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なぜ、人は想定通りに動かないのか。『RULE DESIGN』の著者、江崎さんに聞く社内ルールのあり方

江崎さん写真

ルール通りに動いてくれなくて困った……業務の中でそのような状況におちいることはよくあるケースではないでしょうか?今回は「なぜ、人は想定通りに動かないのか。」を知るために、『数理モデル思考で紐解く RULE DESIGN』の著者である江崎貴裕さんにお話を伺いました。

江崎貴裕さん


江崎貴裕

江崎 貴裕(東京大学先端科学技術研究センター 特任講師 / 株式会社infonerv 創業者)
『数理モデル思考で紐解くRULE DESIGN』『分析者のためのデータ解釈学入門』『データ分析のための数理モデル入門』著者。
2011年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。同大学院で博士課程修了後、様々な組織で研究員としてキャリアを積み、2020年より現職。2021年には株式会社infonervを設立。研究とデータ解析事業の両軸で社会貢献を目指している。

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。

数理モデル思考で紐解くRULE DESIGN写真


人や社会を良くするためのルールがどうして機能しないのか、どうすれば良いルールデザインに取り組めるのか。データ分析者の観点で紐解く一冊。
著者の江崎貴裕さんが働く東京大学先端科学技術研究センターに伺ってお話をお聞きしました。





なぜ理不尽なルールが存在するのか?という問いがきっかけ

フジイ

『RULE DESIGN』、すごく良い本でした。
「ルールは支配ではない」や「ルールによる弱い行動の制約で、複雑な個人・集団・社会の振る舞いをなんとか良い方向にもっていけないかを模索する営みである」という言葉にシビれました。

ありがとうございます。
実は10年以上前からルールに関する本を執筆したいと思っていたんです。学生の頃に交通渋滞など人間の群衆運動について研究をしていたんですが、どうすればルールによって適切な行動を生み出せるのか、という問いをずっと持ち続けていたんです。

江崎さん

フジイ

おお、学生のころの研究から。

あと、理不尽なルールに直面したことも原体験といえるかもしれません。
見渡してみるとルールはたくさんあるのに、ルール作りに関する内容がまとまっている本は身近にない。であれば、それをいつか自分で作りたいなと思ったんです。
それから、ルールに関する色々な事例を集め始めました。

江崎さん

フジイ

なるほど。ルールを守るのが難しいという話だけではなく、意味のあるルールを作れないなどの事例が豊富でとても勉強になりました。

はい、そしてなぜ失敗したかをきちんと紐解くようにしました。
それらの事例から、ルールを守ってもらうためには、まず「なぜルールが存在するのか」という設定背景をきちんと伝えることが重要だと思い至りました。

江崎さん

ルールは決められたことを守るためにあるのではない。

フジイ

「なぜルールが存在するのか」を意識できれば、本来の目的通りに機能しそうですよね。

この本では、ルールを「何らかの目的の状態を達成するために設定された、人が従わなければならない行動の制約を与えるもの」と定義しています。
ルールは、目的達成のための手段なので、目的を重視しないと運用もうまくいきませんから。

江崎さん

フジイ

ルールって割と場当たり的に「問題が起きたから追加する」みたいに作られがちですけど、「あることを達成するためには、どんなルールが必要か」という観点で作られるべきだと考えないといけないですね……。

ルールを作った背景をきちんと説明するって、実はないがしろにされていると思うんですね。
例えば、会社なら就業規則に守るべきルールが記載されているわけですが、「何をしてはいけないか」を知っていたとしても「それはどんな目的を達成するために作られたか」説明を受けた人はほとんどいないんじゃないかと思います。

江崎さん

フジイ

なるほど。
ルールを守らなかったり、ルールがあることが認識されにくいといった「人は想定通りに動かない」現象が起きるのは、ルールを軸にして目的を軸にしていないからということですかね。

なので、目指すべき目的に向けてルールを作ったこと、そしてその背景を説明することが必要なんです。
過去このルールができる前にどんなことが起こったのか、しっかりと説明することがルール遵守につながります。ルールを守る側が、なぜルールが存在するのかをきちんと理解できるというのがとても重要だと思います。

江崎さん

変化することを前提にした適応的ルールデザイン。

江崎さん写真

フジイ

ルールを作成した目的がなんだったのかの認識が薄れて、決められたルールを守ることばかり大切にされ、変更された方が良いルールがそのまま運用されたり、対応が硬直化しますよね。

目的達成への効果が薄いルールがそのまま残っているパターンや、外部環境が変わったのにルールを変えられずにいるのを、よく見かけます。校則や条例などニュースになるものも、形骸化したルールの運用を強制してハレーションを起こしているケースが多いですよね。

江崎さん

フジイ

ルールデザインの難しいところですねー。

ルールは何かの目的を達成するための手段ですから、決められたことを遵守しても、目的が達成されていなければ意味がないですよね。ルールを作っても上手くいっていないのであれば、ルールが適切だったかどうかの見直しが必要になります。

江崎さん

フジイ

書籍『RULE DESIGN』でもルールを決めることだけでは不十分で、フィードバックを受けて変化する「適応的ルールデザイン」が大事と書かれていますよね。

ルールを作る時点で、見直す前提をチームや組織で共有することができると良いと思います。
目的達成に向かっているか、確認をしてフィードバックが活用される状態を事前にデザインしておけると良いですよね。

江崎さん

「ルールを守れない」も「ルールを守りすぎる」も変えられる。

フジイ

決め事である「ルール」を中心に考えると息苦しさや不便さが際立ちますが、「目的」を中心にしながら目的に向かって見直していくという考え方が広まるだけで、社会の効率が良くなりそうですね。
ビジネスの現場ではチームメンバーがルールにそって動いてくれないことで悩んでいるマネジメント層って多いと思うんですけど、その人に向けてアドバイスありますか?

そうですね……。
・ルールは目的達成のために作られる、という認識の共有
・ルール個別にも背景や目的が共有される
・いわゆる心理的安全性、ルールに対して意見を言える環境である
これらをマネジメントや経営者が組織に広めていくと良いのではないかと思います。

江崎さん

フジイ

「ルールを守れない組織」も「機能していないルールを守りすぎる組織」もありますが、これを意識するだけで変わりそうですね。

ルールの遵守だけに固執することなく、目的達成から逆算しながらルールの見直しをかけられるようになりますからね。
『RULE DESIGN』でも触れていますが、どうなったらルールを変更するかの基準を決めておくことも良いかと思います。

江崎さん

フジイ

基準を決めておくことで、より目的の達成が主軸に置かれそうですもんね。

その通りです。ルールは絶対ではないという共通認識を持って、目的達成に向けてより良くしていくというマインドがあれば、問題発生時に応急処置としてルールを作ってしまうということも少なくなります。
ルールさえ作ればみんなルールを守ってくれるという甘い考えを持つのはやめて「何のためのルールなのか?」を考えて伝えていかないとルールにそって動いてもらうことも変えることもできなくなるんです。
みんなルール作りをナメているんですよ (笑)

江崎さん


江崎さん写真

フジイ

ルール作りをナメてる! ! (笑)


この本『RULE DESIGN』ではルールに関する様々な失敗事例を紹介してきました。この本をきっかけに、「自分たちが普段から遵守しているルールは何か?そのルールの目的は何か?」という問いかけをみなさん自身にしていただきたいと思っています。
この本を読んだ人が行動して、適切なルールが運用されることが増えると嬉しいです。

江崎さん

江崎さん写真

まとめ:「RULE DESIGN思考の社内ルール」

東京大学先端科学技術研究センターで特任講師をしつつ株式会社infonervで起業家としても活躍している江崎さん。

「ルールを設定した目的の明確化」と「運用しながら目的を共有し、達成度を確認する」適応的ルールデザインの大切さをお話しいただきました。

チームメンバーがより良く仕事をするためにルールを作り、その目的を見失わないように運用していくようにしたいものです。

数理モデル思考で紐解くRULE DESIGN写真




(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2023年2月

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