「仕事の助け合い」が上手なチームになろう────プロダクトマネジメントコーチ森雄哉さんに聞く。
仕事をしていて、身近な人たちを助けることができたときに仕事のやりがいや楽しさを感じるという人も多いのではないでしょうか?
今回はそんな「仕事の相談」と「チームの助け合い」が上手くなる方法について、プロダクトマネジメントコーチ森雄哉さんにお聞きしました。
とても役立つ面白い内容ですので、どうぞ最後の「まとめ」までお読みいただければと思います。
森 雄哉
株式会社witch&wizards 代表取締役社長、プロダクトマネジメントコーチ。学生時代からプログラミングを始め、プロダクト開発の楽しさに目覚める。エンタメ、ECサービス、小売業、製造業など幅広いプロダクトに関わり、現在はよりよいプロダクトをつくるためにプロダクトチーム支援やリーダー育成を行っている。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。
「相談」は、組織の中で一日に何度も行われる、事業を左右する活動。
森さんのセミナーや登壇で使われているスライドに「相談」や「助け合い」の重要性について書かれているものが沢山ありますよね。
今日は、仕事のコミュニケーションでもっとも大事な「相談と助け合い」についてお聞きしたいです。
「相談と助け合い」は、新人からマネジメント層、経営者まであらゆる階層で連鎖的に行われている問題解決の活動として捉えることができます。
うまく相談して助け合うことができれば良い仕事に繋がるけれど、それが滞れば悪い結果につながったり、仕事が遅れてしまいますよね。
相談はひとつひとつは小さいものでも、あらゆる階層で一日に何回も発生しているから、組織全体や事業そのものに連鎖的に影響していくってことですね。
いきなり核心を突いた話がでてきたな (笑)
はい。相談が1回10分だとしても、組織全体でみたら一日に行われる量、一ヶ月に行われる量はかなりのものになるはずです。
たとえば1日5回の相談なら月に100回。
100人の事業なら月に10,000回です。
その問題解決の連鎖は会社の事業を左右する、組織活動のなかでも重要度の高い活動なんです。
相談が事業を左右するような主要活動……って、言われてみれば当然のことだけど、それを意識できてる会社って少ないんじゃないですかね。
森さんの言うように「相談や助け合い」って、事業や仕事の成否にかかわる。
それなのに、体系的なテクニックを教わることはないし、練度を上げるような訓練の機会もない。
ヒトはどうしたら分かりあって、助け合えるようになるんですかね?
具体的なサポートが欲しいとき、「大変だね」と気持ちに寄り添われても噛み合わない……。
さきほどお話した通り、「相談や助け合い」はとても重要なのに研修もマニュアルもない。
「相談や助け合い」は非常に難しいのに、誰にでもできると誤解されやすい。
事業を左右するような取り組みなのに「相談や助け合い」の練度やスキルを上げるような取り組みをしてる会社って、ほぼないのでは……?
事業の成否に大きく影響するにもかかわらず、学習やトレーニングなしに個人の経験則だけで行われているのは、非常にもったいないですね。
「相談や助け合い」が、なぜ難しいかと言うと、提供するサポートの種類と、必要とされるサポートの種類が食い違いやすいからです。
そして、その食い違いは組織のなかで頻発しています。
んんん?サポートの種類が食い違うから難しい?
どういうことですか?
ソーシャルサポートという、助ける・助けてもらうという行為を分類している概念があります。
これは30〜40年ほど前から存在する概念ですが、もともと社会学や医療分野から出てきた概念です。
私が、一般的な仕事の現場で使いやすいように改変したのがこちらですね。
【間接的なサポート】
感情サポート:認知が働き、心が思い通りに働くようにするサポートです。不安やストレスの軽減、自尊心の向上などに繋がります。
情報サポート: 知識やアドバイスの提供など。現実に起きている出来事の中から今後を左右する要素を見出し、判断のサポートをします。
評価サポート:施策の質の評価、ゴールや現在地の確認などから効果的な次の一手を打つことを助けるサポート。
権利サポート:権限によってお金や人的リソースを動かし、進捗を促進するサポート。
【直接的なサポート】
見守りサポート:相手の動きを注視して、問題を早期に発見したり、問題が発生しそうなときに介入したりするサポート。
協働サポート:相手と協力して共に作業を進める。
引受サポート:相手のタスクを代わりに引き受ける。
あー、森さんが「相談や助け合い」の難しさが過小評価されているっておっしゃった意味がわかってきたかも……。
相談する側はどんなサポートが自分に必要か自覚がないし、助ける側も種類が違うサポートをしてしまうってことだ。
そうですね。
上司に具体的な進め方の相談をしても「大変だね、がんばって」と気持ちはこもっているものの励まされるだけで終わって、なんの助けにもならなかったという経験のある方も多いのではないでしょうか。
そういうときは、仕事に役立つ情報サポート、または一緒に作業に取りかかる協働サポートが必要。
それなのに感情サポートにフォーカスを当てている。
うわー、あるなーーー
もっと具体的なサポートが欲しいとき、感情サポートだけされても困ってしまいますよね。
「やらせないと人が育たない」「気持ちを支えることが大切」と、感情サポートに絞って提供するマネージャーがいますけど、状況に応じて引受サポートや権利サポートが求められていることがあります。
これらを適切に使い分けると相手は「私はサポートされている」と実感しやすいんです。
そして、感情サポートが欲しい人に「◯◯をやってみなさい」という具体的な情報サポートをしてしまうのも、また噛み合っていないってことですね。
僕自身もやってしまっているなあ。
その時々で必要なサポートが違うのに「自分はこういうスタイルだから」とひとつのサポートしか提供しないと、助けにならないんですね。
そのとおりです。
それが冒頭にお伝えした「提供するサポートの種類と、必要とされるサポートの種類が食い違いやすい」ということなんです。
チームの仲間を助けられる人になるには?
ここまでの話で「相談と助け合い」は難しいってことが理解できました。
しかし、何をしたら同じ職場の仲間を助けられるのか、わからなくなった気もします。
どうやったら、人を助けることが上手くなるんでしょう……?
さきほどのソーシャルサポートの分類。
この順番で考えていくことをおすすめしています。
はー、なるほど。便利な分類だなあ。
下にいくほどサポートする人の負担が大きくなる上に、助けられる側の主体性が減る。
そうです。
「助ける負担が楽だから、この順番でやりましょう」という話ではありません。
サポートが過剰だと相手を「自分一人ではできない」と無気力にさせてしまいかねないからなんです。
あー、自分の体験からもわかるなあ。
できるだけ助けられる側の主体性が多くしないと、「言われたことだけやる」というふうに学習してしまうってことですよね?
そうなんです。
相手にとって過小でも過剰でもない適切な量のサポートを提供することで、個人のパフォーマンス向上につながります。
その問題が解決されるかどうかだけではなく、チーム全体のパフォーマンスに影響するんですね。
なるほど。
上から順に様子を見ながら、必要なサポートを見つけていく意味があるんですね。
先ほどの話にあった「大変だね」と寄り添うサポートだけだと問題解決しないときは、次のサポートを試してみる。
問題解決をちゃんとしながら、チームや人のパフォーマンス向上になるサポートを探る。その両方をちゃんとやれるのが良いですね。
仲間同士で「あと一歩」がお互いに乗り越えられるようにサポートすることで、チーム内での自己効力感を高め、最終的に自力で達成できる力が高いメンバーが増えていくことが望ましいと考えています。
せいぜい、「報連相をちゃんとしましょう」とか「相談されたら、傾聴を心がけよう」くらいの話しかない。
「相談と助け合い」がうまいチームになるには、みんなが「問題を抱えている。助けてほしい。」と言える、勇気を持って自己開示ができるようになる必要がありますね。
一方で、問題を抱えていても「自分はうまくできるんだ」と自分の悩みを認められない方もいると思います。他人のせいにしたり、問題は大きくないような表現をしてしまうような。
あるなーーーそれ、100万回見たことあるーーー
「外部の業者が予定通りに動いてくれませんでした。でも、予定より少し停滞しているだけで大丈夫です」みたいなやつーーー
はい。
自分の有能性を守りたい、プライドを守りたいというところがある。
結果として、問題は解決されず、会議で報告するときにまわりから見て変なことを言ったりする。
当人にとっても周囲にとっても苦しいと思います。
現状を率直に話せない、自分に必要なサポートがなんなのかを説明できないというのも、すれ違いのひとつなんですね。
はい、それもソーシャルサポートの話ですね。
相談する側、サポートする側、どちらもソーシャルサポートの分類をしっかりと理解して、使い分けられると、噛み合いやすくなると思います。
それができる人たちのチームになっていないと、助ける側としてサポートすることが難しくなるんですね。
相談を聞く側に傾聴力がないとか、サポートが下手だって話はSNSでもよく見かけるけど、サポート側の力だけじゃないんだなー。
助けられるのも上手くならないと、良いチームになれないんだ。
期限や迫っているなど、難しい状況にある相談をうまく助けるのは簡単ではありませんから、普段から練習しておくと良いと思います。
いざとなったときに助け合えるように、日常的にチームで助け合うことの噛み合わせの練習をしていく、ということですね。
さっきも言いましたけど、事業や仕事の成否にかかわる活動である「相談や助け合い」って、体系的な知識を教わることはないし、練度を上げるような訓練の機会もないですよね。
せいぜい、「報連相をちゃんとしましょう」とか「相談されたら、傾聴を心がけよう」みたいな話しかない。
助け合いのスキルを得る機会ってなくないですか?
そうなんです。
なので、普段どのように相談を持ちかけているのかとか、どういうふうに相談しているのかをチームの中で話し合う機会を持つと良いと考えています。
たしかに相談って、ちょっとクローズドな感じにしてるから、個々でやり方が違いますよね。
「どのくらい準備して相談してる?」とか、話したことないですよね。
相談の持ちかけ方、相談の頻度、相談中にどのように話を進めるか……共有したことなんて、ないかもしれない。
その共有の話し合いの中から、相談するのがうまい人がわかってきたら、その人に実際に実演してもらうんです。
実演めっちゃ良いな!
「うまく相談している場」に居合わせることって、普通はないですもんね。
その場にたまたま同席できるかどうかは、運ですよね。
実演してもらって、目の当たりにすると「うまい相談ってこうするんだ」と相談を質的に評価できる体験になると思います。
こういうやり方をおすすめしてますね。
おおおお、相談を質的に評価できるチームになる……!
これができたら強いチームになれそう。
「相談と助け合い」の両方をチームで意識的にスキルアップできる。
さらに、助けるのがうまい人を真似てみるのも良いと思います。
「この人は感情面で人を支えるのがうまい」「この人は知識が豊富で詳しい」といった、様々な得意分野を持つ人たちのやり方をチームで共有できると、より良いですね。
相談するのが上手くなるよりは、助けるのが上手い人のやり方を真似する方が簡単ではありますね。
「相談と助け合い」の両方をやることに意味があると思います。
相談と助け合いの両面からフィードバックしあえれば、意識的にスキルアップすることができます。
「相談と助け合い」の両方をチームで意識的にスキルアップできる!
これ、すごい話じゃない!?!?
「助かりました」ってお礼をすることは多いかもしれませんが、何によって助かったのかという具体的なフィードバックをすることは少ないですよね。
「こういうサポートがあったら、もっと助かったかも」とか「あの状況説明がうまかったから、助けやすかった」みたいなフィードバックができるチームなら、助け合い練度は上がりますね。
切羽詰まった事態での助け合いは難易度が非常に高いです。
緊急ではなく、日々の中で助け合いの練習をすることで「心を働かせる練度」が上がり、いざという時にスムーズに介入できたり、他の人からの介入を受け入れられたりできるようになると考えています。
これは「何事もない時にも相談しておく方が結果的に良い」というチームの文化醸成にもつながりますね。
まとめ: 相談と助け合いについて「意識的なスキルアップが必要」というチームの合意があると良さそう。
- 相談は、事業を左右する問題解決活動。
- ソーシャルサポートの分類と使い分けを学ぶ。
- 主体性と問題解決がバランスするサポートが重要。
- チーム全体で質的評価を習得する。
「良い相談」「効果的なサポート」を評価できるようになる
「相談と助け合い」は、個人の経験則で行われているが、体系的に向上させることができる組織能力。以下の森さんのスライドもぜひご覧ください。
基礎にして奥義「相談」で人を助けることを追求するぞ!
サポートを明らかにすることを通して、助け合い上手なチームに爆速でなるぞ
リンク
moriyuya(N_A)/ プロダクトマネジメントコーチ
株式会社witch&wizards 森さんへのご依頼はこちら
森さんが参考にしている書籍:『支えあう人と人: ソーシャル・サポートの社会心理学』
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2025年6月