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社員10万人を動かした平社員────大企業での『これをやるべきですよ』の通し方。

見出し画像。真剣な表情のタムラカイさんとタイトル

上司や複数の部署が関わっているうちに、本来やろうとしていたことが削られて丸くなっていく────。「うちの会社はどうせ変わらないですよ」という声。

今回のAgendは、そんな組織の力学を乗りこなして、平社員の立場から10万人の社員向けのプロジェクトをやりきったタムカイさんにインタビューしました。

社長や役員に働きかけていったエピソードは、会社の変わらなさに辟易としている方、組織を動かす力を身につけたい方にとって実践的なヒントになるのではないでしょうか。
どうぞ、最後の「まとめ」までお読みください。

タムカイさん


タムカイ (タムラカイ)

富士通デザインフェロー。株式会社AFFLATUS代表。
創造の仕掛けと仕組みを描くプロセスデザイナー・ファシリテーター。ラクガキと対話で、人と組織の可能性を解き放つドットの人。
パーパスは「世界の創造性のレベルを1つ上げる」

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。

平社員が突撃した社員10万人の変革プロジェクト。

フジイユウジ

タムカイさんが富士通の社員として全社変革プロジェクトに関わったときの社内コミュニケーションについて聞きたいと思って、お時間をいただきました。
社員10万人を巻き込むプロジェクト推進をやったことある平社員、ってあんまりいないと思うんですよね (笑)

ちょっと黒歴史の扉を開かないといけないのでドキドキしますね……
社長や取締役とも調整をしながら大きなプロジェクトをやれたという気持ちもあるけど、いま思えば「自分が正しい」を押し通そうとしすぎてブロッカーになってしまった反省もあったり、良い話ばかりじゃないんで。
まあ、こんな経験をしたよというお話はできそうではあります!

タムカイさん

微妙な表情のタムカイさんのアップ写真

フジイユウジ

組織コミュニケーションに悩んでいるAgendの読者には刺さる話だと思うので、ぜひ……
タムカイさんが関わったプロジェクトって、どんなだったんですか?

「社会のDXを支える企業になるには、富士通自身が変革する必要がある」ってことで、Fujitsu Transformation というプロジェクトが2020年に始まったんですね。(通称:フジトラ)
会社のパーパスから見直して、役員も社員も変わるぞ!!すべてを変革するぞ!!!
……と、いう大きなプロジェクトで。

タムカイさん

フジイユウジ

おお、なんというか……その……大企業っぽいっすね……

で、パーパスを制定しましたって言われても、10万人もいる社員からするとそのパーパスっていう概念自体を知らなかったりするし、分かんないわけじゃないですか。

タムカイさん

フジイユウジ

さすがに10万人もいるし、「パーパスってなんや」みたいな感じになりますよね〜。
えらい人がなんか決めたらしい、くらいの受け止められ方になりそう。

そうなんです。
「何か決まったらしいよ」じゃ変革にならない。
ともかく今まで通りの考え方、今までのやり方のまんまじゃ会社を変えるのは無理なので、組織のカルチャーから変えなきゃいけないよねっていうのがあって。
「10万人の組織を変革させるのってどうするんだろう?」ってことを話し合うところからスタートしたんですよね。

タムカイさん

パーパス(Purpose)

「存在意義」を指す言葉。企業経営は、短期的な数値や利益に流されがちになるが、「自分たちは何のために存在するのか」という軸を持つことで、パーパスに沿った戦略と意思決定ができる。

社長が旗振りをやって、執行役員がその実行役みたいな感じで。
ぼくらプロジェクトメンバーは執行役員のもとで具体的にどう変革していくのか考えてデザインしたり、社内調整をするようなことをやっていました。
その施策のひとつとして、社員ひとり一人が自分のパーパスを探索していくことで、会社や仕事との向き合い方が変っていくっていうワークショップを生み出したんですよね。

タムカイさん

フジイユウジ

10万人超の社員向けのプログラムをつくり出すの、すごいっすね。

2021年から始まって、延べで10万人ぐらい実施してるはずで、今も新入社員1000人くらいが入社して2日目にやってますね。
社長もだし、副社長や役員もみんな体験して、納得してるから、ちゃんと「組織変革に使える」ものになったと思います。

タムカイさん

フジイユウジ

おー、社長も役員もみんなが体験して納得してるやつなんだ。

今では笑い話ですが、当時の役員のひとりが「俺こういうワークショップとか好きじゃないんだよなー」って言ってたんですよ。
でも、体験してもらったあとで「やっぱ、愛だな」って熱く語り出したりして (爆笑)

タムカイさん

フジイユウジ

体験することで「これを全社員がやれば会社が良くなる!!!」って目線が合ったってことですよね。
この規模の大企業で、アイディアを提案して、役員にそう言わせるところまで持っていくの、とんでもない苦労がありそう〜

大企業でよくある推進部的なところが作ったワークシートをドンと社員全員に渡して「はい、埋めてください」みたいなやつだと、何のためにやってるのかわかんないものになりがちじゃないですか。
全社変革っていうからには、「こういうの好きじゃない」って役員すらも納得して「これを全社員に」って言ってくれるような、際立った体験を作る必要があったんです。

タムカイさん

目的を達成できないくらい「丸くなって」も、誰もその責任は取らない。

フジイユウジ

複数の人や部署と調整しているうちに、本来考えていたようなレベルにならずに「何のためにやってるのかわかんない質のもの」になりがちですよね。
そのプロジェクトも「役員がこういうの好きじゃないって言ってたから変えよう」って話になってもおかしくなかったわけで。

トップから指示が出て、社内では「言い出したのは社長らしいぞ」ってピリッとはする。
それでも、色々な部署に調整にしたり、その中で部長や課長やらのレビューを受けたりしているうちにヌルいものになるんですよね。

タムカイさん

右の手のひらを広げながら前に出して、身振りを入れながら話すタムカイさん

フジイユウジ

あとから関わる人たちって、調査・企画してきた現場の人たちと同じ情報量を持っているわけじゃないし、同じ時間を考え抜いてきているわけでもない。
資料と説明会だけしか情報がないから、理解度が低いまま「これは大丈夫なの?」「ここは変えなくていいの?」と、指摘しなくていいことに言及しちゃうんですよね。
登場人物の誰ひとり悪意はないんだけど、状況は悪くなっていくってのは大組織あるあるだ。

色々な人のそういう指摘を調整しているうちに、丸まって、丸まって、丸まって……フンワリして、尖ったところも、際だったところもないものになっていく。
目的を果たせないくらい丸くなっても、誰もその責任は取らない。

タムカイさん

フジイユウジ

聞いてるだけで目眩がするな (笑)

過去を思い出して悩み顔をするタムカイさん

フジイユウジ

そんな、尖ったところがなくなっていく「丸くなる力学」がある中で、よく「このワークショップは変革に必要だ」って理解してもらって、10万人に向けて実行するところまでもっていけましたね?

社長や役員に対して平社員が提案できる機会なんてそうないし、本気だしたらどうなるか、やってみようって思ったんですよね。
なんというか、「この大企業で純度の高い想いをブチ通してみよう」って想いと覚悟がガンギマリだったからやりきっただけというか。

タムカイさん

フジイユウジ

想像してみると、すげー覚悟ですよね。
否定されようが、意味のわからんやつの相手をすることになろうが、ストレスを乗り越えて「純度の高いまま社長や役員まで届ける」って覚悟なんて、ほとんどの人にはないんじゃないの……

そうなんですよね。
「こうなったらスゲーいい」って純度の高い想いを丸くならないように守って、一番上の意思決定者まで持っていく。
そのためのルートがなかろうが無理やりきり開いて、ブロッカーをすべてブッ飛ばしながら進んでいくってことが必要なんで、自分のテンションをちょっとおかしくしてないと、やり切るのは難しい。

タムカイさん

自分が平社員である以上は、キーマンを通してでないとインパクトのある意思決定を促せない。

フジイユウジ

これは、いい苦労話が聞けそうだなー (笑)
ブロッカーをすべてブッ飛ばすって言ってましたけど、たとえばどんな壁にぶつかったんですか?

まず、定例ミーティングに参加させてもらえないってことがあって。

タムカイさん

フジイユウジ

えっ

実は最初からこのプロジェクトに呼ばれたわけじゃなくて、やりたいですって手を挙げて直談判しただけの平社員だったんで。
定例ミーティングに入れてもらえないんですよ (笑)
まあ、経営に関わることだからとか、前提や事情があったとわかるんですが、なんならキックオフの設計やるのも僕なんですよね。そういうの作って提出してくれればミーティングには参加しなくていいよって。

タムカイさん

フジイユウジ

あー、「偉い人たちの会議だから、参加しなくていいよ」ってなるのか。
そう言われたからと素直に従っていたら、尖ったところが削られて丸くなるんですよね。

まずはミーティングに席を作ることからやりますよね。
最初に役員に「会議に入れて欲しいです」って連絡しました。

タムカイさん

腕組みをしながら苦笑いをしているタムカイさん

すると、参加者を決めてる人から「どういうこと?」ってチャットが飛んでくる。
でも、その人と僕だけで話しても、なにかと理由をつけて会議に参加させてもらえないから、「プロジェクト責任者である役員も入れて話す機会をくれ」って言いました。

タムカイさん

フジイユウジ

「偉い人たちだけで話す場だからってタムカイに言って納得してもらいました」って役員に報告されて終わりになりそうだけど、うまく回避しましたね (笑)
社内政治ドラマじゃん。

意思決定者である役員にも同席してもらって話し合ったら、結果として「お前も会議に出ていいけど、何の発言もしないんだったら参加する意味ないよね」って言われたんですよ。
こうなったらチャンスですよね。
ミーティングの場でガンガン発言させてもらえるようになった。「こいつが会議にいる方が進むな」と思ってもらえることが大事だったと思います。

タムカイさん

真剣な顔で話すタムカイさん

フジイユウジ

でもね、そうやって強引に押すだけじゃ、通らないことも多いんじゃないですか?

もちろん、そうです。
キーマンに対して、自分が貢献できることをしっかり身をもって示すことがまず大事だと思います。
やはり自分が平社員である以上は、キーマンを通してでないとインパクトのある意思決定を促せないので。

タムカイさん

フジイユウジ

おー、イイ話。
正しいと思うことの実行力を得るには、独善的にやるんじゃなくて、貢献できるってことを見せるのが大事。
「相手から見て、貢献できるやつに見えているかな?」って観点は大事ですよね。

自分のやろうとしていることを進めるには、力のある人の意思決定が必要という組織の力学がある以上、その人から見て役立つやつにならないといけない。
だって、大企業にいる人の仕事って、基本的にオーダーに対する回答じゃないですか。

タムカイさん

フジイユウジ

なるほど。
基本的には、降ってきたオーダーをやる仕事である、と。

オーダーされていないことをやろうとすると、「そんなこと求めてない」と通らない。
だから、相手のオーダーに応えながら、「期待を超える形」にしてオーダーされていないことも盛り込んでいく。

タムカイさん

フジイユウジ

うおおおおおおおおお!!!なるほどーーー!
これ、正論で正面突破しようとして上手くいっていないすべての人に聞いて欲しい話だわ!

◯◯について提案してほしいって話があれば、相手がオーダーしていることを十分に満たしたものを持っていく。
そこに「これも一緒にやる必要ありますよね?」って形でオーダーされていないものを盛り込んで、相手の期待を超えたものにすると、ふりむいてくれる。

タムカイさん

フジイユウジ

「これやった方がいいですよ」って自分の正論だけをぶつけても、相手はそれを飲み込めない。
相手のオーダーに盛り込んで持って行くと相手もスッと入るんだ。めちゃくちゃ有用テクニックじゃないですか。

期待を超える仕事をしていれば、黙っているより意見を言ったほうが信頼が高まるくらいになる。
「いや、もっとこうだと思いますよ」って意見を聞いてもらえるようになるんですよね。
オーダーにしっかり応えきって、キーマンとの信頼関係を作っていったのが、肝だったのかなと思います。

タムカイさん

熱意のない批判者に屈する必要はない。

時に逆風もたくさんありましたけど、結局やったもん勝ちです。

タムカイさん

フジイユウジ

「これをやったら会社が良くなる」と思ってることは、やりきらないと意味がないし、やりきるしかないってのは本当にそう。
ただ、ほとんどのAgend読者はここまで読んで「こんなに頑張れないよ〜」って思うんじゃないかな……

たしかに大きくことを動かそうとすると抵抗されることもあるし、現場維持バイアスもあるから、萎えますよね。
でも、「あのプロジェクトさえなければ、うちの会社もっと上手くいくのに」とか「お前のやってることは会社に致命的なダメージを与えてる」なんて言われることはないですよ。

タムカイさん

フジイユウジ

あ、たしかに。
せいぜい、「なんの意味があるんだ」とか、「やり方が良くない」くらいのもんよね。

そうなんです。批判的って言っても、その程度の熱量しかない。
実は、「なんの意味があるんだ」ってずっと言い続けられる人なんていないんですよ。
面白いことに、こっちがやり続けてると協力者に変わったりする。

タムカイさん

フジイユウジ

どうせ、批判し続ける熱量なんて続かないから、会社を良くする取り組みを「やりきる」ことは可能、ってことですね。

批判とか叩かれはちょいちょいあるんだけど、相手にそこまでの熱量はないから、せいぜい文言をちょっと変えるとか、そういう些細なことで切り抜けられる。
めちゃくちゃ面倒くさいですけどね (笑)

タムカイさん

フジイユウジ

私利私欲でやってるわけじゃなくて、会社にとって良いことやってるわけだしねえ。

「平社員のくせに何言ってんだ」という顔をされることは何度かありましたし、傷つくような批判もなくはないんだけど、ともかくそういうのをスルーしていけば進んでいく。
何かをバーンってやるときって、全員が大賛成ってことはないんだけど、進んでいくうちに8割が「あれ、良いよね」とか「あのプロジェクトのおかげで助かった」って言う雰囲気になっていくから。

タムカイさん

フジイとタムカイさんが向かい合って話している写真。タムカイさんは楽しそうに大きな身振りを入れながら話し、フジイはそれを聞いている

僕のやったプロジェクトの場合は、「この取り組みのおかげで、若い世代や想いがある社員たちが輝いてる」って社内で言ってくれる人たちが増えてきて、完全に雰囲気が変わりましたね。

タムカイさん

フジイユウジ

大組織は、問題を抱えながらも個別最適でぬるっと進むことに慣れてはいるから、そこをハックしてるとも言えるな〜。
つまり、実はそこまで強く批判されるわけじゃないから、進めてしまえばいいだけなんだろうな。

そうですね。「屈しない存在」って、大組織にとって一番めんどくさいやつなんですけど、それをやれば進むんですよ。
デフォルト「どうせだめだろう」って屈する人ばっかりなんだけど、屈してしまうとどう仕事をしていくのかって自分の戦略性を失う。
些細なことでイチイチ時間かかるから、チッとは思うけど (笑)
チッって思う程度の批判に折れて、自分の持っている戦略性を失わないようにするのが大切だと思います。

タムカイさん

まとめ: 「丸くなる」力学を戦略的に乗り越えていく。

最初は「気合とやる気で乗り切る」という内容かと思っていたのですが、よくよく聞いてみると、組織の力学を理解して戦略的に乗り超えていく話である、と理解しました。

  • 「丸くなる力学」を理解し、純度の高い想いを守り抜く
    大企業では多くの人が関わることで企画の尖ったところや際立ったところが「丸く」なる構造がある。最初の純度の高い想いを意思決定者まで直接届けるルートを自分で作ることが必要。
  • 組織内の信頼構築は「オーダーされたことをやる」が大切。
    平社員であっても、キーマンに対して期待を超える貢献を示すことで信頼関係を築ける。「正論」を突きつけるのではなく、オーダーされたことに応えながらも相手の期待を超えるレベルにしていくことが「この人の意見なら聞こう」につながる。
  • 「屈しない存在」になれば組織は動かせる
    批判や反発はあっても、それを言い続ける熱量を持った人は少ない。会社にとって良いことをやっているという確信があれば、強いハートで批判をスルーしながら進むことで、最終的に協力者を増やしていける。

組織の変革はたしかに大変なのですが、戦略的に取り組めば平社員でも大きなインパクトを生み出すことができる──そんな希望を感じさせてくれるタムカイさんの体験談でした。

タムカイさんX/Twitter

タムカイさんプロフィール


(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2025年7月

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