Agend(アジェンド)

会議やチームコミュニケーションを考える仕事メディア

継続するだけ、こんな楽なことはない。『THE FORMAT』の著者、石倉さんに聞く「継続すれば勝てる」仕事スタイル。

株式会社キャスターの石倉秀明さんが書いた書籍『THE FORMAT』。
「仕事で誰かにタスクを依頼するとき」や「忙しい上司から承認をとるとき」などの状況に合わせて、項目を埋めるだけで誤解なく大切なことが伝わるフォーマットを教えてくれる、仕事における文章コミュニケーションの本です。

今回は、著者の石倉さんの仕事への向き合い方や、『THE FORMAT』を組織で活用する方法についてお話を聞いてみました。

石倉さん


石倉 秀明

『THE FORMAT』の著者。
1982年生まれ。群馬県出身。リクルートHRマーケティングからリブセンスに転職、事業責任者として上場に貢献。その後DeNAにて営業責任者、新規事業責任者、採用責任者を歴任。
現在はキャスター取締役CROを務める。

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。

普段から実践しているコミュニケーションの型をそのまま形にした『THE FORMAT』


石倉さん

フジイユウジ

石倉さんの書いた『THE FORMAT』が、すごく良い本だなあと思ってインタビューをお願いしました。
「誰かに何かを依頼するフォーマット」や「上司に承認をもらいたいときのフォーマット」があって、その項目を埋めるだけで、誰でも仕事ができる・伝え方が上手い人がやっているコミュニケーションを再現できる。
これ、本当に良い本ですねえ……。

ありがとうございます。
当初は「文章コミュニケーション」が本のテーマだったんですよ。編集の方とその想定で構成を練っているとき、僕がフォーマットを使って仕事のコミュニケーションをしているという話をしたところ「フォーマットの本にしましょう!」となって『THE FORMAT』が生まれました。
執筆に関するやりとりも、実際にフォーマットを活用していたんですよ。

石倉さん

フジイユウジ

おおー!書籍を執筆する際のやりとりにも使っていた。
それだけ実務でもバリバリ活用できるコミュニケーションフォーマットだって証明できてますね。

編集者さんも理論と実践を経てすっかりフォーマットの良さを実感いただいたようで、この本の内容を一番使ってるのはその編集者さんかもしれません (笑)

石倉さん

THE FORMAT書影

THE FORMAT』は、仕事のコミュニケーションにおいて「項目を埋めていくだけ」で伝わりやすく誤解が少なくなる「型」を紹介している。



『THE FORMAT』を組織に浸透させるには。

フジイユウジ

この本を読んで「自分の会社でも活用したい」と思った方は凄く多いと思います。
その反面「自分個人はフォーマットを使うけど、ウチの組織には浸透しないだろうな」と感じた読者も多いんじゃないかと思うんですよ。
そこで今日はこういったフォーマットや仕事のフレームワークを「組織に浸透させるには」という切り口でお話を伺ってみたいんですが……

なにが多数派なのかを見ることから始めますかね。
文章を使ったコミュニケーションが良いと思っても、電話やFAXがコミュニケーションのメインになっている組織でそれを浸透させるのは難しいですよね?

石倉さん

フジイユウジ

たしかに……

逆に、組織のコミュニケーション文化が文章メインなら、フォーマットの導入はしやすいと思います。
その組織の多数派が使うコミュニケーションが必ず主流になるんですよ。

石倉さん

フジイユウジ

あああ……どっちが効率が良いかではなく、多数が主流になるのは仕方がないという観点は言われてみると当然ですよね。
つい、効率が良い方法論が広まるべきと考えてしまう……

そうなんですよね。どうしても主流派が強くなってしまう。
だから主流ではないものを広めていくなら、とにかく自身が率先してフォーマットを活用して、会話メインから文章メインのコミュニケーションの良さを知ってもらうしかないと思います。
とはいえ、実際やってみるとメンバーはなかなかキャッチアップできない。良いものだからみんなが使えるわけではなく、練習や慣れが必要なんですよ。

石倉さん

フジイユウジ

フォーマットや文章コミュニケーションを自分の会社に浸透させたいと考えている人へ「具体的にこうすると良いよ」とアドバイスするとしたら何かあります?

会議をうまく活用すると良いんじゃないですかね。会議は必要な情報を収集して意思決定する場なので、フォーマットを使ったコミュニケーションを組み立てやすいです。

石倉さん

フジイユウジ

なるほど。

練習や慣れが足りていないので、最初のうちはフォーマットに対して記載された情報に不足があると思います。
それに対して「これはどうなってる?」「この情報はある?」とフォーマットに記載された内容の過不足や、わかりにくい書き方に対してフィードバックや質問をすることで、必要な情報が何なのかを具体的に理解する機会を作ることができます。

石倉さん

フジイユウジ

仕事に必要な情報をまとめながら、フォーマットを使いこなすための練習になるってことですね。

次の段階では前回までの会議で指摘された事項をきちんとフォーマットに事前反映してもらう。
こうやってフォーマットを使うことを根付かせていくと、フィードバックすることが減っていって、結果として会議の時間も圧縮されるようになると思います。

石倉さん

フジイユウジ

やはり努力が必要というか、丁寧にやることが最短なんでしょうね。
フォーマットの運用を徹底するところまで持っていくのは。

「面倒くさいやつと思われるのが辛い」問題。

フジイユウジ

丁寧に努力を重ねる、その過程で「メンバーに面倒くさいやつと思われたり、嫌そうな顔をされて辛い」というのが発生して、それが要因で続けられないマネージャーもいると思うんですよ(笑)

そりゃあ地道にフィードバックする方もされる方も面倒くさいですよ(笑)
でも地道に続けていくと、フォーマットを前提としたやりとりが当たり前になるわけじゃないですか。
余計なコミュニケーションが減って、メンバーも余計な仕事が減るはずなんですよ。そしてログとして文章が残るので、意思決定の材料が蓄積されていく。

石倉さん

フジイユウジ

ですよね。
言う側も面倒くさい、言われる側も面倒くさい(笑)

人間関係を悪くしたいわけではなく、仕事を進めるために言ってるわけですから、「仕事だから、やらないといけないんで言うんですが」って前提を伝えればいいんですよ。

石倉さん

フジイユウジ

あー確かにそうですよねえ。
受け取る人も「この人は仕事を進めるために言ってるんだよな」と楽になるかもしれませんね。発信する人も「自分は仕事のために言わねばならないので」と伝えることでフィードバック疲れから開放されそう。

仕事でうまくいっていないことがあっても、人間関係を気にして波風立たないように黙っているというのは怠慢だと思うんですよね。
わからないことがあれば、ちゃんと伝えないといけないんです。
僕にも娘がいますが、親になったら子どもに「自分の考えていることは、ちゃんと言わないと伝わらないよ。」と言いますよね。子どもに言ってることなんだから、自分もやればいい。それだけの話です。

石倉さん

フジイユウジ

黙っているのは怠慢。刺さりますね、その言葉…。

「継続できるだけで勝てる領域」がある

僕は、人間の障壁となる感情で一番強いものは「面倒くさい」だと思っているんです。

石倉さん

フジイユウジ

「面倒くさい」に人間の習性がすべて凝縮されていますよね。
やれば良くなると分かっていることも避けてしまうとか。

だから自分が「面倒くさい」と思うことがあったとき、「これを続けるだけで(他の人がやりたがらないので)簡単に差をつけられるのでは?」と考えてみることが多いんですよ。

石倉さん

フジイユウジ

続ければ差をつけられると気づいたら、徹底的にやるわけですか。

習慣になるまでやり続けるために、とにかく実行するハードルを下げるようにしています。読書なら毎日1ページだけ読むとか。
そうやって地道に続けていくだけで勝てる領域があるので、凡事徹底しています。一発逆転なんてないですから。

石倉さん

石倉さん

フジイユウジ

一発逆転なんてない。。。どこを努力すべきかを狙い定めて、あとは続ける……と。
続けることへの覚悟の強さを感じますね。
継続できるだけで勝てる領域がある、と考えるようになった原体験みたいなものってあります?

高校時代の部活かなあ。陸上部の短距離走で国体に出るぐらいまでやっていたんですが、自分の体格だと普通に練習しているだけでは勝てない競技だったんです。
そこで、最初の50mだけトップで走れるようにしようと考えたんですね。なぜかというと、他の選手は自分より前を走っている相手と競った経験が少ないので、僕が前を走ることで調子を崩す可能性が高まるのではないかと考えました。
やることは地道なことなんですよ。スタートの姿勢を変えたり、スタートダッシュで必要な筋肉だけを鍛えたり。
でも、面倒くさい地道なことを継続すれば勝てるのだからしめたものですよ。

石倉さん

フジイユウジ

少年マンガみたいなエピソードだ(笑)
その経験があったからこそ「面倒くさい」ことは「やるだけで勝てるかもしれないこと」と考えるようになったんですねえ。

フォーマットを使うこともそうですけど、続けるだけで他人や他社と差がつくわけですから、こんなにラクなことはないですよね (笑)

石倉さん

コミュニケーションを構造化できるスキルを得るには

フジイユウジ

『THE FORMAT』を読んで「仕事のコミュニケーションをこんな風にキレイに構造化できるなら、そりゃ仕事も上手くいくよなあ」と感じたんですよ。
こういう、具体化とか構造化ってどうしたら身につくんですかね?

構造化スキルの話ですよね。ビジネスで必要なことは、ひたすらに因数分解することだと考えています。
例えばマネージャーは追うべきKPIを持たされていると思うのですが、因数分解的にそのKPIをブレイクダウンして、どんな変数が事業を構成しているのかを見ますよね。
更にその変数をブレイクダウンして、何が各変数を構成しているかを考える……というのを繰り返します。

石倉さん

フジイユウジ

ああ、なるほど。
仕事のあらゆる物事の構造理解をしようとしているからこそ、石倉さんはコミュニケーションのような定性的なものもパターンを見つけてフォーマット化・構造化ができるんですね。

一番難しいのは、ブレイクダウンしきることかなと思います。

石倉さん

フジイユウジ

確かに。
分かったつもりになって止めてしまいがちですよね。徹底的にブレイクダウンをやりきるのが難しい。
その上で、どの要素が重要かを見極めるスキルが必要だと思うんですけど、それってどうすると身につくんでしょうね。

ブレイクダウンしきったら、次にレバレッジが効くところを探すということだと思います。
昔、テレアポの仕事をしていたときに僕は電話をかけるリストの分析をして、電話が繋がる割合を上げるようにしたのですが、多くの同僚が電話での営業トークを磨こうとしていたんですよ。

石倉さん

石倉さん

フジイユウジ

会話ごとのトーク内容を良くするよりも100回、1000回と架電したときにレバレッジが効く要素を探し当てたということですよね。

仕事のコミュニケーションの中からフォーマットに入れる要素を探すのも同じだと思います。
報告や共有される情報の中から重要度が高くて、繰り返して積み上げていくべき要素を見つけるということですから。

石倉さん

まとめ:「徹底すべきことを探す」

継続が成果に繋がることを常に探し、徹底する石倉さんの仕事スタイル。

仕事のコミュニケーションで伝わりやすいフォーマットを徹底して使う方法論が書かれた『THE FORMAT』もこのスタイルから生まれたのだなと納得できるインタビューでした。

自分が面倒なことを避けそうになったときに石倉さんの言葉を思い出して仕事に向き合いたいと思います。

THE FORMAT 文章力ゼロでも書ける究極の「型」写真




(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2023年2月

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