プロフェッショナル集団のチーム作り。株式会社JADEのコミュニケーション文化とは?
2019年に設立され、「インターネットを良くする会社」をミッションに掲げてWebマーケティング業界のトッププレイヤーたちが集う株式会社JADE。
そんなプロフェッショナル集団では成果を出すためにどのようなコミュニケーションを取っているのか。今回は株式会社JADEの伊東さん、長山さん、小西さんにお話を伺いました。
伊東 周晃
JADE代表取締役社長 兼 最高執行責任者。
1975年奈良県生まれ。株式会社ぐるなびでSEO及びソーシャルメディア施策、ウェブ解析、コンテンツマーケティング、広告、広報領域の執行役員をつとめ、2020年1月からJADE代表取締役社長。
長山 一石
JADE取締役創業者 兼 最高戦略責任者。
1987年 京都府生まれ。Google、Twitter などで主にスパム・アビューズ対策領域で活躍。Google では、検索と Play における Trust & Safety 領域にプロダクト分析の視点から深く関わる。2019年に株式会社JADEを創業。
小西 一星
JADE取締役 兼 最高コンサルティング責任者。
1980年群馬県生まれ、神奈川県育ち。ネット広告代理店でリスティング広告の運用を経験、その後に独立しハイパス株式会社を設立。株式会社JADEは創業時から参画している。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。
コミュニケーションのためのフレームワーク文化
今日はJADEさんのようなプロ集団は社内コミュニケーションをどうやっているか、その話をお伺いしたいと思い、お時間をいただきました。御社は、オフィスが秋葉原と渋谷に2拠点あり、その上で出社自由というスタンスで働ける土壌を作っているとお聞きしたのですが、社内コミュニケーションの工夫ってあります?
とにかく、わりと普通なことしかやってないって気がしますけどね。
長山さんにとって普通だとしても、世の中的に普通かは分からないですよ…(笑)
僕らにとってはもう慣れてしまって何が特別かも分からないんですけど、他と違いそうだなあという点を挙げるなら、まずコミュニケーションはこうあるべきってことを先に考えて共有してあるんですね。
言われた言葉はその通りに受け取って裏を読み取らないみたいなことだったりとか、打ち合わせ前に予備的な打ち合わせをしないとか。そういう社内調整的なことはしないようにしてますね。
で、採用の時点からその文化に合うか合わないかで採用していくというのが根本にあって。
コミュニケーションのフレームワークを先に決めているんですね。
JADEのコミュニケーションは「ぶぶ漬けフレームワーク」
ちなみにJADEの組織文化は「やりたくないこと」から先に考えたんですよ。
JADEでは「やりたくない」ことをわかりやすくするために例えとして使っているんですよ。
ガンダムの富野由悠季監督が松竹株式会社の社長に映画化の直談判をしにいったら、「ぶぶ漬けでもいかがどす?」と言われるシーンを描いたマンガがあるんです。フィクションかノンフィクションかわかりませんが。
京都的な表現だと「ぶぶ漬けでもいかがどす?」と聞かれるということは、つまり「やりたくない。帰ってくれ」という意味なわけですけど、そのマンガで富野監督は言葉の裏を読まずに「熱々のを一杯もらおうか」と答えるんですよ。
「ガンダム」を創った男たち。 (大和田 秀樹/角川コミックス・エース)より引用
なるほど。
先ほどもおっしゃっていた、あえて言葉の裏を読まないという話ですね。
やりたくない仕事を「押しつけられた」と感じたときに渋々その仕事を引き受けるとか、遠回しに断るのではなく、何故やりたくないのか理由をちゃんと言葉にする。
断られた方も「なんだ、俺のお願いを断るのかよ」みたいにとらえず、やってもらわないといけないなら、相手の話を聞いて、やってもらうべき理由をしっかり説明をしようと。
言葉にされていない意図を読みとってもらおうとしたり、言われてもいないことを読み取ろうとするのを止めて「熱々のを一杯もらおうか」を大事にする文化にしようと考えています。
「ぶぶ漬けでもいかがですか?」って言わないし、言われても裏を読まないってことですね (笑)
なにか「間違っているよ」という指摘をするとき・されるときも、人格否定ではなく、行為が間違っているという事実だけ認識するようにして欲しいわけです。
裏を読み取ると「自分のこと嫌いなのかな」とか余計なことを考えてしまうので、とにかく裏に真意がないようなコミュニケーションを徹底するように伝え続けています。
すごく極端なことを言えば、他人の本当の気持ちとか本音ってわからないですよね。
でも、仮に本音がわからなかったとしても、業務を前に進めるために必要なコミュニケーションがきちんと取れていて、業務が前に進んでいれば、仕事という文脈ではそれで十分なんですよ(笑)
その結果、オンラインでのチャットコミュニケーションもスッキリするんです。余計な情報を行間から読み取る必要がないですからね。
ニュアンスが伝わりづらいところは、直接話し合うことで解決してることもありますが。
裏を読まなくて良いコミュニケーション文化づくり、とてもとても良いなーっと思うのですが、そういうの苦手な人もいるんじゃないですか?
相手の言葉の裏ばかり考えてしまうタイプっているものだと思うんですけども。
そうですね、苦手な人もいると思います。それは気質の問題だと思うので、別に変える必要はないと思います。
ただ、それが原因で、JADEでうまくパフォーマンスが出せないとなった場合は別です。それはJADEという組織の問題となるので、マネージャーが解決するべく動きます。
JADEにおけるピープルマネージャーの定義は「部下の成功に責任を持つ人」なので、部下の成功が阻害されている状況を見かけたら、しっかりその問題を取り除くように動くのがマネージャーの仕事です。
おお、単に「ウチに合わない人だ」となるわけではなく、組織の問題としてとらえるんですね。
「作業中のものを見られるのは恥ずかしい」や「途中で指摘されたら嫌だ」を乗り越える、徹底した共有文化
社内コミュニケーションや会議のやり方で何か工夫されていることはあります?
うちでは基本的に情報共有ツールとしてNotionを活用しています。Notionに共有すべきことを「アップデート」として書いて、その上で話し合いたいことを「ディスカッションして決めたいこと」として明確にするくらいですかね。あとは決まったこと、次にやることをまとめるくらいで。
JADE秋葉原オフィス。奥に見えるのはリモート会議用のボックス
アップデート、書くべきことが少ない場合が多いですね。普段から共有できてることが多いから。
コミュニケーションすべきことは普段の共有だけで足りていて、ミーティングしてまで決める必要があることだけを抽出してるんですね。
それは効率いいな。
そうですね。「状況わかってるけどなんか話すことある?」みたいな感覚になれていることが多くて、ミーティングになってからしっかり聞いて考えないといけないような報告がドーンと出てくるようなことはないです。
逆に言うと、「そういう仕事の仕方はやめようね」というのが前提として共有されている感じはあります。
それって多くの会社が理想としつつも、なかなかできないような情報共有ができてるってことじゃないですか。。。
それって凄いことでは……?
過程を共有するためには、「なんか作業中のものを見られるのは恥ずかしい」とか「途中でなんか指摘されたら嫌だな」って障壁を超えないといけないじゃないですか。
そうならないように、指摘されるにしても途中でフォローしてもらって得したなと感じるとか、どんどん共有する方が良いと感じるようなコミュニケーションはできていると思います。
お客さまにも「見せてはいけない情報」なんてない方がいい、プロチームのコミュニケーション
次はクライアント、御社の顧客コミュニケーションについて聞かせてください。
コンサルティングチームはクライアントさんに対してどういうメンバー構成でお仕事されていらっしゃるんですかね。
クライアントごとのプロジェクトチームを構成します。
責任者としてリーダーが1名、SEOなり広告なりの実務を担当するメンバーが2〜3名、の合計3〜4名で構成されることが多いです。
基本的にはリーダーが戦略設計を行い、実践面をプロジェクトメンバー全員で話し合って進めていきます。
チーム構成は当然ながらお客さまの課題に合わせた体制にするんですが、ワンオペにならない様にしていますね。
SEOやWeb広告などWebマーケティングを通した課題解決コンサルティングって、正直かなり難しい仕事だなと思っているんですけど、どんな風に進めてるんでしょ?
「この案件は半年後になにを目指すのか」をプロジェクトチーム内で検討してもらい、それを社内で発表してレビューするということをやっています。
レビュアーにはJADE社内のSEOが強い人や解析の強い人といった各領域のスペシャリストがいますし、Lead(経営陣)もレビューしているので、様々な観点でのレビューが入ります。
担当チームに任せるだけじゃなく、技術的なスペシャリストの観点とクライアントの事業全体を見た社内レビューで施策が磨き上げられてくってことですね。
これはプロ集団らしい良いコンサルティング……!
社内だけではなくお客様にも厳しいフィードバックをお伝えすることはあります。
JADEでまとめたSEOのフレームワークがあるのですが、それに合わせて「6か月かけて検索エンジン向けの部分は我々でやりきれるけれども、その間に検索ユーザーの解決につながる情報をどう届けるかは御社でも考えてください」というフィードバックを出したりします。
結果を出すための必要なフィードバックであるなら、ちゃんと伝えるというのは良いですね。
プロジェクトの管理や共有にもNotionを使っていて、そのNotionはお客さまも見られるようにしてます。
まだお客様に伝える段階ではないようなドラフトや検討の途中経過も共有されているのですが、実際にはお客様が事前に見てくださっているケースもありますね。
定例会議でまとめた話をしようと思ったら、打ち合わせ前にもう確認が終わっていて、スムーズに打ち合わせが終わったり(一同笑)
途中経過も含め、お客さまに見せてはいけない情報なんてない方がいいじゃないですか。
社内情報とは別の、見せるための情報をキレイに整えても仕方ないですし。
お客さまも巻き込んで効率良く会話できる状態を作っていくようにしていますね。
いやぁ、クライアントとの関係を築いてるというか、いい仕事ですね。途中経過まで共有できてるって凄いことですよ……。
その結果として、お客さまも銀の弾丸が出てくる期待を持たなくなって、目線が合うというか。
透明性を持ったコミュニケーションが奏功していると思いますね。
意思決定もDACINフレームワークで。
コミュニケーションは良い感じになってきているのですけれど、意思決定フレームワークの部分は結構課題を感じているところではあるんですよね。
まだ本格導入してないんですけど、DACINフレームワークを採用しようかと考えています。
インタビュー中に役員みんな初めて知るの面白すぎじゃないですか (爆笑)
この場を使ってコミュニケーションを加速させています(笑)
ダシ。結構有名だと思うんですけど、DACIフレームワークってあるじゃないですか。
D.A.C.I。DACI。ドライバー、 アプルーバー、コントリビューターズ、インフォームドかな。
【D】Driver:推進する人
【A】Approver:承認する人
【C】Contributors:ドライバーと一緒にやる人
【I】Informed:内容を知っておくべき人
要はその、なにか推進しないといけないタスクやプロジェクトがあったとき、そのドライバーが誰で、アプルーバーが誰で、意見を出し合う相手は誰で、そして誰がその経過や結果を知っておくべきなのかっていう人の明確化をするんですよ。
さらにそのDACIフレームワークに「ネクストステップの【N】」を加えたDACINを使おうかと。
承認者がドライバーみたいな動きをしちゃったり、コントリビューターが自分はあまり関係ないみたいに思わないように役割を明確化するんですね。
内容を知るべき人が指定されて明確になっているのも良いですね。ぼくも使おう。
このインタビューで話した内容が、まだ使ってなくてこれから使うフレームワークなのがJADEっぽさありますね(全員爆笑)
コミュニケーション文化にもフレームワークが土台にある、そういう組織作りをしていく会社なんだなっていうのが本当によくわかりました。
※DACINフレームワークは、このあと本当に採用になったそうです。
リモートワークでもいいし、オフィスへ出勤するのも自由。なのに高い出社率。
JADEさんは出社する・しないは自由なのに、多くの社員がオフィスに出社されていますね。
リモートワークとオフィス出勤が混在するとコミュニケーションが取りづらいとかありませんか?
対面コミュニケーションの方がロスがないので基本的にはオフィスに来て欲しいという思いはあります。
でも、出社の強制は絶対にしたくない。
だから、出社したら快適に仕事ができる環境を整えることで、皆の出社意欲を高めるようにしています。
天気が悪いとかみたいな日はリモートにするけど、出社した方が仕事しやすい、のように。
近ければ行く気が起きるみたいなこともあると思うので、秋葉原と渋谷の2拠点にしています。
住んでいる場所からどちらかのオフィスは通勤時間が短くなるように。
JADE秋葉原オフィス。
どういうオフィス環境であれば快適に仕事がしやすいかは常に考えています。
別に在宅勤務でもいいんだけど、オフィスに行けば良い机もコーヒーもそろってて仕事しやすいと思ってもらえるな、とか。「JADE大学図書館」という名目で書籍をそろえたりもしています。
オフィスを秋葉原と渋谷の2か所にまでして、物理的に来やすいようにしてるってのは徹底していますね!
JADE渋谷オフィス。
リモートと出社の混在でもJADEのコミュニケーション文化では支障はそんなにない気がします。
まとまってない、フワッとした話をいきなり振られるとかそういうのがあまりないんですよ。もちろんまだ固まってない話を相談したいこともあるので、そういうときなど内容によってコミュニケーション方法やツールを変えたりしていますね。
あと、良いイヤホンを渡してるのが大きいんじゃないですか?
ノイズキャンセルがしっかり効く高いやつ(笑)
高いやつ(笑)
実際それめちゃくちゃ重要ですよね。
そこにお金かけるだけでコミュニケーション効率よくなるところなのに、安いイヤホンしか使ってないみたいな会社が多いので。
そういう重要な機材だからケチらないようにしてるのはありますよね。
普通に買ったら4万ぐらいするやつをあげるんですけど。
ところでオフィスへの出勤率が高いだけじゃなく、働く時間もかなり自由みたいですけど、みんなちゃんとオフィスに来て真面目に働いて、帰って行くんですか?
各自の裁量で必要なパフォーマンスを出せるように動いてますね。プロジェクトチームやLeadとの調整もありますけど。
JADEさんは、業界でも有名な強いメンバーがそろっている点に目が行きがちですが、そういう人たちがパフォーマンスを発揮できるように働きやすさやコミュニケーションを組織として設計しているんですね。
あと、コミュニケーションのフレームワークなど考え方をちゃんと使いこなしている。
社員のみなさんが現状把握や自己認識が上手いんだなと感じました。
そうですね。採用選考するときに専門スキルだけじゃなくて、そういった現状把握や自己認識ができるだとか、誠実にコミュニケーションとれる人というのは大事にしてるかもしれません。
採用は、長山さんの構想でGoogleでも取り入れている構造化面接というのをやっています。
職種に対して必要なスキルセットと候補者の実力を照らし合わせる形で進めます。面接後は、面接したメンバー全員の評価をすり合わせるため採用委員会を開いて、次の選考ステップに進めるかを決めていますね。
構造化面接がどんなものか、そこに興味があって選考を受けてくれたという方もいますね。
構造化された面接とは、簡単に言えば、同じ職務に応募している応募者に同じ面接手法を使って評価するということです。構造化面接を行うと、応募した職務自体が構造化されていない場合でも、応募者のパフォーマンスを予測できるという調査結果があります。Google では構造化面接を採用しています。つまり、すべての応募者に同じ質問をして、同じ尺度で回答を採点し、事前に決められた一貫した採用要件に基づいて採用を決定しています。
では、構造化面接の質問を使う組織があまり多くないのはなぜでしょうか。実は、質問を作成するのが難しいのです。構造化面接の質問は、記述してテストする必要があります。また、面接担当者が他の質問をしないように指導する必要もあります。さらに、同じ質問が何度も出されると予想した応募者同士が、情報を交換してすべての回答を用意してこないように、質問を絶えず更新する必要があります。別の調査によると、構造化面接があまり頻繁に用いられていないのは、一般に面接担当者は皆自分の面接が上手いと思っていて、助けなど要らないと感じているからだということがわかっています。
Google re:Work より引用
面接や評価にもフレームワークがある感じですね。
専門性とかスキルの部分は構造化されているのだと思うんですけど、JADEさんの文化にマッチする人かどうかってどうやって確認してますか?
JADEらしさを評価する人がいますし、評価項目にも「JADEらしさ」みたいなものがあって、合うかどうかをチェックしていますね。
「ぶぶ漬けフレームワーク」の説明で、JADEでは自分がやりたくないことは率直に言っていいという話をしましたが、「なんとなくやりたくないから」と説明になっていない断り方をするのではなく、別のやるべきことがあるだとか、目指すべきものがあるみたいに理由を説明できることが大事で。
それができる人はJADEに合ってるでしょうし、JADEの中で自分の目指している方向に成長する人だと思いますね。
自分がパフォーマンスを出すためにどうしたいのかを説明すれば良いっていうのは、気持ち良く働ける環境を大事にしているJADEさんらしいですね。
まとめ:「プロフェッショナル集団のチーム作り」
創業者の長山さんがGoogleやTwitter勤務などの経験を経て作った株式会社JADEは、「強い個人が集まった会社」というイメージがありましたが、今回お話を伺ったことで、採用・コミュニケーション・意思決定などの様々なフレームワークが実装された「チームの力でより個人を強くする」ことを徹底しているプロチームであるというようにイメージが刷新されました。
記事には書ききれなかったのですが、「ぶぶ漬けフレームワーク」だけではなくユニークな取り組みを沢山されているようです。DACINや構造化面接の話だけで記事が1本書けそう。
メンバーをどんどん増やしている成長時期の面白い会社ですし、興味がある方は「構造化面接」を体験してみてはどうでしょうか。
今回のインタビューに応じてくださったJADEさんの採用情報はこちらです。
https://ja.dev/careers
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦) 取材:2022年10月