえる状況をつくる。
■ 最初に目的から目標をつくる。「ゴールがひとつで明確になってること」から。
■ ワークマネジメント(タスク管理)は、「すべてが起票される」と「定期的に整理する」ということを継続し続ける環境をつくる。
■『バックログスイーパー』というフラットな役割をチームに置くことで、継続性を設計することができる。
タスク管理・プロジェクト管理の専門ツールやコラボレーションツールを長年手掛けているヌーラボさんらしい観点を教えてもらえたインタビューでした。
今日から使える内容だったと思いますので、ぜひ試してみたいですね。
関連リンク: Backlog
(企画・編集: フジイユウジ / 取材・文・撮影: 奥川 隼彦)取材:2024年9月