仕事の進め方がグダグダの会社はどうすればいいのか、「プロジェクトマネジメントの基本が全部わかる本」の著者に聞いてみた
「プロジェクトマネジメントの基本が全部わかる本」を執筆し、ご自身もプロジェクトマネージャーやプロダクトマネージャーとして23年経験を積んできた橋本将功さん。
橋本さんは、セミナーや著書でプロジェクトマネジメントについての知見を発信されていますが、今回 Agend であえてお聞きするのは「専門のプロジェクトマネージャーがいないグダグダになっている職場で、どう仕事を回していくか」。
「うちの会社は仕事を回すのが下手」と感じている方にこそ読んでいただければと思います。
橋本 将功
パラダイスウェア株式会社 代表取締役。
IT業界24年目、PM歴23年目、経営歴13年目、父親歴9年目。500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。世界中のプロジェクトの成功率を上げて人類の幸福度を上げることを人生のミッションとしている。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。
仕事の多くはプロジェクト。だがプロジェクトとして取り扱われていない。
橋本さん、よろしくお願いします。
ぼく、橋本さんが書いたプロジェクトマネジメント本をいろいろな人にオススメしまくってるんですよ~
書籍のオススメありがとうございます!
自己紹介ですが、名前は橋本と申します。
プロジェクトマネージャー歴は23年目かな。
めんどくさいので数えるのは止めちゃったんですけど、500件以上はプロジェクトマネジメントやプロダクトマネジメントをやってきてます。
プロジェクトマネジメントの基本が全部わかる本
プロジェクトマネジメントの本物の実力がつく本
今回、仕事のコミュニケーションのメディア Agend で、プロジェクトマネジメントの専門家である橋本さんにお話を聞きたいと思ったのには理由があってですね。
現代のほとんどの仕事ってプロジェクト的なものだと思うんです。
不確実性やリスクがあって、関係者の調整をしたり、前工程・後工程をちゃんと意識して手順を決めて、お互いの進捗を調整する……プロジェクト的なものってコミュニケーションの塊じゃないですか。
確かに、取り組みに「プロジェクト」という名がついていないけれど、実態としてはプロジェクトとして取り扱った方がいい仕事は世の中に多いですね。
システム開発のようなわかりやすいものだけがプロジェクトとして取り扱われてしまって、それ以外はマネジメントされないことが多いかもしれない。
例えば、業務効率化や担当者の負荷を下げたりする取り組みや、リモートワークに対応したりする取り組み。今やあらゆる企業でやっていると思いますが、これらをプロジェクトとして適切にマネジメントされているケースは少ないと思います。
性質としてプロジェクトとして管理した方がいいのに管理されないものが多い、めっちゃわかります。
「プロジェクトとは何か」という定義よりも広いかもしれませんが、基本的に「定常業務じゃない仕事」、つまりマニュアルがなくて突発的に発生する取り組みはすべてプロジェクト的なものだと認識したほうがいいと思っています。
そう考えると、いま働いている人はほとんどがプロジェクトワーカーかもしれません。それなのに、プロジェクトのマネジメントのスキルや経験がない管理職や社員にやらせて、その個人に責任を負わせちゃうことが非常に多いんですよ。
プロジェクトマネジメントを教えられてもいないし、学ぶ機会も与えられていないのに、いきなり「このプロジェクトはお前がやれよ」って投げられちゃう。
わかるーーー
管理職がとりあえず責任者になって、プロジェクトの調整がないまま歪なまま進んだり、有望な人が離職したりする。プロジェクトマネジメントの考え方すら教えられていない。
プロジェクトのコミュニケーションや計画、調整の難しさを理解し、どう進めていくかを多くの人が分かってないといけないんじゃないの、というのが今日お聞きしたいことなんですよ。
本当は社外からプロジェクトマネージャーを入れるか、社内からスキルのある人材を連れてこられればいいんですけどね。
プロジェクトに慣れている組織じゃないと、なかなかそういう発想もないですよね。
プロジェクトをやるということは、品質・コスト・リソース・スケジュールなんかを複数の人たちと調整していくのを意識するということだと思うんですよ。
で、最初に「この仕事はプロジェクトとして扱うぞー」と合意することすらできていない感じがしますよね。
火中の栗を拾うしかない(自分が)
冒頭に、現代の多くの仕事はプロジェクトだってお話をしました。
なのに、それがプロジェクトとして扱われず、マネジメントされていない組織って地獄じゃないですか。
「この地獄をどうにかしたいと思っている人」は、何から始めるといいですかね?
率先して何とかしようとしても損ですよ。そんなことやってもプロジェクトの理解がない組織では評価や給与は上がらないし、それどころか、失敗したら怒られる。
プロジェクトとして上手くいっていても、仕事の流れを変えると余計なことするなって言われる場合もある。
プロジェクトを円滑に進めるための必要なタスクを実施しているときに上司から「管理に手間かけないで、早く進めて」みたいに言われることもあります。
他にも、下手に関わって失敗の責任を問われたくないという理由で、協力者であるはずの同じ部署の人からハシゴを外されたり、後ろから背中を撃たれることもあります。
聞いてるだけで吐きそう (笑)
組織や経営レイヤーから変えようという強い働きかけがないと難しい?
経営とか組織設計でどうにかできれば理想だけど、なかなかそんなキレイな環境はないですよね。
むしろ、そんな環境ではないからこそ、プロジェクトマネジメントが必要だともいえます。
日本にはプロジェクトに理想的な環境はほとんどないので、それを期待するんじゃなくて、端的に言うと「戦うことが大事」なんですよ。これは、プロフェッショナルのプロジェクトマネージャーが担当していても同じです。
自社の経営層や管理職、クライアント、利害関係者に対してどう説明して理解してもらって、プロジェクトを整えていくかが大事なんです。その戦い方をちょっとずつ学んでいくという発想が必要ですね。
でも、さっき「何とかしようとしても損しかない」って話も出ましたよね。
余計なことするやつと思われるとか。
はい。短期で見ると、プロジェクトを引き受けるっていうのは、当人は本当に割に合わない。
うまく行って当たり前、失敗すると「お前のせいだ」と言われますし。
あと、計画や調整がちゃんとできてないから炎上するのに、隣で炎上して残業してる人が「あいつは頑張ってる」って言われたりね(笑)
それでも、計画や調整をやれるだけやってみる、勇気を出してステークホルダーに言うべきことを分かってもらえるよう説明してみる。
それがすぐに良い結果にならなくても、他の人にはないスキルや経験が身につくんです。
気合はいるけど、自分のためにもなるから頑張ろうってことか……
「どうしたらプロジェクトマネジメントをできるようになりますか」ってよく聞かれるんですけど、資格取ったり研修コースを受けるだけでできるようになるものじゃないんですよね。資格を持っているけど実際のプロジェクトは全然できない人に出くわす、というケースは普段現場に関わっていると非常によくあります。
もちろん専門的な知識やスキルは必要だけど、火中の栗を拾った経験があるかどうかが一番大きい。
そこらへんに落ちてる火中の栗を拾えばいいだけですよね。基本的にはみんなディフェンスに入っていたり、逃げ回っているわけだから、チャンスはどこにでも転がっているとも言えます。
社内のどこにでも、火中の栗は無限に落ちている (笑)
場合によっては上司と見解が対立するような状況にもなると思います。
プロジェクトによって社内の構造や力学を変えるようなことがあると管理職はイヤがることが多いので、やるべきことを訴えても動かせないこともある。
プロジェクトに関する認識が広まっていない現状では、組織の経営者や管理職はわかってくれないのが当たり前なので、わかってくれないからすぐに折れるのではなく、課題を解決する取り組みの重要さを伝え続けるしかないですね。
なるほど。
「経営者や管理職はわかってくれないのが当たり前」って前提に立った方がラクに考えられる気はするなあ。
「プロジェクトマネジメントの基本が全部わかる本」を読んでいるときに、本の序盤から「交渉」ってパートがあるのが素晴らしいなと思ったんですよね。交渉の手法だけではなく、いかにそれがプロジェクト進行に大切かが書かれている。
そうですね。
プロジェクトのキーパーソンはわかってくれないものだけれど、わかってもらえるように説明をしていくのが大事だと思って書いたんですよ。
スキルや経験がなくても、関係者と交渉できる人になれば、プロジェクトは上手くいくし、結果的にチームメンバーから信頼もされそう。
そうなんですよ。
わざわざ自分から火中の栗を拾ってプロジェクトを前進させようとしていれば、周りは見てくれている。
プロジェクトそのものが上手くいかなくても、別の仕事や新天地でそれが活かされるかもしれない。
さっきは損すると言いましたけど、火中の栗を拾った経験は自分の身になるし、中長期的には得をするんですよ。
プロジェクトを回せる人材は極めて希少な人材なので、高い報酬を得ることができるし、どんな会社にも行けます。望むなら、独立や起業もできます。
個人的な理由でもいいから火中の栗を拾えば、ちゃんとチームや自分のためになるんだな。
その動き出す理由は、仕事がグダグダだと楽しくないとか、自分の経験のためにやるみたいなもので良いし、それがチームのためにもなるし。
グダグダな仕事を変えたいと思ったら
経験や専門的なプロジェクトマネジメントスキルはない人が、現状を変えたいと思ったら、なにから始めたらいいですかね?
最近、そういう専門的なプロジェクトマネージャーではない人に教える研修依頼をいただくことが増えてきているんですよね。一冊目に出した「プロジェクトマネジメントの基本が全部わかる本」の前半だけ教えるような。
ひとつだけ重要なテクニックを挙げるとすると、まず最初に「絵を描く」といいと伝えています。
プロジェクトの業務なり、システムなりを図にすることから始めるってことですかね。
そうです。テキストで書き出してるよって思ってるかもしれないけど、絵として描き出したら「丸ごと抜けてるじゃん」ってところが見つかる。
あと、テキストだけで物事を理解できる人は想像するよりも少ないんです。
みんな忙しいので、読んでも集中してなくて字面が上滑りしたり、「たぶん大丈夫だろう」とそもそも読んでくれなかったり。プロフェッショナルのプロジェクトマネージャーじゃない人は、テキストにして書き出してるとか、何時間も会議で話してるとかで安心しないで、まず図にしてみて欲しいですね。
たしかに、いきなりガントチャートとかタスク一覧とか作って失敗しがちですよね。
専門家じゃない人こそ、まずは図にしてみるってのは良さそうだな……
UML みたいな「正しい描き方」にこだわる必要はなくて、丸と四角で業務とかシステムを書き出してあと矢印でつないでいくだけでいいんで。
こうやって全体像を洗い出せば、どこの情報が不足していて、どこにどんな課題があるかが誰の目にも自明になるので、その後に発生する「やるべきこと」が明確になります。プロジェクトで必要な調整もしやすくなりますね。
プロジェクトの推進をイヤがる人が出てくることはよくあるんですが、全体が見えていれば全体最適に抵抗しようとしているのが周りから見て明らかになるので。
おー、全体最適に抵抗しようとしている人をわかりやすくしておくって、テクニックとしてめちゃめちゃ凄いっすね。
大企業でもよくあるんですけど、部門とかシステムが担当しているベンダーごとに個別に描いてあって、それらがどうやって連携してるか、業務とどう関わっているかわからない、みたいなことはよくあるんですよね。
例えば、新規事業や DX のプロジェクトを始めるときに「御社の既存システムの全体像ください」って言っても出てこなくて、仕方ないのでヒアリングしながらまずその全体像を描き始める、ということがよくあります。
要するに、自分たちの会社の業務やシステムの全体像がどうなっているのかを把握している組織って極めて少ないんです。
業務フローで「データ渡します」しか書いてなくて、どうやって渡すのか、それを誰がどうやって連携したシステムに投入するのか書いてないみたいなやつ、よくありますよねー
データが接続されているように見えるけど、実際はどんなタイミングでどうやって渡すかすら決まっていなくて、現場でどうにかするんだろみたいな。
それです。それ。そこをちゃんと知っているのは外部から派遣されているエンジニアだけ、みたいな(笑)
そういうのは、その人や仕事をリスペクトして礼を示して聞きにいかないと情報が得られない。
みんな「会社全体で仕事をスムースに回せるようにしたい」とは思ってるけど、実際は自分の仕事の周りだけ個別最適化ばかりして、全体最適化に興味がないし、知識やノウハウが属人化してブラックボックス化されていることが多いんですよね。
図にしてみて、自分たちが気付けていない見えていなかったことを発見していくことが最初の重要なアプローチです。
プロジェクトを動かすのは、わかっていない人たちと一緒にやっていくこと。
いつもプロジェクトやっていて感じるのが、そもそもプロジェクトが不確実性の高いものだっていう認識が極めて少ないということです。
プロジェクトマネジメントなんて、やってみないとわからない不確実性や、いつ発生するかわからないトラブルとの戦いですからね。これ多分、日本人はすごく苦手なんですよ。
なぜなら「わかりません」っていうことがダメだって学校で教えられるじゃないですか。
学校のテストも正解か不正解だけで、「60% 正解」とか「80% 正しい」とか無いですよね。
でも、プロジェクトって、目の前に立ちはだかる問いに対して答えの質を少しずつ上げていく作業の連続なんです。
非常にわかりやすい事例が宇宙開発プロジェクトです。
宇宙開発は初めてやることだらけなので、何回も実験や打ち上げをやって少しずつ「これはできた」「ここは失敗だったので改善しよう」という知見を積み上げていかないといけないんですけど、日本ではロケットが爆発したシーンだけを見て「打ち上げ失敗だ!」「税金使って何やってんだ!」みたいな感じで成功と失敗をゼロイチで判断して、すぐ責任問題にしようとします。
これと全く同じことが一般的な企業の日々のプロジェクトでも繰り返されてるんですね。これではいつまで経ってもプロジェクトの成功にはたどり着けません。
不確実なもの、わからないものを徐々に不確実性を小さく着地させていくようなマネジメント観点がないんですよね。
はい。プロジェクトってわからないことだらけで、わからないから要件定義や様々な調査、プロトタイピングなどを通して形にしていくわけです。
曖昧であったり、わからないっていうことがあるという前提を持てるかがプロジェクトマネジメントにおいて大事な要素だと思います。
経営者や管理職はわかってくれないって話もしましたけど、プロジェクトマネジメントの資質がある初心者が陥りがちな失敗として、「情報の非対称性」の問題が分かってないってのはあると思います。
「上司が業務やシステムの全体を見てない」とか「あの部署は後工程のことを考えないで自分たちの都合だけを主張をしている」とか「社長はシステムのことが全然わかってない」みたいなそれぞれの認識は正しいんだけど、その正しい認識の通りに指摘したところで、相手は同じ認識を持っていないのでプロジェクトは動かない。
正しく問題を認識できるぶん、イキってしまうやつだ…… (笑)
正論を訴えるんだけど、イキってしまって周囲に疎まれたり、それがコミュニケーション上のトラブルになって組織に居られなくなったり。こういう失敗は若いうちにしておく方が良いと思いますね (笑)
自分の見解や主張を伝える相手がどういう情報や視点、認識を持っているかをまずよく考える。
そして、相手に正論をぶつけるんじゃなくて、相手が持っている認識と照らし合わせて、どう説明すれば理解してもらえるかを工夫する。
正論を持ちながら、それをそのまま相手にぶつけずに理解できる形にして調整ができるのが良いプロジェクトマネージャーってことですねえ。
こういう取り組みの必要性を十分理解していないと、「めんどくせ〜!」と思う気持ちもよくわかるんですが、むしろこれがプロジェクトマネジメントの本質なんです。
プロジェクトを動かすというのは、教科書通りの正解に組織や人をはめ込んでいくということではなくて、わかっていない人たちと一緒に正解に向かって進んでいくということなんですよ。
まとめ: プロジェクトマネジメントの専門家に教えてもらった仕事のやり方。
■ やり方が決まっていない、関係者を調整して手順や連携を考えないといけない仕事は、プロジェクトマネジメントが必要。
■ 「プロジェクト」という名のついていないプロジェクトを何とかしようとしても短期的には損しかないが、火中の栗を拾ってそれを改善しようとすることは必ず良い経験になるし、自分の利益にもなる。
■ 最初に正解を見出そうとするのではなく、不確実性を徐々に小さくしていくにはどうすればいいかを考える。
■ 場合によっては経営者や管理職と対立するような状況にもなるが、できるだけやり遂げられる努力をしてみる。
■ 正論をぶつけるのではなく、相手がわかるような説明をする。
「わかっていない人たちと一緒に正解に向かって進んでいく」や「組織の経営者や管理職はわかってくれないのが当たり前」という言葉が刺さった方も多かったのではないでしょうか。
周りがわかっていないことに怒ったり腐ったりせず、それは当たり前のこととして受け止めて、一緒に正解に向かっていくという人が増えれば良いなと感じるインタビューでした。
橋本さん Facebook
プロジェクトマネジメントの基本が全部わかる本
プロジェクトマネジメントの本物の実力がつく本
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦) 取材:2024年3月