「会社は現場のことをわかっていない」と感じているあなたへ ────ユニファCPO山口さんインタビュー
「会社は問題を理解しようとしていない」や「経営は現場のことをわかっていない」といったストレスを感じながら仕事をしている人は多いのではないでしょうか?
今回は、そのストレスから抜けて「経営に向き合う」という仕事スタイルを確立するコツをユニファ株式会社 執行役員CPO山口さんにお聞きしました。
どうぞ、最後の「まとめ」までお読みください。
山口 隆広
保育ICTシステム「ルクミー」のユニファ株式会社 執行役員CPO。
2020年7月にユニファに参画し、現在は執行役員CPO 兼 Dev本部長、AI開発推進部 部長。HCD-net認定人間中心設計専門家&評議委員、ねこ大好き。乗ってるバイクはXL750トランザルプ。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。
正しさを振り回して、マネージャーをクビになった話。
「経営層や上司にわかってもらえなくて辛い」って人、たぶん日本に5,000万人くらいいるじゃないですか。
山口さんは「会社はわかっていない」と正論を振り回していたところから、「経営に向き合う」という仕事スタイルに変わった経験があるとのことなので、それをお聞きしたいです。
マネージャーをクビになった失敗談ですね (笑)
担当していたエンタメサービスで成果が出て、昇進させてもらったんですね。
数字が伸びて結果が出てたから、イキってたんですよね。
これ、若いころの話なので、いまの会社(ユニファ)でのことではないんですが……
「自分は仕事ができる」と勘違いしてたんですが、たまたま前任から引き継いだサービスが良かっただけで、自分の実力じゃなかったのに「□□やるべき」って、べき論を振り回していて。
経営から出てきた戦略を見て、「いかにそれが無謀か」っていう説得するための資料を作成したんです。
仲の良いPMたちと一緒になって、人員配置や組織体制なんかも出して。
それを経営にプレゼンする機会をもらって。
資料もガッツリ作って、プロダクト開発の専門家として警鐘を鳴らすことができた、と。
それでどうなったかというと、、、
自分を含め関係者全員が外されました。
マネジメントはせず、プレーヤーしててくださいという形で。
ひらたく言うとマネジメントとしてはクビになったんですよね。
「この戦略を実現するために君たちを雇ってるのに、なんでできない理由を並べてくるんですか。自分の実力が足んないってことですか」ってシンプルに結論を出されて、外されたんだと思います。
それ、現場側からは「上が無茶なこと言ってるから、事前に失敗を止めようとした」って思ってやったんですよね?
はい。
現場から言うべきことを伝えないでおくのは組織を不幸にするので、余計なことを言わない方が処世術として正しいって話ではないです。
ただ、そのときは単に自分の実力がないのを相手のせいにしていたんですよね……
それは確かにそうなんですけど……
専門性のある人が「これ無理筋じゃね?」って考えを持って「言うべきことを言う」をやったら外されちゃったわけですよねえ……
無謀に見えてるとしても、会社経営として必要なことという経営判断があるわけです。
でも、現場の専門職って、自分の専門的な知識を信じてもらうために「説得したい」という考え方になりがちで。
現場の専門家(この場合はPM)が経営と話したいと思うときは、自分の専門スキルの観点で「説得したい」と考えてしまいがち。
「経営に向き合うPM」についての講演資料より引用。
あー、少しわかってきたぞ。
「会社はわかっとらんから、わかってる俺たちが教えねば」みたいな態度で言ってもダメってことですね?
経営側も考えてその戦略を出しているのだから、相手が何故その考えに至ったのかを理解した上で「言うべきことを言う」をやるべきだった。
そうなんですよ。
現場からの「このままじゃダメ」とか「人や時間が足りない」って問題提起は、それが正しいとしても重厚な状況説明をしただけに過ぎない。
正しいことを言ってるとしても、ただ重厚な状況説明をしたに過ぎない……!!
ぼくもやりがちなんで、耳が痛いっす。
このとき、なにをやらかしていたかっていうと、
忙しい経営チームを「この方針でやるのはダメっぽいからイヤです」ってレベルの話に付き合わせていたってことですよね。
経営からしたら、「難しいのはわかったけど、数字が作れず戦略にそって成長できない事業のダメージはどうすんの」となりますよね。
それに対して、現場が「どうするかを考えるのは経営の仕事でしょ」っていう姿勢なのが伝わってしまったんだと思います。
「無謀なこと考えずに、もっと無難な指示くださいよ」って言ってしまうのは、経営課題を解決する気がないってことですもんねえ。
「経営はプロダクト開発について知識がないから変なことを言っているんだ。専門家である我々から伝えなくては」みたいな感じになってたんです。
結果は逆で、「開発の人たちはわかっていないからね」と思われてしまった。
無謀な指示をそのまま受け止めるわけではないが……
「難易度が高くても、経営的には必要なことだ」という判断を汲み取らないままコミュニケーションしていたことが問題なのは理解できました。
とはいえ、現実的ではない無謀な指示をそのまま受け止めるわけにはいかないですよね?
経営がやりたいことがストレートに実現できない場合も、近しいアウトカムを得られる提案はできると思うんですよ。経営課題をちゃんと理解していれば。
経営と一緒にどう実現するかを考えられる、仕事のできるマネージャーだ。
自分が「経営に向き合えるPM」であるために、この考え方を軸にしています。
まずは山口さんのように「自分には問題が見えてるという姿勢が未熟」って気づくことが最初の一歩なんでしょうねえ。
会社が自分のようなプロダクトマネージャーをなんで雇っているのかって考えると、専門性を発揮して「良い具合にプロダクトマネジメントしておいて欲しい」からですよね。
「課題や方法論について知りたい」からではない。そこがズレないようにしないといけないですね。
「専門家からの説得」を止めて、「みんなが乗っかれる大義名分」に変えていく。
「専門家の説明というパッケージ」を止めるべき、とても納得できました。
一方で、方法論を細かく説明しないと相手も理解できないし、信頼してもらえないのでは?
という疑問もあるんですが……
自分はプロダクトが専門領域ですが、その領域だけではなく広い範囲に影響する「大義名分」を描くのが大事だと思います。
プロダクト(自分の専門領域)だけではなく、大義名分を描けるようになっていくためのステップ。
「経営に向き合うPM」についての講演資料より引用。
「自分の専門領域のことをわかってくれよ」ではなく、他部門や経営を巻き込むような大義名分を描くってことかーー
やるべきこと実現するためにも、周りを巻き込める形にするんだ。
経営課題のような難しいことから入らなくても、他部門の現場での課題を理解するだけでも違うと思います。
「専門家の説明というパッケージ」だと理解されないけれど、同じものを「複数部門の課題が改善される大きなもの」にするだけでも、期待のされ方が変わってきますから。
つまり、「みんなが時間やコストをかけられる理由」という大義名分を作って、みんなが乗っかれるようにする、ってことですね。
うわー、そういう整理されると頑張れる気がしてきたぞ!!
「ウチの会社は問題提起してもみんな解決に動かない」って拗ねてる人に刺さるわ、これは。
そのパッケージを作るためには信頼される必要もあるし、社内の課題を知っていないといけない。
現職のユニファでは、一緒に解決できる他部署の課題を探すために社内Slackのチャンネルに100以上入っていたりします。
自分の専門領域の外に染み出ていくことが「複数部門の課題解決」ってパッケージをつくる準備になるってことですね。
資料のためのデータをそろえるのに時間かけているチームがあれば、「こっちでDBからデータ簡単に抜けますよ」って声かけたり。
余計な手助けいらんから自分のことやってくれって断られることはないんですか?
断られることもありますけど、それは別にいいんですよ。
そのときは不要でも、あとから「○○できるって聞いたけど手伝ってくれない?」って別のメンバーから声がかかったりしますから、無駄になることはないですね。
大義名分をつくることで「これは経営レベルでも考えないといけないことだ」という目線を持ってもらえるようになる。
「経営に向き合うPM」についての講演資料より引用。
そういう手助けの提案を繰り返していっているうちに「大義名分」をつくる材料と信頼がどんどん増えていくんですよね。
課題解決と向き合っているうちに、経営の方があなたと向き合うようになっていく。
こうやって社内の課題解決してるうちに「自分が経営に向き合う」から「経営が自分に向いて話す」ように変わっていくんです。
自分の持っている専門性で課題解決をどんどんしていたら、そのうち経営から「この件について専門家の意見が欲しい」って言われるようになるんです。
あー
経営が「細かい指示をしなくても、専門スキルを使って課題解決してくれている」と認識したら、むしろ専門家の意見が欲しくなる……
意見しても聞いてもらえなかったのが逆転して、意見を求められるようになるんだ。
そうなんですよ!
意思決定の場に現場をよく知っている専門家がいたら助かると思ってもらえる。
課題解決を積み上げていくことで、「経営が頼る相手」になることができる。
「経営に向き合うPM」についての講演資料より引用。
専門家が正論棒を振り回しても、経営者は任せていいのか判断がつかない。
でも、大義名分をもって課題解決をしまくってる人の言うことなら信用したい……
現場の専門家がその認識を持てば、コミュニケーションが取りやすくなるんじゃないかなと思います。
「どうしたら話を聞いてもらえるんだー」って悩んでる人も、これ試してみようって思えるかも。
良い話だなー
何社かの経験を積んで、やっと今のような仕事ができるようになりました。
失敗した当時の自分は「わかっとらん」と言ってしまう程度の実力しかなかったということだと思うんですね。
すぐにできるというものでもないので、経営に向き合えるようになるまで、ゆっくり経験を積んでいくしかないんだと思います。
まとめ: 「経営に向き合える現場の専門職」になるには。
「会社はわかっていない」から脱却して、「経営に向き合う」に変わるために必要なこと。とても参考になる、大切なお話ばかりだったと思います。
- 自分の正しさを主張する前に、相手の目的や考え方を理解する。
- 問題提起で終わらせず、どうしたらできるかに取り組む。
- 社内の様々な課題解決に関わる
- みんなが時間やコストをかけられる「大義名分」を作る。
- 「自分が経営に向き合う」ことで「経営が自分に向き合う」になっていく。
記事中に引用している資料は、プロダクトマネージャー向けイベント「pmconf 2024 落選セッションお披露目会」で山口さんが登壇された際のものです。フルバージョンはこちらからご覧ください。
山口さんX/Twitter
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(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2025年2月