仕事の成果につながる「No」の伝え方───『Noを伝える技術』著者、飯沼亜紀さんインタビュー
「上司から押し付けられた仕事をおかしいと思いながらもつい引き受けてしまう」「お客様からの無理難題を断れない」、そんな経験はないでしょうか──── これは、『Noを伝える技術』の一節です。誰しもがそんな経験があるのではないでしょうか。
今回のAgendは、まさに書籍のタイトルの通り『Noを伝える技術』が身につく方法について、著者の飯沼 亜紀さんにお話を伺いました。
どうぞ、最後の「まとめ」までお読みください。
飯沼 亜紀 (Aki)
『Noを伝える技術』著者。現在はフリーでプロダクトマネジメント支援やプロダクト組織づくりのサポートをしている。 大学卒業後、ソニーデジタルネットワークアプリケーションズ入社。その後、ユニクロ(ファーストリテイリング)でEコマース、日本マクドナルドではモバイルオーダーなどデジタルプロダクトを統括し、大規模なプロダクト開発に携わってきた経験を持つ。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。
「Yes」は勢いで言えるとしても、「No」を伝えるときは意志と設計が必要。
この本って『Noを伝える技術 プロダクトマネージャーが教える「敵を作らずに断れるようになる」作法』ってタイトルが良いですよね〜
敵を作らずに断れるようになる方法、めちゃくちゃ知りたいです(笑)
ありがとうございます。
タイトルの通り、断り方をテーマにした仕事のコミュニケーションの本です。
具体的に言うと、「なんで No を伝えきゃいけないんだっけ?」とか、「何を基準に No と言う判断をするのか」ということを書きました。
「Yes」は勢いで言えるとしても、「No」を伝えるときは意志と設計が必要で。
長期的に考えたら、「No」を伝えないとあんまりいい未来が待ってないっていうのはわかるはずなんですけど、その瞬間だけ見るとYesって言った方が楽じゃないですか。
ですよねえ。
ニンゲンは楽なことに引きずられちゃうんですよね。
波風を立てたくないみたいな心理って、どうしても働きますよね。
目の前に波風立たせない選択肢があるのだから、「No と言わない方が良いな」と考えてしまうんだと思います。
とりあえず「Yes」とさえ言っておけば、自分はそれ以上の責任は負わないで済むんですよね。
でも、「No」を言ってしまうと、「なぜ No なのか」を伝える説明責任が発生するんですよね。
その負担もあるから言うのが大変なんだと思っていて。
あー、たしかにそれありますね。
「No」を言われる側じゃなくて、伝える側が説明しないといけないから、ちゃんと相手が納得するような内容と言い方を考えないといけなくなる。
それに、Yesって言っておけば、結果が悪くても「みんな Yes って言ってたしな……」みたいな話になるんです。
逆に「No」を伝えた結果が悪かったら「お前が No って言ったからじゃん」みたいな話になりそうですよね。
なるなー、絶対になる。
その責任というか、リスクを感じてしまうから「No」と言いたくなくなるし、難しいことになってしまうわけか……
“No と言う”のではなく、“No を伝える”。
書籍では、ストレートに「No を言う」こととは少し違う、「No を伝える方法」が説明されていますよね。
直接的に言わずに伝える方法として、「No」という否定の言葉ではなく、「Not (〜ではない)」に分解するのが大切という説明をしています。
「No」の中にどういう「Not」が含まれているのか、という話にしていくことで、前向きで建設的な話にできるんです。
代表的な4つの「Not (〜ではない)」
書籍内では4つだけではなく、さまざまなパターンのNotに触れられています。
- 今ではない (Not Now)
- その方法ではない (Not That Way)
- このプロダクトではない (Not This Product)
- ビジョンに合っていない (Not Allgned with the Vision)
例えば、「今じゃないです(Not Now)」という状況では、「今すぐはこういう理由で対応できないが、3ヶ月後であれば着手できる」という言い方はできますよね。
そういう感じで伝えれば、「やりません」とは一言も言ってないじゃないですか。でも、「今はやらない」ってことは十分伝わってますよね。
あ、もしかして、これって「断り方」っていうよりも、相手と対話するための文脈に変えるというか、そういう感じの話ですか…?
「No」と言われる側は、何が変わったら「Yes」になるのかが一番知りたいことじゃないですか?
あああああ!!!
「Not」にすることで、前向きで建設的な話にできるという意味がわかりました。
相手と「どういう状態になったら、実施できるのか」っていう前向きな話をするための条件を伝えてるってことですよね。
それをちゃんと伝えてあげるのが、ここの肝ですね。
「No」というものは、伝える側にとっても、言われる側にとっても厳しいものだから、できるだけ直接的に「No」を言いたくない。
それを「Not」にする。
これって「俺はちゃんと強く断れるぜ」って勘違いしてる人ほど知ったほうがいい伝え方ですよね……
強く拒絶するのも良くないし、その場しのぎで Yes とも No ともとれない返答をしてしまうのも中長期的に良くない状態になりますよね。
ただ断るだけでも、曖昧に先延ばしにするのでもなく、前向きな話にしたいんです。
「No」を伝える側としても、やりません・できませんって話をするんじゃなくて「これが変われば、選択肢が増やせる」って話にはメリットありますよね。ビジネスの手札が増える話ができてるわけだから。
「断り方」じゃなくて、事業やプロダクトを前向きにする話なんだなあ。
「No」を伝えた方が良いような気がするけど、自分が正しいという確信が持てずにモヤモヤ……
『Noを伝える技術』というものが、断るだけの技術ではなく、前向きに「どの打ち手がより良いか」を話せるようになる技術であるってのは面白いですね。
とはいえ、伝え方より手前の段階として、Noを伝えた方が良いような気がするけど、自分が正しいという確信が持てずにモヤモヤしているってのも多そうなんですよね。
迷ってるときは「自分はこう思うんですけど、どう思いますか?」みたいな問いを投げかけてみるといいんじゃないですか。
まだ「No」を伝えるレベルじゃないときでも、モヤモヤしたまま黙ってしまうのではなく、相手がどう思うのかを率直に聞く方がいい。
それはそうですね……
相手がどういう反応をするのかを見るのも必要だし、考え方とか相手の立場を調べてみるといいと思います。
「なんでこうしたいと言ってるんだろう?」を知らないと、「No」を伝えるべきかどうかもわからないので、相手が大切にしていることや意図を知るのはすごく大きいと思います。
『Noを伝える技術』には、Akiさんのユニクロやマクドナルドでのご経験が書かれてますよね。
「相手が大切にしていることは何なのかを知る」っていうのは、そういった大きな事業を前に進める中で磨かれてきたんでしょうか?
どんな組織であれ、必要なものだとは思います。
例えば、ユニクロの柳井さんは、大きいイノベーションをいかに早く作れるかというところに興味関心があったので「こんなイノベーションあります」って言ったら乗ってくるわけですよ。
一方で、私がマクドナルドに入社した当時の社長だったサラは、「お客様ってどういうふうに考えてるの?お客様はこれをどういうふうに受け止めるの?」みたいに顧客体験の話をしたい。
ビジネスをどう成功させるかを考えている経営者でも、いま興味関心が強いことや考え方が違うのだから、伝え方が変わるよねって話ですね。
そうです。
もしも、サラに「こんなイノベーションあります」って言ってみたとしても、たぶん「イノベーション?それでお客様はそれをどう受け止めるの?」って言うんじゃないかなと思うんですよ。
だから、伝え方の前にまず相手の考え方とか立場を知ることが大切というのは、本にもしっかり書いています。
「私は No を伝えなくてはならない」と思えたら、あとはどう伝えていくかの話になるんですけど、まだまだ判断ができないってレベルだったら、相手がどう考えているのかを知ることをしないといけない。
「Yes」と「No」のどちらにするのでも、確信をもって意思決定できないなら、ちゃんと情報を集めましょうっていう話なんですよね。
No が言えずにモヤモヤで立ち止まってしまう人は、意思決定のために情報を収集してないままってのは、結構多そうですね。
「Yes か No かを判断できるようになる」って難しくないですか?
……とはいえ、自分が判断できるようになるって難しくないですか…?
上司の言われたままに行動する人は、上司の方が経験があるから従おうって考えちゃってる。
ビジネス側に言われるがまま作っちゃう開発チームは、自分たちはビジネスに詳しくないのだから、相手に従って作るのがベストだと考えていたりするじゃないですか。
プロダクト開発の例で語ると、開発者が自分の言葉で「こういう課題があって、こういう方法で解決すれば、こんな良い結果が得られるから、今すぐやるべきです」と説明できるんだったら、「判断ができる状態」と言える思うんです。
それを全部抜かして「偉い人が言ったのでやりましょう」とか、「〇〇部からの要望の機能を作ってください」っていうコミュニケーションをしてしまうんですよね。
「この機能を作ってください」とか「これをやって欲しい」までは理解してるけど、なんでそれが必要なのか理解していないまま「Yes」にしてるわけですよね。
…ということは、自分たちがやっていることが正しいのかどうかを判断できていないわけじゃないですか。
それって判断力っていうよりは、判断基準の問題なんですよ。
判断力じゃなくて、判断基準の問題!!!
これは名言だし、プロダクトマネージャーだからこそ出てくる言葉ですね。
経験とか知識を高めて個々が「判断力」を持つのではなく、組織だとかチームとしての「判断基準」で対話すればいいよって話なんだな〜
自分の力で「判断基準」を作ろうとしたら、迷うし、モヤモヤするのも当たり前かなと思うんですね。
会社にいる以上、その会社の目標とか戦略ってあるわけじゃないですか。
そこから目標を達成するためのKPIが設定できて、その中でも特に重要なKPIって今は何なのか、みたいなのは語られているはずなんですよね。
一般社員の方だと「戦略とは……?」ってなってしまう人も多そうなんですよね……。
どんな会社でも、社長とかが社員に対してありがたいお言葉を投げかける場面ってあるじゃないですか。要はそれが会社の戦略なわけですよね。
その戦略を個々が理解して実行できるようなマネジメントとか、会社の仕組みがなきゃいけないんですけど。
ありがたいお言葉 (爆笑)
会社やチームが描いている戦略を絵に描いた餅にせず、自分たちがやるべき仕事はなにかという「基準」を作るのは大切ですよね。
そういう判断基準になる前提の情報がそろっていれば、「No」なのか「Yes」なのか、自分個人の判断じゃなくて、基準に照らし合わせてるだけで答えは出せると思うんですよ。
「これをやって欲しい」であるとか「こっちを優先してくれないか」という話が飛んできても、判断基準から見て優先順位をどうすべきか明確になるので。
自分の意思決定に責任を持つと、迷わなくなる。
事業やチームの判断基準をちゃんと理解して、「Not」に分解して伝えていくといいよってことですね。
それであれば、自分の Yes / No の感覚では間違っていた場合でも、判断基準に照らし合わせていることで自己修正できますし、迷わなくなりそう。
そういう材料を集めて、意思決定した先でなにが必要になるかというと、「Yes」にしたとしても「No」を伝えるとしても、自分の意思決定に責任を持つことだと思うんですよ。
うおおおお、それだー!!!!
Yes / No どちらが目の前にいる相手とうまくやれるの答えなのか……みたいな相手に合わせた正解探しをすべきではないってことですね。
どちらを選んでも、ちゃんと結果を出すために責任もってやり切れるかどうかが大切なんだ。
そうです。
つまり、「Yes」や「No」という意思決定をしたら、それを正解にするための努力をどれだけできるかってことなんですよね。
だから、「私は No だ」って伝えたら、「No」にして良かったねとなるような結果を作りにいく。
ここまで「No」を言えるようになるにはどうしたらいいのかって話をしてきましたけど、「自分が意思決定したあと、努力をどれだけできるか」で決めろって考えればわかりやすいですよね。
みんな「正解探し」をしがちじゃないですか。
正解を探してしまうと、「Yes もダメな気がするし、No でも違う気がする」ってモヤモヤして、ずっと迷ってしまう。
そうですね。
100%の正しさって自分が神じゃない限りはわからないのだから、もうそれに尽きる。
自分でいかに正解に近づける努力をできるかなんですよ。
「なんとなくプロダクトマネージャー的な思考が身についていたらいいな」
書店で『Noを伝える技術』ってタイトルを見た人は、自分のやりたいことを通す伝え方を学べるとと思って買うと思うんですね。
でも、実際は「事業やプロダクトをどうするか」って内容なんで、読んでビックリするかもしれないって思うとちょっと愉快ですね (笑)
この本は『Noを伝える』言い方だとか、関係性を作る技術を書いた本なんです。
でも、裏側にはやっぱり事業やプロダクトをどう良くしていくかっていうプロダクトマネジメントの考え方があって。
著者である私の思惑としては、プロダクトマネージャーじゃない人がこの本を読んだ後に、なんとなくプロダクトマネージャー的な思考が身についていたらいいなっていう考えがあるんですよね。
より良い判断基準と責任を持つためのプロダクトマネジメント的な意思決定法を広く伝えることを意図した本。
それは、ぼくがこの Agend というメディアを作った目的と同じですわ……
これは本にも書いていますけど、アプリにいろんな機能を追加していくべきと言われたのに対して「Yes」で応えてしまって、成果に結びつかなかったという体験があるんですよね。
そういうときに「No」を伝えられないと良い結果を得られない。
そういうのは、まさに「プロダクトマネージャー的な思考」ですね。
「プロダクトマネージャー的な思考」って言い方だと難しいことのように聞こえてしまうかもしれないですけど……
顧客やユーザーがなにを達成したいのか、なにをしたら嬉しいのかを知って、「そもそものビジネスのゴールって何なんだっけ?それに向かって我々は何がしたいんだっけ?」を考えるってこと、要はそういうことなんです。
これをビジネスパーソンみんなが普通にやってたらハッピーだよねって思うんですよね。
まとめ: 未来の選択肢を増やす、断る技術
- 良い結果を出すためにもやるべきことを選定する、プロダクトマネジメント思考で仕事をする。
- 「No」を直接言わなくても伝えられる。相手の求めているものや相手の見え方に合わせて「なにが変われば Yes になるか」を「Not」で伝える。
- 迷いは“判断力不足”ではなく“判断基準の欠如”。基準を学び直す。
- Yes でも No でも、意思決定に責任を持つために「正解にするための努力」を徹底する。
AkiさんX/Twitter
Akiさんnote
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2025年10月