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マネジメントに役立った『嫌だったことリスト』────SmartHR元田さんインタビュー

SmartHR元田さんの写真とタイトルの入った見出し画像

「良い上司」と周りから言われる人はどんなコミュニケーションをしているのか。
SmartHRマネージャーの元田有紀さんは、自分が経験してきた『嫌だったこと』をいまの仕事に活かしているのだとか。

インタビューの要点を整理した「まとめ」を記事の最後に用意しています。ぜひ最後までご覧ください。

元田さん


元田有紀

株式会社SmartHR ブランディング統括本部 サービスクリエイティブマネジメント本部 サービスコミュニケーションデザイン部 マネージャー
2020年SmartHRに入社。SmartHR Mag.編集長を務め、現在はサービスコミュニケーションデザイン部 マネージャー。

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。

自分には相手のことがわからない、という前提。

フジイユウジ

Agendでは「この人は仕事のコミュニケーションが素敵」と言われている方を探して取材をしています。
今日は元田さんが仕事のコミュニケーションで気をつけていることやコツなどお聞きしたいです!

あの、今日この話をするか迷ったんですけど……
私、『上司や他人からされて嫌だったことリスト』があるんですよ (笑)

元田さん

フジイユウジ

えっ、なんですかそれは……

笑顔の元田さん

SmartHRに入る前までマネージャーではなく、プレイヤーだった時期が長かったんですけど、その間につらいこと・キツイことが沢山あって。
20年くらい前から「自分がされて嫌だったこと」を記録してるんですよ。

元田さん

フジイユウジ

20年以上の熟成を重ねた嫌だったことのリスト!(笑)

それを見返して「こういうつらいことを乗り越えてきたんだな」と思うようにしていたんですよね。
怒りを思い出して、目の前の仕事を乗り越えるパワーにしていたときもあって(笑)
そして、マネージャーという立場になってみると、『嫌だったことリスト』を書いてきた経験がとてもマネジメントの役に立ってるんです。

元田さん

フジイユウジ

怖い話から急にイイ話になった。

相手に悪気はないと思うんですが……。
立場の違いから傷つくことを言われたり、されたりしてきました。
子どもがほしいと思ったときから妊娠・出産しておよそ小学生になるくらいの頃までは、『嫌だったことリスト』がどんどん積み上がるくらい「あぁ、わかってもらえないなぁ」と思うことが多くて。

元田さん

フジイユウジ

自分も無神経な言葉を投げかけないよう気をつけられるとか?

それもあるんですが……
自分がされて嫌だったことをしないというよりも、当事者しかわからない気持ちがあるってことを大切にできるんです。

元田さん

フジイユウジ

「自分がされて嫌なこと」ではなく「相手が嫌がること」をしない、の精神だ。なるほど。
自分は何とも思わないことでも、相手は傷つくことが沢山ありますからね。

独身のとき、私も子育てしている他の人に「時短の方って早く帰っちゃうから困るな」って心のどこかで思っていた時期があるんですよね。
いまとなっては大変さがわかるけど、その時は「すぐ休むことがあるから大変だな」と思っていた。

元田さん

真剣な表情の元田さん

子育てや介護に限らず、他人からは理解されにくいことでも、本人にしかわからない大変さがあるという前提に立つようになれたんです。
一方で、他人にわかってほしいことがあるなら、きちんと話し合う重要性にも気づきました。何も言わず、「あの人はわかっていない」と勝手に諦めるのも違うなと。

元田さん

フジイユウジ

自分の経験が及ばないような大変さを相手が感じているかもしれない。
その目線を持てるようになったのは『嫌だったことリスト』があるから……これはイイ話ですねー

意思決定としては“NO”でも、感情には“YES”で返すことができる。

いまはマネージャーとして仕事を進める責任があるので、「完全にメンバーの気持ちになる」ってことができないんですよね。
だからこそ、「自分と相手の考えは違うんだ」って前提でコミュニケーションするようにしています。

元田さん

フジイユウジ

メンバーの気持ちに寄り添える、良いマネージャーですねえ。
相手にしかわからないことを大切にしようとしても、マネージャーとして「それは違うよ」と言わないといけないことも多いんじゃないですか?

『嫌だったことリスト』に書いてある、嫌だったことの話をしますね。
私が目の前の仕事に打ち込んでいたときに「まったく違う仕事をやってみるのはどうか?」と提案されたことがあって。

元田さん

両手で身振りを入れながら話す元田さん

私のこれまで経験やスキルにまったく関係ないキャリアだったので、「私の人生とかキャリアをなんだと思ってるんだろう……?」って思ったんです。
私なりに「自分はこの仕事でもっと貢献して成長するんだ」と思っていたので、ものすごくガッカリしてしまったんですよね。

元田さん

フジイユウジ

自分なりに仕事と人生をどうしたいのか考えていたのに会社から道具みたいに扱われたように感じてしまったんですね。

でも、いまの立場になってから『嫌だったことリスト』を見返してみると、その当時の私は「ともかく気に入らん」って感じなんですよね。
上司や会社への不満を爆発させていて。

元田さん

フジイユウジ

その当時、めちゃくちゃキレてたんだなってことは伝わってきます (苦笑)

たしかにマネージャーとしては、メンバーの希望をなんでも叶えるわけにはいかないのは当然です。
だけど、この「気に入らん」って気持ちをケアすることはできるじゃないですか。

元田さん

フジイユウジ

わー、これピープルマネジメントに悩んでるミドルマネージャーみんなに聞いて欲しい話だな!
仕事の決定としては “NO” を言わざるを得ない場合でも、相手の気持ちに寄り添って話すことが「自分と相手の考えは違うって前提に立つ」ってことでもありますもんね。

そうなんです。
当時の自分も、希望がすべて思い通りになるなんて考えていたわけではなくて、自分の大事なキャリアや仕事のことを一方的に伝えられたことが不満だったんですよね。

元田さん

フジイユウジ

内容の問題だったわけじゃなく、コミュニケーションの問題だった。
そういうことで仕事が上手くいかないのって、世の中にめちゃくちゃ沢山ありますよね。

振り返ってみれば、上司も何か考えがあって言ってくれていたのかもしれません。
当時の自分は「そんな大事な話をなぜカジュアルにするんだろう」と受け取っていましたが、もしかしたら「こんな可能性はどう? あなたに合っていると思うよ」という提案のひとつだったのかもしれない。

元田さん

フジイユウジ

「向き合って話し合うことができたら、そう捉えられたかもしれない」ってことですね。人と向き合うって言葉にするのはカンタンだけど、難しいもんなあ。

メンバーに「意思決定としては “NO” だけど、あなたのその思いや感情には “YES” だよ」って姿勢でコミュニケーションをとることはできるんですよね。
チームメンバーに限らず、他部署だとか、こちらから”NO”を言わないといけない場合すべてに言えると思います。
もちろん、納得してもらえないこともあります。私も完璧な人間ではないので、失敗もあります。
でも、そこを背負って、向き合っていくのがマネージャーの仕事だと思っています。

元田さん

フジイユウジ

意思決定が “NO” のときこそ、相手に寄り添うことが大事って考え方、めちゃくちゃ良いですね……染みる…

そうなんですよね。
人間は機械ではないので、その人にとって大切なことを踏みにじられたら誰だってつらいです。
先程申し上げたように「私がたいしたことないと思っていることでも、相手にとってはそうではない」ということは多々あります。
だからこそ、ドライに決めて進める強い心だけではなく、一緒に働く仲間に寄り添う心とどちらももっていないといけないと思ってます。

元田さん

両手を自分に向けて話す元田さん

私、「清濁併せ呑む」って言葉が好きなんですよね。物事ってそんなにキレイに進まないものだと思うんで、折り合いのつけ方を考えないといけない。
マネージャーになったら、メンバーの希望を叶えられないことやメンバーにやってもらわないといけないことが沢山あって。
だからこそ、『嫌だったことリスト』を見て自分がメンバーだったころの気持ちを思い出すことが役に立ってると思います。

元田さん

フジイユウジ

めっっちゃ良い話!
メンバーのころの気持ちを忘れて、マネージャーになったら「メンバーはやって当然」に切り替わっちゃう人もいますからね。

『嫌だったことリスト』を読み返してみると、嫌なことをされたって気持ちがあったのは事実だけれど、単純に自分が未熟だっただけってことも沢山あるんですよね。

元田さん

フジイユウジ

つらいときに書いていた『嫌だったことリスト』が、マネージャーとしての元田さんやいまのチームメンバーを助けているってのが面白いですね。

そうなんですよ。
その瞬間のつらさを忘れないように書いていたものが、いまになって活きているのは不思議な感じもします (笑)
でも私は、気持ちを残しておいてよかったなと思いますね。

元田さん

まとめ: 元田さんから学ぶコミュニケーション術

「嫌だったことリスト」という一見ネガティブな記録が、他者理解と共感に基づく優れたマネジメント術の源泉になるという逆転の発想が新鮮でした。

  • 自分の経験が及ばない相手の大変さを完全に理解することは難しい。
  • 自分は相手のことがわからないからこそ、お互い話し合う必要がある。
  • 仕事の意思決定としてNOでも、感情にはYESで返すことはできる。
  • 決定を伝える際も、相手の意見や感情に耳を傾ける。
  • キャリアや人生に影響を与える話題は、丁寧に扱う。
  • 物事はキレイに進まない。「清濁併せ呑む」姿勢でお互いの折り合いを探る。

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(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2025年2月

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