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職場での「オープンでフラットなコミュニケーション」はどうしたらできるのか? ──── 自律分散型組織 Backpackers’ Japan から学ぶ

「オープンでフラットなコミュニケーションをしよう」という職場のルールや心がけ、よく見かけますね。
しかし、実際に職場でオープンでフラットなコミュニケーションをするのは簡単なことではないようにも思います。課題を感じている方も多いのではないでしょうか。

今回のAgendは、上司部下という階層をなくし、自律分散型組織を選択して「オープンでフラットなコミュニケーション」を徹底している、Backpackers’ Japanの塚崎さんにお話をお聞きしました。

塚崎さん


塚崎 淳司

株式会社 Backpackers’ Japan 取締役COO。
1981年生まれ。2014年より自転車メーカーの株式会社トーキョーバイクにて法人営業に従事。2016年より、同社取締役として経営に参画。2020年、山梨県北杜市に移住。2022年4月1日よりトーキョーバイクの取締役を兼務しながら、株式会社 Backpackers’ Japan の取締役COO就任。

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。

マネージャーや管理職を置かない『自律分散型』の組織運営。

フジイユウジ

Backpackers’ Japan(以降BJ)は、上司・部下という階層構造がないフラットな『自律分散型』の組織づくりをされているとお聞きしました。
でも、フラットな組織づくりとかコミュニケーションって本当に難しいと思うんで、上手くいっていることや苦労されていることを教えていただきたいと思ってます。
まずは、塚崎さんとBJについて簡単に教えていただけますか?

BJで取締役COOをしています、塚崎です。
BJは、バックパッカー向け宿泊施設であるホステルの運営がメイン事業で、最近はカフェ、ロースタリー、キャンプ場、ブルワリーなど新規事業も展開しています。

塚崎さん

笑顔で話す塚崎さん

いまフジイさんがお話された通り、マネージャーや管理職を置かない『自律分散型』の組織が特徴だと思います。

塚崎さん

自律分散型の組織

役職などによる階層型での指示系統ではなく、個々の従業員が自律的に意思決定をするフラットな組織形態。個々の従業員ごとの意見が組織に影響するのが特徴で、運用は難しいが意思決定や問題解決の速度が早くなると言われている。

フジイユウジ

みんなが意思決定権を持っていて、直属の「上司」に決めてもらうようなことがないってことですよね。
全員っていうのが凄いなー

はい。組織の階層がなく、経験年数なども関係なく、すべてのスタッフの意思が尊重されて、全員が意思決定権を持っています。

スタッフ全員があらゆることに自主的に関わる責任を持つことが重要なポイントかなと思います。

塚崎さん

店舗の経営・運営をすべてのスタッフが意識し、実際に参画(Co-Management)する組織体制。ピラミッド型のヒエラルキーの図と分散した点が線でつながる分散型の図を並べて対比しています
意思決定は原則スタッフが行う。管理職が存在せず、チームの意思決定を助けるコーチという役割が存在する。セクションを超えてすべてのスタッフが解決すべき課題に自主的に関わる責任を持つ。

Backpackers’ Japan社内向け説明資料から一部を引用 (塚崎さん提供)

フジイユウジ

各自が自分の考えを実行できるフラットな組織って理想的なイメージはあるんですけど、どうやったら上手く回るのかよく分からないんですよね。
「責任を持つ人がいる」とか「経験のある人が意思決定する」という階層型の良いところは捨ててるわけじゃないですか。

マネージャーとか階層はなくしているんですけど、そういったことを防ぐためにロール(役割)というのを決めてまして。各ロールには誰かが任命されるので、何かの役割が滞ることなく運営がされるようにはなっているんですね。
その中でも「コーチ」という各メンバーの支援をする重要なロールがあります。

塚崎さん

BJにおけるコーチの役割

  • 会社制度や事業方針を理解し、自分らしく働くことで熱量を伝播する。
  • 組織と個人、店舗と会社などの視点を行き来し物事を俯瞰し客観的に判断する。
  • 仲間を信じ、一人ひとりに合わせた接し方で成長に導く。
  • 長期的な視点でビジョンを描くことで、仲間の成長を支援する。

※ 店舗の意思決定や責任を持つ役割ではありません。

Backpackers’ Japan社内向け説明資料から一部を引用 (塚崎さん提供)

フジイユウジ

上司じゃなく、コーチ。

コーチや周囲のメンバーからのサポートやフィードバックを受けながら各々が行動しているので、個人が素人判断で好き勝手にやるっていうわけではないんですよ。

塚崎さん

フジイユウジ

あー、なるほど。
BJでは上司がいないから意思決定や指示をしてもらえることはない。自分自身で考えないといけない。
そのぶん、個々人が高いレベルで業務ができるようにサポートするコーチがいる、ってことですね。
コーチは、スタッフ一人ひとりが自律的に考えられるようになる責任だけを持って、仕事の結果は個々人がちゃんと持つということに振り切ってるのか。

コーチがいるだけで上手くいくわけではないので、「意思決定に関するルール」というものもあって。
「⾃分の意思決定により影響がでるスタッフ及びセクションには必ず説明を⾏い、意⾒と助⾔を得ること」など、いくつかのルールがあります。
反対意見を述べるときのルール、意見が合わないときにどうするかプロセスも明確に書かれていますね。

塚崎さん

フジイユウジ

うおーーー!!
これ、マジで凄いコミュニケーション支援ですね!!!!!!
「対話が大事」って心がけを持っている組織は多いけど、ここまで具体的な方法論を定めているのは凄い。今すぐマネしたい (笑)
意見のすり合わせプロセスって、多くの人にとってストレスだし、そのせいで前向きさが失われてしまう人も多いですから。意見が合わないときにどうするかプロセスが明確になっていることで、新しいチャレンジを提案したり、反対意見を伝えたりを前向きにやりやすいだろうなあ。

個々が自律的に考えて動くためのコーチ。

机を挟んで話す塚崎さんとフジイ

フジイユウジ

自律分散型になる前は、普通にマネージャーという役職もあったんですよね?
「マネージャーとメンバーという上司部下の関係をなくすので、コーチに変わってください」って言われても、簡単ではなかったんじゃなですか?

意思決定は一人ひとりが自分自身で行うというルールがあるので、コーチが「こうすべき」と決めてはいけないんですけど、それを維持するのは今でも難しいと感じてますね。
もともとマネージャーだった人や社歴が比較的長い人がコーチになっていることが多いので、メンバーからすると「これはどうすべきですか」とか「◯◯してもいいですか」とか聞いてしまうじゃないですか。

塚崎さん

フジイユウジ

そりゃ聞きたくなりますよね (笑)
経験豊富で、自分より高い判断力を持っているとわかっている人がいるわけですから。

しかし、誰かが決めてくれると「どうすると良いか」を自分の意志ではなく、他人に委ねてしまうようになります。
決めてもらうのではなく、自分で意思決定するんだよと伝え続けないといけないんです。

塚崎さん

フジイユウジ

仕事としてベストな選択肢を探すのではなく、上司が良いと言うものを正解と捉えて「答え探し」をしてしまう人がいますけど、それをさせない環境になってるんだなあ。
コーチが自律性を促してくれることで、自然とヒトではなくコトに向かっていく人ばかりになるというか。
たしかにこれならフラットな環境の良さを活かして業務もうまくいくし、メンバーの成長も早そうなのが良い……。

コーチには、自分が決めずにメンバーの意思決定を促すという難しさがありますし、メンバー側も自分自身で考えて自分の意思で動かないといけない。
難しいと思うことは沢山ありますが、これをやることで全体としては結果的に良い組織になると思ってやっています。

塚崎さん

肩書きなしにお互いに対等に話す、だからフィードバックを聞きたがる文化が生まれる。

バーラウンジの全景が見えるところに立つ塚崎さん

BJが運営している倉庫を一棟丸ごとリノベーションしたホステル Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE (蔵前) の1階のラウンジでインタビューしました。

フジイユウジ

経験がまだ浅いメンバーが「こう進めたいと思ってます」と自分で考えたことのレベルが低いとか、素人考えを実行してしまうことはないんですか。

コーチだけではなくメンバー間も含め、こうしたいという意見に対して「なぜ、それが良いと考えたのか」とか「こうしたらもっと良くなるかも」というディスカッションをしていきます。
新人でも誰でも、メンバーは自由に意思決定をしていいのですが、意見交換したり、より良くする方法を考えることは大切にしています。

塚崎さん

フジイユウジ

上司がいないから「それは上手くいかないからやめろ」と命令されることはない。
その代わり、自分の意思決定の質が悪くないか、間違った判断ではないかを考えされられる機会が多いって感じですかね?

はい。まさにそうですね。
定期的にフィードバックを受ける機会もつくっていて。
1. 相⼿の⼈間性や些細なことでも賞賛することから始める
2. 現在実施していないことで、新たに始めてほしいことを伝える
3. 改善してほしいことを伝える
4. 今後も継続してほしいことを伝える
といったフィードバックの項目を決めています。

塚崎さん

フジイユウジ

厳しすぎるフィードバックばかりのチームだとか、本音を言わずに馴れ合いだけのチームとかになりがちだけど、そうならない仕組みがあるんですね~
その項目が決まっていることでフィードバックがあまり上手くない人でも伝えやすくなるし、対話が活発な文化につながってるんでしょうねえ。

フィードバックを受けてより良くしたいって意識をもってる人が多いかもしれませんね。
例えば、僕が店舗に行くと「なにか気になることありませんか、フィードバックもらえることありませんか」ってスタッフから声をかけられるんですよ (笑)

塚崎さん

フジイユウジ

ほかの人の視点を取り入れたことで成功体験が積まれるようになってるんだなあ!
これ、スゴいことじゃないですか?

たしかにそうですね。
気になった点を伝えたら「言ってくれてありがとうございます!」ってお礼を言うくらい、他の人の視点を取り入れることにみんな積極的で。

塚崎さん

フジイユウジ

「何でも指摘できる」って理想ではあるんですけど、それを目指していたら「なぜお前はオープンに話さないのだ?」っていう厳しい雰囲気のチームになったり、指摘し合うことに耐えられるマッチョな人だけしか生き残らない会社になってしまうことも多いと思うんですよ~
でも、BJはそういう感じじゃなさそうですね?

マッチョとは真逆の、柔らかい雰囲気ですよ (笑)

塚崎さん

笑いながら話す塚崎さんのアップ

その辺りは創業当時からあるバックパッカーのカルチャーが根付いているからかもしれませんね。
バックパッカーって肩書きなしにお互いに対等に話す、フラットに話すというスタンスなので。

塚崎さん

フジイユウジ

あー、どちらが正しいかを殴り合うようなマッチョな雰囲気だと、結果的に言いたいことを言い合えるようにならないし、そういうふうに肩の力を抜いたフラットさっていいなあ。
それを維持する仕組みもスゴい……

自分から、自律的に動けるチームになるには「コーチの支援」がいる。

フジイユウジ

多くの会社では、マネージャーって育てることができていないんですよね。その環境で生き残った人が昇進してるだけでしかなくて。
マネージャーよりも難しい「コーチ」となると、その役割をこなせる人って少ないんじゃないかと思うんですけど、それってどうしてるんですか?
この記事を読んだ誰かが「ウチのチームも事業責任を負わない、人の活躍だけを支援するコーチを置こう」って思ったとしても、やれる人がいないし、そんな人材を育てられないって状況になりそうな気が……

コーチを支援するのが、僕の仕事です。
と、いってもコーチを支援する型があるわけではなくて。しっかり話を聞いたり、相手の悩んでることを一緒に悩むみたいなことをやっているだけなんですが……

塚崎さん

フジイユウジ

おー、塚崎さんが「コーチのコーチ」みたいになってるのか。
役割だけ決めてコーチに丸投げしてるわけじゃなく、ちゃんとコーチ支援があることで成り立ってるんですね。

一例ですが、あるコーチが悩みを話してくれたことがあって。
スタッフに期待をかけてコーチしてるんだけども、アドバイスしたことができなかったりすると「この人には難しすぎたんだな」と諦めてしまって、レベルを下げたサポートに切り替えてしまうというものでした。

塚崎さん

フジイユウジ

メンバーからすると少し見放された感じがするというか、「できないやつと思われたか」って感じやすいところですもんね。
コーチじゃなくても、部下をもっている人で同じような悩みをもってるマネージャーも多いかもしれない。

そのコーチには、「相手に期待をかけるのを止めて、その人がより良くなるサポートだけをしてみたらどうか」という話をしました。

塚崎さん

身振り手振りを入れて真剣に話す塚崎さん

期待をかけるのではなく、サポートだけするという姿勢を持てれば、相手ができてなくても気にならなくなるし、できなくてもサポートやコミュニケーションを続けることができる。
時間をかけることになるけれど、結果的に相手が良くなるならそれはそれでうれしいよね、って話をしたんですよ。

塚崎さん

フジイユウジ

これ、めっっっちゃ良い話じゃないですか!?

その後、ちょっと経ってからまた話をする機会があって。
「塚崎さんに言われたことを意識してやるようになったら、まず自分の気持ちが楽になった」って言ってくれたんですよね。

塚崎さん

フジイユウジ

そういうとき、「あいつはできないやつ」って諦めちゃう人が多いじゃないですか。
でも、できない人が切り捨てられることが普通だと、フラットで心理的安全なチームにはなりにくい。
塚崎さんから「期待外れって思わなくても良いんだよ」って言ってもらえることがコーチにとっても、組織づくりとしても効いてるんだろうなあと思いました。

人への支援に「こうあるべき」というひとつの正解はない。

「期待するのをやめてみたら」とは、真逆の話をしたこともあって。
「感情的な対応や発言をしてしまうスタッフがいるが、その人の気持ちに寄り添えないことに悩んでいる」と相談されたんです。

塚崎さん

フジイユウジ

あー。
自分はあまり感情的にならないから、感情的になってしまうスタッフさんの気持ちがわからないタイプか。

そうなんです。
それで、先ほどの「期待するのを止めてみたら」とは真逆の話をしました。
「相手にどんな期待をしているかを話してみたら」と伝えてみたんです。
すると、『自分を顧みるいい機会になった』と言ってくれて、そのメンバーの行動や発言が自然と柔らかくなっただけでなく、前よりチーム内のコミュニケーションがうまくいくようになったらしいんです。
僕としては、この2つの事例を通して「真逆のことを言っても上手くいくんだな」という面白さを感じたんですよ。

塚崎さん

フジイユウジ

「こうあるべき」に逃げずに、個人ごとの状況にあった「どうしたら良くなる」に向き合って、個別具体的なコーチをしてるんですね。
塚崎さん、すごいなー

ありがとうございます。
人への支援にこうでなくてはならないというひとつの正解はないので、経験や思い込みにとらわれることなく、その時その場のその人を捉えて対応することが重要なんだと思います。

塚崎さん

まとめ: オープンでフラットなコミュニケーションのために

■ 自分自身で考えないといけない環境から、自律的な行動が生まれている。
■ メンバーに丸投げではなく「コーチ」がいることが大事。
■ 「意思決定ルール」によって、意見が合わない場合の解決プロセスなどが明確になっている。
■ 定期的なフィードバックを受ける機会がある。厳しいフィードバックばかりにならないような仕組みがある。

仕組みを作り、さらに個の「人」に向き合ったコミュニケーションをする両方のアプローチをされているのが印象的でした。ここまでやって、はじめて「オープンでフラットなコミュニケーション」が生まれるのだと思います。

Backpackers’ Japan

Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE | 東京のホステル&バーラウンジ

事業成長しながらも個人の意思を活かす。BJ流、自律分散型の組織制度はどう作られた?ー Backapackers’ Japan 野上 × 組織開発ファシリテーター 渡邉 インタビュー Vol.1

(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2024年10月

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