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組織の“面倒くささ”に向き合う───大企業の元部長が語る、JTC的コミュニケーション

見出し画像。苦笑いしながら話す木村さんのアップとタイトル

「この仕事、誰のため?」「またやり直し?」
大きな組織で働いていると、そんな気持ちになること、ありますよね。

今回は、とある大企業の中で23年超の経験をしてきた木村さんから組織の”面倒くささ”に向き合う力について教えてもらいました。

どうぞ、最後の「まとめ」までお読みください。

木村さん


木村 尚文

大学卒業後、国内大手メーカー系のグループ会社に入社し、営業職からキャリアをスタート。課長・部長としてマネジメントやインサイドセールス部門の立ち上げを経験。社内調整や大規模組織特有の複雑さと向き合ってきた実感をもとに、現在は独立してキャリアコンサルタントとして活動している。
かつての部下と一緒にポッドキャスト「上司と部下の楽しきラジオ」配信中。

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。

JTCはつらいよ?「社内調整で1ヶ月」が当たり前の世界

フジイユウジ

木村さん、今日は「大企業でのコミュニケーション」をテーマにお話を聞かせてください。
大手企業に長年勤めた方のお話をじっくり聞ける機会って、実はあまりないので楽しみにしてました。

木村です。よろしくお願いします。
社員15万人のグループ会社のうち、5,000人規模の組織で23年8ヶ月勤務していました。最後は部長職でした。
最近、独立してキャリアコンサルタントをはじめました。

木村さん

笑顔で話す紺色のスーツを着た木村さん

フジイユウジ

社員15万人って、聞くだけで笑っちゃうくらいデカいすね(笑)
日本の大企業って、SNSではよく「JTCはこれだから…」とネガティブに揶揄されがちですけど、木村さんの実感としてはどうでした?

JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)

昔ながらの日本の大企業やその企業文化を指す俗称。 揶揄する意図で使われがちな言葉ですが、本記事では日本の良いところも悪いところも含めて「歴史ある大きな日本企業」といった意味で使用しています。

まあ、外からのイメージに近いところもありますね。
とにかく縦割りの分業が進んでいるので、他部署と関わるときは本当に時間も手間も多いし、面倒くさい。
何かやろうと思うと、社内の”お伺い”プロセスがとにかく多くて、思うように話が進まないんですよね。

木村さん

フジイユウジ

規模が大きいと、サクッとやれば良いようなことも「連携しながら」という合言葉を唱えながら、確認・調整・根回しを続けることになりがちですよね。
やれば数日で終わることを「どうやるか」話すので一ヶ月かかるみたいな。

そうなんです。最後にいたのは本社だったので、特にその傾向が強くて。
部署間の調整、資料の作成、チェック……とにかく内部向け業務が多すぎて、「これは一体何のためにやってる仕事なんだ!?」って叫ぶこともよくありました(笑)

木村さん

フジイユウジ

顧客や市場に向けた仕事よりも社内向け業務の方が膨大……。
それはつらいなあ。

笑いながらも困惑した表情の木村さん

たくさんの人たちがチェックしてきて、途方もない時間とコストをかけて決めてきた内容が、上の素人考えでNGになることもあります。
ともかく社内向けのコミュニケーションが必要で、何度も発生するこの「やり直し業務」の多さはキツいです。

木村さん

フジイユウジ

マジできっつい話だな……

偉い人たちから戦略が練られて降りてくるときは良いんですけど、「よく分かってない人が思いつきで言ってるんじゃないか」という指示が落ちてくることもすごく多い。
「意味わからないけど、上から言われたからやる」という上意下達が横行してるから、現場が疲弊していくんですよね。

木村さん

フジイユウジ

白黒つけようとしたり、本質的な問いかけや提案すると煙たがられたりしそうなやつ……。

まさにそれです。「こうした方が良いんじゃないですか」と上申しても「意味がわからん」で一蹴されたりしますからね。
わかりやすく上司が喜ぶことだけすぐ手をつけるとか、資料がキレイとか、そういう「やってる感」を出す人が評価されやすいんですよね。

木村さん

上司の「わけわかんねえ指示」も自分の経験に変えていく。

フジイユウジ

ここまでの話だけ聞くと「もう転職した方が良い」って感じる読者も多いと思うんですけど、大企業で働く面白さもあるんですよね?

良いところも沢山あると思います。
関わりは部分的ではあるけど、仕事のスケールも大きい。
イメージ通り安定しているし、キャリアづくりのための整備されていることも多いし。営業のときに社名を出すと、門前払いにされることも少ない。

木村さん

フジイユウジ

なるほど。
一方で、先ほどお話しいただいたような、無意味に思える指示やコミュニケーションがある。
そのような環境でも、ポジティブに捉えられる面はありました?

そうですね……。
もちろん、「なんでこんなことをやるんだ」と感じるようなことはたくさんあります。
でも、今振り返ると、それも「大局的な視点」で見れば意味があったのかもしれない、とも思います。

木村さん

フジイユウジ

と言うと?

思いつきのように見える指示を出している人たちも、「さらに上の指示に振り回されて、指示を出している」構造になっているんですよね。
マネージャーになってから気づいたんですけど、グループ会社の役員すらも親会社からの指示に振り回されている

木村さん

真剣な表情で話す木村さん

上の人たちがどういうプレッシャーを受けているか、さらに上の親会社からどういう指示が降りてくるのかが見えるようになってきたんです。

木村さん

フジイユウジ

あー、現場が「それ意味ないだろ」と感じるのは、そもそも複雑な伝言ゲームの中でそうなっていると?
グローバルを見据えた強い戦略があるのに、現場にうまく伝わってないだけとか。

それだけ見ると酷い状態ですけど(笑)
一見非合理に見える指示や仕組みも「ああ、この巨大な組織を動かすためには、こういうメカニズムで少しずつ動かすしかないんだな」とか、「個人から見るとバラバラに見えてるけど、全体としてはこれでいいんだな」というふうに見ればいいのかな、と少しずつ理解できるようになってきました。

木村さん

フジイユウジ

複雑なシステムの中で生きる、現実的な仕事経験が得られるのが大企業で働く良さのひとつってことですかね。
すべてを白黒はっきりできない、合理的に割り切れない状況を受け入れる、「ネガティブ・ケイパビリティ」のような力がつくってことかな。

ネガティブ・ケイパビリティ、私がまさに感じていたことです。
「なんでこうなるんだろ」とか「効率悪いな」と思うことは多々ありますけど、それをすぐに変えたり、すべてを理解することはできない。
その「分からなさ」の中に身を置くことで、世の中の「複雑さ」とか「巨大なシステムを動かすとはなにか」を知ることができるのかなと。

木村さん

ネガティブ・ケイパビリティとは:

ネガティブ・ケイパビリティは、すぐに判断を下さずに熟考を重ねながら、不確実性や曖昧さに身をおいたまま受け入れる力。物事に素早く結論を出さず、答えが見つからなくても焦ることなく、考え続けることができる力とも言えます。 新しい概念や複雑な問題に直面した際、短絡的な理解をしないままの態度を持つことで、より深い理解や新たな発見につながる可能性が高まると言われています。

フジイユウジ

上司の意味のわからん指示も、「上司がバカだから」ではなくて組織の複雑さがあるからだと理解すると、気持ちが楽になるというか、また違った見え方ができるような気がします。

本当にそう思います。
そういう「複雑さ」や「連鎖」の中で物事が動いているんだと理解すると、自分の置かれている状況に対する見え方も変わってきますからね。
あと、そう考えることで必要以上にストレスを感じなくなる部分もある気がします。

木村さん

フジイユウジ

あー、ぼくは自分自身がネガティブ・ケイパビリティが低いと感じることが多いんですよね。
非効率さとか、目の前にある不条理みたいなものをすぐに修正したがってしまうというか、その複雑性とか巨大システムの連鎖みたいなものを受け入れる力が低い。
大きな組織で働くというのは、その力をつけることができるとも言えますね。

それと、大きな組織の中でパフォーマンスを出していく上でも、仲間の存在が非常に重要なんですよね。
「わけわかんねえの来ちゃったな」「ヤバいね」といった困難な状況って、ひとりじゃ受け止めきれないんで。
笑いながらどうにか乗り越えていく、仲間とやっていく良さがあります。

木村さん

フジイユウジ

そうか。そういう「わけわかんねえの来ちゃったな」ってのをチームで受け止めていくから仲間が大事なのか(笑)
大企業で働いたことある人って無駄に敵を作らないだけじゃなく、「仲良くやっていく」って意識が強いなあって感じることが多いけど、その環境でサバイブしていくためにそうなっていったんだなあ。

JTCや大企業で上手くやっていくには?

フジイユウジ

これまでのお話で、大企業・巨大組織ならではの良いところ・悪いところをお話いただきました。
その中で、どうすれば「良い仕事」ができるのか、組織を「乗りこなす」ことができるのかコツみたいなものってありますか?

そうですね。
色々なテクニックもあると思いますが、まず大前提として、大企業という「巨大な生態系」の複雑さを理解し、ある程度「そういうものだ」と受け止めることが重要だと思います。

木村さん

フジイユウジ

おお、なるほど。
そもそも”合理的・最短距離で仕事をすることは難しい”のだから、それを「そういうもの」と受け止めてないと辛くなっちゃうし、自分の職場を嫌いになっちゃいますよね。

先ほどもお話した通り、白黒つける力よりも複雑な状況を受け入れる力が大事だと思います。
フジイさんも言っていた「ネガティブ・ケイパビリティ」ですね。
すぐに解決できない、理解できないことでも、その中に身を置きながら対処していけばいいんだと思います。

木村さん

身振りを入れながら真剣に話す木村さん

そして、「素直さ」も重要だと思います。
この指示は無意味に見えるな…と思っても、それをやることで会社全体のどこかに貢献しているはずだと信じて、できる形でこなしていく。
その積み重ねが、信頼をつくることになって自分に返ってきますから。

木村さん

フジイユウジ

素直って、イエスマンとは違うんですよね。
相手の意図をちゃんと読み取ってチームでこなしていくことだったり、自分のこだわりを押しつけない賢さというか。

その姿勢が組織で生き抜くポイントである「敵を作らない」にもつながります。
もちろん、言いなりになるということではなく。
上司に言われたことを「わかります」と共感しつつ、現場には落とさないで放っておく場合もありますからね(笑)

木村さん

フジイユウジ

直接NOを言わないで保留して流していくテクニック(笑)

また、先ほどは「やってる感」が評価されることをネガティブに話しましたが、人数の多い組織では社員ひとりひとりのやってることを適切に評価するというのは難しいから、わかりやすい行動や可視化されていることが評価されます。
だから、行動や結果で示すだけではなくて、自分が「やっていること」や「考えていること」をちゃんと周囲にわかるように伝えるということが必要になってきます。

木村さん

フジイユウジ

成果を出すために頑張ったり、会社のために良いことをやっているのであれば、それに周りを巻き込んだり、止められないようにするためにも「知ってもらうテクニック」がいるんだな。
やってる感だけ見せて評価ハックするのとは違うわけですね。

とても良い仕事してるとは思えないのに「やってる感」だけで昇進していく人も見ましたけどね(笑)
でも、もちろん尊敬できる仕事をしてる人もたくさんいます。

木村さん

苦笑いしながら話す木村さん

それから、大企業から無茶なことを押し付けられてストレスを溜め込むのではなく、大企業を「利用する」という考え方を持つと良いよという話は、部下にも言ってましたね。

木村さん

フジイユウジ

なるほど。
そういう視点をもって働くと良いよ、と。

大きな会社には、安定性やブランド力はもちろん、研修制度や資金力など、豊富なリソースがあります。
多くはホワイト企業になってきてると思いますし、そういう環境を活用して、自分のやりたいことに繋げていけば良いんだと思うんですよ。
例えば、会社のお金で学びたい研修を受けさせてもらったり、新しい技術や分野に挑戦させてもらったり。

木村さん

フジイユウジ

耐え忍ぶのではなく、組織の特性を理解して、リソースや人間関係を活用しながら、得られる価値に注目した方が良いと。
先ほども組織構造を知るとストレスを感じにくくなるとおっしゃっていたように、見かたを変えて乗りこなしていくことが大事なんですね。

はい。視点を変えれば大企業の仕事は、大変ながらも「面白いもの」になると思います。
街中で広告を見て「あ、自分のやった仕事ってこれに繋がってたんだ。大きな仕事だったんだな」って後から知るような経験は他では得られないと思いますし(笑)
一見無駄に思える経験も、必ずどこかで活きてくる。大変なことも多いですが、巨大組織で働くことでしか得られない面白い仕事や経験はあると思いますね。

木村さん

まとめ:JTCや巨大組織で働く4つのヒント

  • 合理的に最短距離の仕事をするのではなく、大きな組織は「そういうもの」と捉える。
  • 行動や結果を見せるだけではなく、自分のやっていることを”伝える”。
  • 理不尽なことは、ひとりで抱えず仲間と乗りこなしていく。
  • リソース豊富な会社だからこそ、「使い倒す」くらいの発想で。

木村さんX/Twitter

上司と部下の楽しきラジオ


(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2025年03月

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