社長の産休→復職経験で「弱音を吐かずに頑張る」をやめたことが働きやすい職場づくりにーーー株式会社ノヴィータ代表 三好怜子インタビュー
リモートワーク体制が整っている職場として第1回「TOKYOテレワークアワード」を、女性にとって働きやすい職場として令和4年度「東京都女性活躍推進大賞」優秀賞を受賞している株式会社ノヴィータ。
今回はノヴィータの代表取締役社長である三好さんに「開示する大切さが生みだした、コミュニケーションする組織」についてお話を伺いました。
【ノヴィータ 代表取締役社長】三好 怜子
広島県出身。お茶の水女子大学卒。ノヴィータ創業時の立ち上げメンバーとして参画し、WebディレクターとしてWeb制作の企画営業・進行管理を担当。2010年に取締役、2015年3月に代表取締役社長に就任。2021年に第1回「TOKYOテレワークアワード」推進賞を受賞。2022年には、令和4年度「東京都女性活躍推進大賞」優秀賞を受賞。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。
女性も男性も活躍するフルリモート組織。
今日はよろしくお願いします。
ノヴィータさんは2021年に第1回「TOKYOテレワークアワード」推進賞、翌年2022年には令和4年度「東京都女性活躍推進大賞・優秀賞」を受賞されて、最近はテレビにも出られてますね。
代表の三好です。よろしくお願いします。
ノヴィータはWEBに関する制作や支援をしている会社で、関連した人材事業や自社サービスもやっています。
「東京都女性活躍推進大賞・優秀賞」受賞の印象が強いんですけど、社員は女性ばかりですか?
そんなことないですよ。全体で40名くらいの組織で、女性7割・男性3割といった感じです。女性組織のイメージがありますけど、ちゃんと男性も活躍してます (笑)
既婚率も全体の7割くらい、子育て中の方が全体の半分くらいですね。
リモートワーク中心の会社だと子育て中の方も働きやすいでしょうね。
コロナ関係なく、以前からリモートワーク推進してたんですよね?
そうですね。
2017年から少しずつリモートワーク環境を整えてきて、コロナ禍以降はほぼ全員フルリモートです。
「弱音を吐かずに頑張る」から「自己開示をして助けてもらう」へ。
事前にノヴィータのことを調べてみて、多様な働き方ができる会社であることにすごいパワーをかけていて、なんというか執念のようなものすら感じたんですけど、これはなんなんですかね(笑)
私自身がノヴィータとしての産休・復職の最初の事例なんですけど、まわりに助けてもらうのが下手なのもあって、周りも自分も苦労したんですよねえ。
私が復職して1年過ぎたころに、初の育休取得者も出て、それからも事例がある度にブラッシュアップして、同じ苦労はさせないぞという気持ちで積み上げてる感じですかね。
同じ苦労はさせないぞ、という気持ちが仕組みになってる。
そりゃ本気度が違いますよね。
社長として就任した翌年に出産したんですけど、元々周りに助けを求めるのが苦手な性格の上に、復職して間もない時期に社員から指摘をうけ、プライベートなことを仕事に持ち込んではいけないと思い込んでしまって弱音を言えなかったんです。
復職してすぐ社員のみんなに「自分でやります。できます。」って言っちゃう。
でも実際は育児しながらだとできない。
出産前はバリバリ仕事をしてきて、これからも良い社長として目指していきたいもの・やりたいことが沢山ある。
それなのに全部やりたいという気持ちだけで、ぜんぜんできない。
一度子どもを寝かしつけたあと、夜中に起きて仕事をしても、自分のできるイメージの半分くらいしかできない。
完全に追い込まれて。
聞いてるだけでキツいー。
もう本当に無理だってなるまで追い込まれてしまったんですねえ。
そこまで追い込まれて、やっと会長に弱音を吐き出せて、顧問にも相談するようになって。
「子どもが生まれたばかりで、これからもっとできないことが増えていく準備をした方がいい」や「できないことを認めて、どうしたらいいのか考えよう」とアドバイスをもらったんです。
おおお……それで自分が頑張るのをあきらめることで、仕組みづくりへシフトできた…?
当時は私自身もはじめてのことだらけで明日なにが起きるかわからない。
説明されないからみんなもわからない、という状況でした。
私は弱音も吐くのが苦手だし、開示も下手だったんですけど、頑張って格好をつけるのをやめて、何が大変なのかみんなに開示する、説明することから始めました。
「制度をつくろう」と検討開始したのではなく、そのときすでに第一号である三好さんが社内にいて、困ったことがその場にあるって状況だったわけですよね。
はい。社員のみんなもはじめての出来事で、事例もなかったので。
そこからはじめて、何が大変か、何ができて何ができないかを整理して開示していくようになりました。
そうしたら、だんだんと社員のみんなも理解が深まっていって。
当事者になる人も増えて、事例が集まったからフォローできる人や幅も広くなった。
そうか。そうやって、フォローした経験がある人も増えていく過程で、当事者になる自分をイメージすることもできるんですね。
そうなんですよ。
私の大変さが落ち着いたら終わりじゃなくて、次は同じように苦しい思いをする人が減って、自分のときより楽にやれるようになっていて欲しい。
それでメンバーの産休・育休も私の後に続くようになって。
2015年にはほとんどいなかったのに、子育てしながら働いているメンバーがいまは全体の5割ですから。
先々を見据えてこういう会社をつくるぞっていうところから入ったというよりは、目の前にある大変さの実感から何とかしなくてはという危機意識を持つようになったんですね。
今では、産前から産後の復職までどういうフォローアップをするか、事細かく社内業務フローができあがっていて、相談が来たらすぐサポートができる体制が整っています。
制度を使うというよりも、日常業務のフローとして動けてるのって自然ですごくいいですね。
出産や復職、家族の都合でのリモート勤務などは経験がありますけど、これからは介護だとか個別の事情に合わせられるようにどんどん仕組みにしていきたいと思ってます。
ライフイベントは出産だけではないので。
ライフイベントは出産だけではない。
言われてみれば当たり前だけど、それってすごく良い観点ですね。
会社がイヤになったとかは仕方ないにしても、ライフイベントの都合で辞めたくない仕事を辞めざるを得ない状況をなくしていきたいんです。
ライフイベントの都合で仕事を辞めるなんておかしい。仕組みがなければつくればいい。
コロナ禍に関係なく早い時期からリモートワーク推進していたというのも、やはり個々の社員の事情に合わせてなんですか?
2017年頃に社員の一人が「家族の都合で遠方に引っ越すことになったので、会社を辞めます」という話を持ってきたのがキッカケで。
あ、まさにライフイベントの都合で辞めたくない仕事を辞めざるを得ない状況……
そうなんですよ。
本人は「遠方だから辞めるしかない」と思ってたらしいんですけど、やってみてダメだったら仕方がないけど、どこまで在宅勤務でできるのかやってみようと言って引き止めて (笑)
ノヴィータらしさっていうんですかね、めちゃくちゃポジティブですよね。
引き止めて「やってみようよ」っていうとこ (笑)
前例がない、会社に仕組みがないから辞めるなんてことじゃなくて、ないなら仕組みを一緒に作ればいいし、どうしたらできるか考えようみたいな社風は私が社長になる前からあるかもしれませんね。
元からリモートできる体制だったというのもあるけど、コロナ禍になってすぐにフルリモートに切り替えて上手くいってるのも、その変化することへの柔軟さや強さがあるからでしょうね。
おかげで、フルリモートでみんなが働きやすい環境を作れましたし、遠方に住んでいる人の採用もできるようになりました。
遠方勤務をはじめてみた2017年当時はまだリモートワークのノウハウとかツールも今ほどなかったですし、今であればSlackでやってるようなことも電話をかけたりしてましたね。
最初はサポートする側もどうサポートしていいか分からなかったので、第一号をやってくれた社員にはすごく苦労させてしまっただろうなと今更ながら思いますね…。
多様な働き方を担保する、「開示してもらう」文化と仕組み
仕事にみんなが合わせて生活するのではなく、会社がひとりひとりの環境に合わせた仕組みを作っていく、というのをお聞きして良い会社だなって思いました。
その一方で、様々な環境に合わせながら日々の業務をチームでこなしていくのはそう簡単なことじゃないとも思ったんですが……
もちろん子育てだとか個人個人に合わせてのサポートは必要なんですけど、その中でサポートされているなと思うことが多いと「結局自分は他の人より助けてもらわないと仕事ができない人で、他の人は自分より頑張ってるな…」と心苦しくなるんですよ。
結局、そうなるとプライベートのことは言いづらいな、となって……
ああ、そうか。
当事者から開示されなくなると、仕組みにできなくなったり、サポートできなくなる。
はい。「それが普通」にしないと、サポートする側は「毎回、私ばかり苦労してる」って思うし、受ける側が「助けられて申し訳ない」って意識だと状況を開示しなくなるので仕組みとして機能しないので。
なるほどなー!
それ、具体的にはどうしているんですか。
ここは仕組みというよりも文化的なところですけど、やっぱり開示なんですよ。
「みんな頑張ってるのに自分だけ半分しかやれてない、つらい」みたいな率直な気持ちを開示してくれれば、サポートできる。
でも、内面の開示って難しいじゃないですか。
そうですよね。
ノヴィータは話しやすい雰囲気があるんでしょうけど、それでも内面の開示ってそう簡単じゃないですよね。
しろって言われたからできるとかじゃないしな……。
仕組み仕組みって言っている割に私たちはウェットな組織でして、みんなでみんなのことを気にかけているんですよ。
自己開示が下手だとしても、人って何かしらサインを出しているじゃないですか。
誰かがいつもと様子が違うな、と思ったらその人の同僚や上司からヒアリングして、誰からどういう話を振るといいかを練ってコミュニケーションするようにしています。
あの人は直属の上司が話を聞いてあげたらいいとか、ここは上司よりも役員の方が話しやすいだろうとか、別部署の人がサポートにいくべきだとか。
手厚い……。
人や状況によって、直属の上司が良い場合、役員が言ってくれたら助かるとき、人事とか事業部門じゃない人だと話しやすいときなど色々ありますよね。
はい。
上司から助けるよって言われるのがイヤな気持ちにしかならない場合もあるでしょうし、本人にとって安心して話しやすいようにするにはどうしたら良いかを柔軟に見てますね。
ここでも個人が組織に合わせるのではなく、組織がみんなに合わせることを徹底している……!
コミュニケーションは個人ごとに合わせて動いて、仕組み化するところは徹底的に仕組みにします。
業務分解しまくって言語化することで営業部門も管理部門の苦労がわかっているとか、誰かをサポートするときに何が必要か明文化されているみたいに。
人に寄り添うところと仕組み化のバランスが絶妙ですね……。
全員リモートワークになったことで、「みんなでみんなのことを気にかける」が難しくなったりはしませんでしたか?
話す機会をつくってるというのはあると思います。
一例ですが、テーマを決めて雑談する「よもやま」っていう交流があります。人事とかも入って定期的に実施します。人が来ない日があっても定期的に場が開かれてるようにして。
一番多く開催されているのは「ママよもやま」。
あとは若いメンバー同士の交流が足りなさそうと思って「平成よもやま」という平成生まれ限定参加の回も開催しました。
私は平成生まれではないので参加できないのですが(笑)
ママよもやま盛り上がりそうだなあ(笑)
みんなでみんなのことを気にかけるための機会を増やす仕組みがあるってことか…
あと、会社に向かって思うことがあっても「言いたいことがあります」って普通は言い出せないじゃないですか。
月次で社員にアンケートをとってるんです。
フォームに向けてだと人に見られている感じが少なくなるので、そこで口では言えなかったことをみんな書いてくれたりするんですよ。
あと、書いてくれることの変化を見てるので、それがサポートが必要そうだなっていうアラートになっていたりするんです。
6、7年ずっと取ってるんですけど、アンケートの項目は変えてないんですよ。
人によって開示しやすい相手や雰囲気が違うから、それを雑談の場だったりアンケートだったりと、色々と用意しているってことですね。
なるほどなあ…。
三好さんの「人によって環境が違うのを想像力だけでサポートするのは無理だ、当事者が開示しないといけない」という強い想いを感じますね。
私自身が開示できずに苦労したから、開示してもらえる環境づくりを頑張っているというのがあります。
これからも勇気を持って開示してくれた事例をプロセス分解して、色々な状況に合わせて働ける環境を整えていきたいですね。
まとめ: 当事者に開示してもらう難しさを知っているチームだから
当事者への想像力を働かせて制度設計をする会社はよくありますが、ここまで徹底して個人の声を大切にしながら組織として制度や仕組みに落とし込めている会社はなかなかないのではないでしょうか。
それも、「当事者はきっとこうしてあげるといいんだ」とサポートする側が想像するのではなく、「当時者が開示して伝えないとはじまらない」という三好さん自身の体験を中心に置いたことが形になっているのだと思います。
受賞の盾と一緒に。左は広報の中根さん。
株式会社ノヴィータ
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影(一部):奥川 隼彦)取材:2023年5月