入社80日後に取締役になった kiyosick さんに聞く、オンボーディングの話。
はてなやDMMでの経験を経て、わずか80日で取締役に。株式会社リンケージCPO・吉田聖志さん(kiyosick)が語るのは、成果よりも「信頼を築く」スタイル。組織に溶け込むための独自のオンボーディング術とは?
信頼関係構築のコミュニケーションや仕事スタイルについてお聞きしました。
kiyosick(吉田 聖志)
株式会社リンケージ 取締役CPO。
オールアバウト、はてな、freee、DMMを経て現職。オールアバウト時代から企画やプロジェクトマネジメントに携わり、はてなでは「はてなブックマーク」の運用ディレクターを担当。現職ではCPOとしてプロダクトを見ながら、組織設計を行っている。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。
「入社時は赤ちゃん」から始める、80日後に取締役になる中途入社。
株式会社リンケージの取締役CPOをやっています、吉田(kiyosick)です。
これまでは、はてなやDMMにいました。
リンケージに入社してすぐに取締役になった話を聞きたいなと思ってるんですよ。
入社されてすぐに取締役になる予定じゃなかったんですよね?
ゆくゆくは経営にも参画したいとは考えていましたけど、80日で取締役になるとは思ってもみなかったですね。
だって、入社して3ヶ月経ってないんですよ (笑)
入社してからの80日間ってどんな感じだったんですか。
入社してすぐ成果を出して信頼してもらったとかではないですね。
むしろ、ともかく全員と話して、ひたすら教えてもらうって感じでした。
自分は何も知らない部外者だと考えて、最初の100日は観察とかヒアリングに徹する方が良いという話ですね。
「口はほどほどにして、耳と目と足を動かせ」ってやつだ。
リンケージの事業は医療関連で、そのドメインについてぼくはよく知らない。
周りからは「突然なにも知らない赤ちゃんが来たぞ」みたいに見えているわけだから、まずは話を聞いて知ることから。
赤ちゃん(笑)
自分のこと赤ちゃんだと思って話を聞くってのは、まさに「最初の100日で何をすべきで何をすべきでないか?」の実践ですね。
それなので、入社してからは1on1をずっとしてましたね。
任天堂の岩田さんスタイルだなと思って、ともかく全員と話しまくっていた。
任天堂の元社長・岩田聡氏は、できる限り多くの社員と直接対話する時間を設けていたことが知られています。
岩田氏は、相手の話をじっくりと聞き、本音や悩み、不満に真摯に耳を傾ける姿勢を貫いていました。こうした対話を通じて得た気づきを、経営や組織づくりに積極的に生かしていたと言われています。
ぼくのことを「なんだか悪いことするやつじゃなさそうだな」と思ってもらえるような対話の場を持った、というのを最初にやったのは良かったかもしれませんね。
全員と話すことで会社や業界のことをインプットをしながら、自分を知ってもらう機会を作れた。
外から来た人って、今の社内にはない価値をプラスしてくれることを期待されているわけじゃないですか。
その期待がある中で、「教えてもらうことに徹する」って意外と難しいですよね。
ぼくやフジイさんのようにずっとインターネットの世界で生きてきた人間って、効率の悪いものを破壊したがるじゃないですか?
たとえば、リンケージは医療ベンチャーです。
医療職の方々っていうのは効率が良いかどうかじゃなく、ガイドラインを守るのが大事な仕事なんですよね。
当然、現状維持の力が働きすぎると、効率が悪くなっていることもある。
それを効率が悪いことと捉えるのではなく「異文化」としてちゃんとリスペクトしてコミュニケーションしないと、「このやり方はイケてないから変えよう」って破壊者ムーブをしてしまうことがあると思うんです。
いきなり破壊者にならないようにする。
いきなり破壊者にならない、これは本当に大事ですね。
経験のある人が新しい環境に入ると「ここを変えたら良くなる」って言いたくなるけど、まずは観察と理解からだと。
「このやり方はイケてない」と感じたときは、それを大切にしてきた意味を自分が知らないだけかもしれないと考えて立ち止まるようにしています。
どうして現状維持を大切にしてるのかだとか「理由を知ること」をやらないと、破壊者になってしまうので。
「ただし、破壊しないでそのままにしておくとも言ってない」んですけどね (笑)
文化がなければ作れば良い
全員からヒアリングする一方で自らアクションしていったこともあると思うんですけど、その辺はなんかあります?
入社してすぐに社内で使われているNotionにブログを書き始めたんですよね。
いきなり情報発信。
元はてな社員っぽいムーブだ (笑)
あんまり社内で積極的にアウトプットしてる人がいないなって思ったんですよね。SlackやNotionでドキュメントを残すみたいな動きが少なかった。
一緒に働いてる人たちが見たときに何をやっているのかがわかるように毎日欠かさずブログを書いた。
あー、なるほど。
これ転職とか新しいチームに参加するときにマネすると良さそう。
何を考えているか、どんな人かを知ってもらうのに社内ブログとして発信するの、めっっちゃ良い!
フジイさんの言う通り、はてなに在籍してたことが結構大きいですね。はてなはブログの会社だし、テキストコミュニケーションのカルチャーが強い会社なので。
その異文化をリンケージに持ち込んだみたいな感じ。
とにかく自分がアウトプットしてるのを見せたら、後に続いてくれる人が出てきたんで、やって良かったですね。
入社してから取締役と毎日1on1する「ロケットスタート1on1」
わからないことを自分で学習して、なおかつ組織に足りてないことを足す。これをバランスよくやれる人って少ないと思うなあ。
kiyosick さんは、自力でオンボーディングして取締役になったわけですけど、そういう自走型で活躍できる人を求めてる会社って多いですよね。
ぼくは「自走できる人材を募集」みたいなこと言ってる会社、嫌いなんですよ。マジで嫌い(笑)
自走してもらう前に燃料を渡したり道を整えたりせずに「自走して」って言うのは、組織とか事業を良くすることを放棄していることだと思ってて。
めちゃくちゃわかる(笑)
受け入れ側が入社してくる人を活躍させる努力をしないで「お手並み拝見」しちゃうんだよなあ。
そうですよね。
だから、ぼくより後に入社してきた人のための仕組みも作っていて。
入社してから取締役であるぼくと毎日1on1するっていう「ロケットスタート1on1」をしていいます。
これ最強のオンボーディングだと思うんで、流行らせたいんですけどね (笑)
入社してから毎日、取締役と1on1!
kiyosick さんご自身は自走されていたわけですけど、後から入ってくる人に自分と同じ苦労をさせないように工夫してるんですね。
何がわかってないのかがわからない状況から脱してもらうことが、一番パフォーマンスを出してもらえるようになるんだから、自力でキャッチアップしてもらうより効率が良い。
取締役が会社の事業内容、組織構成、カルチャー、バリュー、行動指針など、ありったけの情報をしっかり出してサポートするのが最速だと思うんですよね。
会社として、自走してもらえる環境をまず整える。
めっちゃいいすね。
立ち上がりにおいてこれが最速の方法だと思ってます。
2週間くらい毎日話したら、配属部署のマネージャーとの1on1に移行したり、状況に応じて週に1回程度に減らしたり調整しながら運用してます。
圧倒的な当事者意識「Extreme Ownership」
あと、リンケージにはぼくの入社前からバリューはあったんですけど、抽象的すぎて社員の行動に繋がっていないなと感じたんです。
それで、社員の行動指針として使ってもらえるような具体的なバリューに作り直したりしましたね。
おー、1on1や社内ブログで「相手を知ること + 自分を知ってもらうこと」を徹底しながらも、自分が新しく加わることで組織に足すことができる価値を見極めていたってことか。
何を足すかを見極めて、オンボーディングやバリューを変えていったんですね。
そうですね。具体的に何を意識して仕事するのか社員に理解してもらえる分かりやすさが必要だと考えて、圧倒的な当事者意識「Extreme Ownership」を強調したバリューにしました。
「圧倒的な当事者意識を持ってなかったら、ビジネスパーソンとしては死」レベルのものを全人類が持つべき資質だと思ってるので。
それにしても、会社の定めたバリューが機能してないから変えちゃおうぜってのはダイナミックですね。
MVVやカルチャーは、時代の変化に合わせて変化していくべきだと考えています。ベン・ホロウィッツもアップデートされ続けるべきと言ってたし。
ぼくたちの行動指針も、状況に合わせて頻繁に更新していく可能性があります。
変わらないのは、Extreme Ownershipを持つべきってことくらいじゃないですかね。
まとめ: kiyosickさん式のコミュニケーション術。
新しい環境に適応するコミュニケーションは、「まずは相手のことを知りながら、自分を知ってもらうことから。
そして、相手に合わせていくだけではなく、自分が加わることでどんな価値を「足す」ことができるのかをしっかり見極めていく(でも急進的に変えようとはしない)という姿勢が大切だと感じました。
- 成果ではなく、観察と対話に徹した「100日ルール」の実践。
- 「これは効率が悪い」と思っても、何か理由があると考える異文化への理解とリスペクト。
- 社内ブログの発信で自分を知ってもらう。
- 取締役との毎日1on1で最速オンボーディングする「ロケットスタート1on1」。
- 自走できる環境がないまま、中途入社してくる相手に自走を求めない。
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リンケージ株式会社
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2025年3月