「面白法人カヤック」を支える、面白すぎるコミュニケーションの仕組み
神奈川県の鎌倉に本社を構える「面白法人カヤック」。サイコロの出目で給料が決まる「サイコロ給」などユニークな社内制度と文化を形成しています。
今回は管理本部長の柴田さんにカヤックの文化やコミュニケーションを支える仕組みについてお話を伺いました。
少し長いインタビューになりましたが組織開発の参考になる話の連発ですので、ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。
柴田 史郎
株式会社カヤック 執行役員管理本部長・下川町CIO補佐官。
2011年に面白法人カヤックに入社。人事として10年経験を積み、現在はバックオフィスの責任者として執行役員管理本部長を務める。2022年6月からは北海道下川町のCIO補佐官も兼任し、鎌倉と下川町に半分ずつ滞在している。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend 編集長。企業経営やスタートアップのグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendを立ち上げ。
みんなで評価する「月給ランキング」が健全なチームコミュニケーションを生む。
柴田さんの note や X(Twitter)の発信をいつも楽しみに読んでます。
まずは柴田さんのことを知らない読者に向けて自己紹介をお願いできますか。
肩書きで自己紹介をすると、面白法人カヤックの管理本部長。つまり管理部門の責任者ですね。
兼任して北海道下川町のCIO補佐官としてカヤックから派遣されていて、鎌倉と下川町を行き来しながら、面白法人が提唱する「地域資本主義」について自ら動いて理解を深めています。今日は説明しないですが「地域資本主義的グループ経営」というテーマについて理解を深める必要があると考えておりまして。
肩書きとは関係なく自分で認識している仕事の役割だと、会社のためにはなるけど予算や人をどこから捻出していいかわかんないっていう相談が来た時に「会社的に意味があるんだったらやるか」みたいな判断して、ある程度の予算額がある自分の部門から、みんなが納得できる目的を考えて予算出すようなポジションになっている気がします。
仕事を通じて考えたことを書かれている柴田さんの note、めちゃめちゃ面白いですよね。
note をいつも読んでいて、それでインタビューさせてもらいたいと思ったんですよね。
note は、社内向けに「こう考えるとよいかも資料」をつくっていたんですが、社外秘の情報を減らせば公開できるとわかってきたので、はじめた感じで。
必要な時に「これ読んでおいて」で済ませることができるので便利なんですよね。
あの note はそういう意図があるんですね。
じゃあ次は、面白法人カヤックがどんな会社なのか教えてもらえますか。
やっている事業で面白法人を把握しようとするとわかりにくいので、どんな人たちで構成している会社なのかで説明します。
創業者もクリエイターですし、「クリエイター的な思考を持っている人たち」で構成されている会社ですね。
面白法人カヤックと言えば、企画や開発技術に強みがあってサイコロ給とかちょっと変わった文化があるってイメージなんですけど、最近はどんな感じなんですか?
どの時期にカヤックを知ったかによって印象がかわりますよね。
10年前だと「面白いWeb制作会社」、5年前だと「ゲームの会社」。
いまだと、地方創生領域の会社だと思ってる人もいそうです。
人数としての規模感でいくとカヤック単体で約270人、面白法人グループ全体では600名いないくらい。
グループ会社は16社あります。
面白法人カヤックのみなさんって、すごくパワフルでパフォーマンス出して元気にやっている印象を持っているんですが、どんなコミュニケーションしてるんでしょう?
せっかくAgendで記事にするんで、今までにあまり外で話してない話だとうれしいんですけど(笑)
いいですね!
同じ話だとつまんないから、外に出してない話にしましょう。
月給ランキングって報酬制度があるんですけど、それをちゃんと説明するってのをやってみましょうか。この全体像はちゃんと言語化したことがないからいいかも。
いや、月給ランキングについては他の取材でも話してるから、今日は背景も含めた全体像として「意外とよくできてる」って話をしましょうか。
なんとなくのイメージの図を書きますね。
左から、売上 → 給与・労務費 → 分配方法 ときて、右側で社員が転職や独立するのか「面白法人で働き続けるか?」にどう影響するかの流れを書いています。
ぱっと見てもなんだか分からないかもしれませんが、これから説明します。
この赤丸がついた「月給ランキング」が「報酬に対する社員の納得度」に関係して、「面白法人で働き続けるか?」に影響するって図ですかね……?
これが面白法人の仕組みなんでしょうけど、もうちょっと説明が進まないと図を見てもわかんない(笑)
そもそも、「月給ランキング」ってなんなんです?
「月給ランキング」っていうのは半期に1回、一緒に働いてるまわりの20人同士で、「あなたが面白法人の社長だったら給料を高くあげたい順に並べ替えてください」っていうランキングを作ってもらうものなんですね。
それを集計したものを元に、月給額を決めていきます。
つまり、月給をあげるためには一緒に働いているまわりの人に「何かアイツいいよね」って思ってもらうのが大事になる。
仕事の成果を出すこともそうだし、この人は一緒に働いてて面白い人だから上位にしたら盛り上がる、みたいな人はそれはそれでランキングが上がる。
月給ランキング(社員の相互評価)
「各自が社長になったつもりで社員を報酬順に並べなさい」というシンプルな問いをもとに、各社員の投票結果を集計して出します。
「社長になったつもり」というものは、すなわちそれぞれの主観です。主観の集まりは意外に正しく、主観の集まりが、その組織がいちばん大切にしている価値観であり、いちばん納得感・公平感が出るという考え方です。
面白法人カヤック公式サイトより引用
ええええ、なんかすごいな。
まわりにいる20人による相互評価の制度によって、一緒に働いている人たちに認めてもらうようなコミュニケーションや振る舞いが求められるようになるってことですよね。
ですです。
だから、「どうやったら給料上がるんですか?」って社員によく聞かれますが、「ランキング上位に名前を書いてもらえるかだから、相互投票する自分のまわりの20人に聞いて」となる。
基本的には仕事のできる人が評価されつつ、そうじゃなくてもランキング上位にしてもらえることもあって。「この人がオフィスにいると楽しい感じになる」と評価されることもあります。
20人の中にはいろんな人がいるので、さまざまな要素で価値があるってことを認められる。守られているわけです。
聞いてすぐは「えっ、その制度って大丈夫なのかな」って思ったけど、たしかに…。
多くの人から認められるような人が平均的に上位になりつつ、こぼれ球を拾ってくれるとか面倒見がいい、相談がしやすいみたいな人もランキング上位になることもある……というバランスになるのか。
でも、人当たりいいとかチームの中では話しやすいみたいなタイプがランキング上位に入るのは最初だけで、どんどん仕事がちゃんとできることを示していかないと上がらなくなっていきますね。
正確には「人当たりの良さ」を「仕事の成果」に変換できてるのか、ってことでしょうけど。
おおおお、繰り返しているうちにそう収斂していくのか……これは面白い……
20人もいると、直接のかかわりが少ない人にも「こいつがいるからチームが回っていて、こいつがいるから成果出てる」と認めてもらわないといけない。ひとりふたりに気に入られるだけじゃランキング上位になれない。
逆に数人に高く評価されることで救われる人もいるんだろうし、これが良質なチームコミュニケーションの基盤になってる感じがしてきました。
そうなんですよ。
ひとりだけで結果を出せることなんてほとんどないじゃないですか。だから、結果が出ててもまわりの人を犠牲にしてるように見えるとランキングは上がらない。
ある人が目立つ成果を出したときに、それが高く評価されるかはまわりのチームメンバーの感じ方によるわけです。
カヤックはクリエイターが多い会社だから、上手く立ち回るとかランキング上げるための根回し的なものとかだけではみんな認めないんですよ。
つくってるもの、仕事として凄いか、クリエイターとして凄いか、みたいなものがランキングに強く出る。
薄っぺらい仕事は評価されない(笑)
多様な価値観に対しても認められるようなコミュニケーションや仕事をしないといけないんですねえ。
うーん、クリエイターに偏っているから、多様ではないかもしれない。
上司1名よりは多様かもしれませんが。
高い評価を得ることを目的とした行動よりは、その人の個人的な動機とセットで成果を出したほうが認められやすい気がしますね。
これはどういう人をカヤックが採用しているか、という前提条件とセットで決まります。
なるほど。
「個人的な動機をもとに成果を出してるやつが認められやすい」ってのはクリエイターっぽい価値観かも。
単にまわりの評価をハックしようとしても、なかなかそうはいかないぞと。
はい。評価の振り返りでもよく言うんですけど、あなたが「この人が低すぎる」って思うならもっと高くつければいいじゃん、と。
全体での順位がおかしいと感じるなら、つけるランキングで調整できるんで。
あーーー、20人がそれぞれ影響力を行使できるんだ。
最初はもっとバランス悪い仕組みに感じたけど、思った以上に健全な仕組みなんだ……すごいな、これ。
さっきの図にある通り、面白法人で活躍し続けてもらうための「報酬に関する社員の納得度」をこの仕組みから得られる成果としていて。
月給ランキングという報酬制度は完璧ではないし、いろいろ問題もあるのはわかっているんですが、よくある「評価・等給・報酬制度」と比較して、それよりも「納得度」をトータルで担保できているかなんですよ。
新卒でも誰でも、3人の社長に物申すことができる。
月給ランキングと合わせて納得度を担保する仕組みとして「四半期ごとの全社員面談」というのがあって。
カヤックは社長3人いるんですが、そのうち社長2名と私を含めた管理系社員2名で、全社員と「最近どう?」って面談するんですね。
図のここの部分です。
3ヶ月に1回、社員全員に経営メンバーと直接話せる機会があるんだ。
社長とか偉い人に言いたいこと言うの難しそうだけど、社員のみなさんはちゃんと言えるんですか?
結構、上手くまわっていて。
社長3人のうちの1人が社員からなめられてる人なんです。マスコットキャラクターというか。
言葉にすると「なめられている」って誤解を生みそうなんですけど、表現としては一番実態に近くて。
CEOの柳澤さんやCTOの貝畑さんは、その人に比べるとわかりやすく「すごい人」って社員から思われているだろうけど、もうひとりの久場さんという社長は、面白法人の文化的に大事だと言われてはいるし、社員から尊敬はされているけど、社員からなめられてもいる。
社長だけど、何でも言いやすい(笑)
でも社長なんで、その言いやすい人にちゃんと問題提起すれば、役員会の議題になるし、そこ経由で会社を動かせる。強制的に組織をフラットにしているとも言えますね。
愛されキャラというか、なんというか……社長が3人いる強みが活かされてるなー
カヤックの社員はそういうことあんまりしなさそうだけど、例えば「俺の上司がこんなにひどいっす」って社長に泣きついて面倒な話になったりはしないんですか?
直属の上司を飛ばしてもっと上とコミュニケーションすることで、上司が「立場が違う部下からはそう見えてるだろうけど、考えあってやってることなのに社長に話がいっちゃって面倒だなあ」って感じることもありそうだけど。
これもちょっと図を書いてみると、こうかな。
この図でいう、社員にとって「もっていきたい方向」に行かせるために、社長に直接報告して働きかける、とでもいうのでしょうか。
社長に話がいったら面倒くさいみたいなコミュニケーションスタイルを取っている人は、そもそもカヤックでマネージャーとしてやっていくのはきついですね。
私とかもこの図だと、「事業部長とか」の立場なんですが、社員からの指摘にきちんと回答するというのは、その立場にある人が本来やるべき業務なので、そこはちゃんと説明すればいいだけで。
はー、ここでも「うまいことやってやろう」ってだけの実力のないヤツが立ち回れないようになってるんですね。
例えば、私の実質的なレポートラインは、社長です。
普段はそんなに細かく報告してはいませんけど、何か聞かれたときに説明可能になっているか、ということは絶えず意識してます。
メンバーから「上司の言ってることおかしくないですか」って社長に話がいっても、カヤックの事業部長とかマネージャークラスの人は、どうしてそうしているかを説明できて当然である、と。
煙に巻いたりウヤムヤにする人はカヤック基準のマネージャーではないんだな。
そうです。
仮に私が考慮していなかったことや後回しにしていることを社員から社長へ指摘がいったとしても、私は「確かにそこは考えられてなかった」「考えなきゃいけないけど、後回しにしてました。ちょっとどうするか考えてもっていきます」と答えたり、自分の考えを回答すればいい。
指摘にちゃんと対応すればいいだけだから、ごまかす必要はないわけです。
ごまかせない仕組みになっていることで、むしろマネージャーも健全に働けるからやりづらいってことはないんですね。
いや、たしかに社長に話がいって、質問が来たりするのにいちいち答えるのはめんどくさいのは事実ですよ。
突然たくさん細かい部分の質問が来たりするから、いちいち答えるのはめんどくさい(笑)
そこはめんどくさいんだ(笑)
カヤックのマネージャーも人間だもの、ね。
四半期ごとの全社員面談の後は、社員からのコメントを元に事業部長に該当する話題についてどうなっているのか確認が入ります。
もちろん、社員からの指摘がずれていることもあれば、受け止めるべきこともあって、そこはニュートラルにやってますね。
図に出てきた「報酬に関する社員の納得度」を成果として仕組みを回してる意味がやっとわかってきました。
クリエイターが集まった会社って聞くと専門性だけを発揮して職人的にやっているのかなって感じちゃうけど、そうじゃなくてクリエイターの能力が引き出されるための納得度を大切にして、「めんどくさい」ことをちゃんとやってるんだ。
具体的な細かい事象に対しても「面白法人的な原理原則からすると、どうするか」みたいな話を普段からしているので、そういった説明をしなくてはならないこと自体に違和感がないんですよね。
細かな事象を説明していくのは大変で「めんどくさい」ですが、それでいいし、そうあるべきものだと思っているというか。
会社の社員に対する本音がでる「数字」
まだこの図の一部しか説明できてない(笑)
次は左側の説明をします。
ここまでの話は、「報酬として払える金額」が決まった上で、それを分配するときにどう納得度を出すか、という話です。
それとは別に、納得度を醸成するには「報酬として払える額」を増やすことも重要です。
会社が稼いでいるお金のうち、どれぐらいを人件費として使ってるか、の割合ですね。カヤックはここ何年かで、かなりこの「分配率」があがってます。
かつ、社員数はカヤック単体としては、むしろ微減です。結果としてひとりあたりの平均年収もあがってるんですね。
つまり、報酬制度がどうであるかの前に「社員に報酬として支払える額を増やしているか」というのがあります。
報酬に関する納得度として重要な要素ですし、経営者の社員に対する考え方が出ますよね。
どう分配するかの報酬制度よりも前に、そもそも分配できる額を増やしてないと納得は得られない。それはそう。
この図には入れていないけれど、「取締役の平均報酬」と「社員の平均年収」を比較した倍率が低いか高いか、というのもありますね。
上場企業なら調べられる数字なので計算したことがあるんですが、そのときはカヤックは他社に比べてかなり倍率は低い方だったはず。ここにも経営者の本音が出ますよね。
クリエイターのパフォーマンスを出すための「自由さ」と「あいまいさ」をどう大切にするか。
組織文化を仕組みが支えてる感じですよね。
クリエイターがのびのびと力を発揮できるように配慮してる。
のびのびとできてるかは、ちょっとわからないですね。
以前よりは動きにくいという声もあったりしますし、もっと小さな会社ならのびのびとできるところもあるわけです。
カヤックが社員に対して配慮しているのは、そこではなくて。
「総合力」で評価される、「よくわからないけど、あの人はすごい」という形でも高く評価される、ということを意識した制度です。
ここで、図の最後の右側を説明しますね。
社員は、自分が会社からどのように評価されているかを報酬の上げ幅等から判断して、この会社で働き続けるかを判断します。
一般的な言葉だと「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」を足し算して、この会社で働き続ける価値があるか、を判断している。
カヤックで働いている社員の多数派は、他社に転職したり、独立すると金銭的報酬をもっとあげられるはずです。それなのに、この会社で働き続けてくれている。そこには、「非金銭報酬」といわれる、お金以外の価値があります。
なるほど、継続的に会社にいてくれるのはカヤックに非金銭報酬を感じていると。
カヤックっぽい非金銭報酬の例とかあったりします?
例えば、2018年からカヤックは鎌倉で保育園を運営しているんですが。
これも、30代の社員からすると、鎌倉に住み、鎌倉の保育園に子供を預け、自分も鎌倉で働く、というような生活ができる。
こういった「職住近接」はフルリモートとは違う非金銭報酬になっていて、これは大きな効果があると思っています。
あー、たしかに単に子どもを預けられて助かるってだけの話じゃないですね、それ。
仕事だけじゃなく生活の場も含めてめちゃめちゃカヤックっぽい体験が得られるのは大きいだろうなあ。
以前、社員に調査したときは「社外も含めたコラボレーションで新しいことができる」「ライフステージに応じて働き方が柔軟に変えられる」の2点が非金銭報酬として出てきました。
ただ、年齢によっても非金銭報酬は異なるし、10年前の20代といまの20代では求める非金銭報酬も異なってくる。
四半期ごとの面談で「この社員は、面白法人においての(金銭的報酬+非金銭的報酬)の合計が本人のOKラインを超えているか。提供している『非金銭報酬』はまちがえてないか」を確認しているわけです。
ここは定量的なアンケートじゃなくて面談でやっているので、正直感覚的なところがあって改善の余地がありますが、やりたいことはそれです。
うわー、ここまで解像度高く自社の非金銭報酬がどうあるべきか考えて組織開発してるんですか……
面白法人、マジで面白すぎるな……
四半期ごとの面談を通じて、人事制度に反映させて非金銭報酬を変更することもあります。例えば、「出会いがない」という社員がいて、本人が希望すれば誰かを紹介するかもしれない。
もちろん、非金銭報酬だけじゃなく、金銭的報酬もあげなければならない。
提供する金銭報酬、非金銭報酬チューニングをする際に、いまは「全員と面談をする」という、かなり強引な方法で行っています。
もっと金銭側、給料をあげてくれ、という社員もいますよね?
20人からの評価は高いけど、それだけじゃ足りてないとか。
います。他の会社にいけば、もっと給料あがるような活躍してる社員ですね。
でも、その社員がより多くの報酬(非金銭報酬含む)を求めても、会社としてはそこまで提供する必要性はないと判断すれば、そう対応します。
そこまでしないとここで働き続けられないのであれば、辞めてもいい、という判断です。決して辞めてほしいわけではないので、
働き続けてほしい。でも、辞めてしまっても仕方がない、というニュアンスかなあ。
わかります。
要望に対して限界があることも理解しておく必要がある、というか。
私も報酬改定の面談に同席するようになってから、より意識するようになりました。
こういう報酬に関する話は、面談をする側としてもストレスがかかります。伝える社員側もストレスでしょうが、お互いにやるべき必要があることですね。
そういえば、月給ランキングも社長自身が「報酬額を決めて、社員に伝える」だとストレスがかかる、ということをきっかけに考えたらしいです。
「自分じゃなくてみんなで報酬額を決めた」という形で報酬を伝えると、少し自分から矛先を変えられる(笑)
あー、なるほど。
分散することでお互いのストレスが溜まりにくいのも良いシステムですよね。
わかりやすいし。
矛先を変えた上で、「じゃあどうやったら報酬あがるんだろう」という話を面談で一緒に考えることもできる仕組みにしたそうです。
確かによくできている。
このシステムって、全員と面談しなければ成立しないんですかね?
社員数が倍になったら無理になると思います?
「面白法人カヤック」という一つの会社だけで社員が600人とかになるなら、通用しなくなると思います。
ただ、グループ全体として社員数は増えますが、親会社としての「面白法人カヤック」だけだと人数が増えていないので、いったんはこの「全体像」のまま報酬制度等を運用できていますね。
グループ会社は別の報酬制度で運用されてますし。
いや、カヤック本体だけでも300人もいるわけでしょう。
300人の面談を通じて非金銭報酬と金銭的報酬のチューニングをする、というのはかなりのパワープレイすね(笑)
そうなんです。だから、創業者としての社長が残っている間はこれでいいけど、引退後は無理だと思います。
そうなる頃には、もう私じゃなくて誰かが考えてくれるでしょう!(笑)
現時点の考えをいうと、クリエイターの自由な動きからいろんなものが生まれるんだから、できるだけ、自由さとかあいまいさを残したいわけです。
でも、普通なら勝手にやらせると統制取れなくなるから個人の自由を枠にはめるじゃないですか。そうじゃないと会社が動かないので。
普通はそうですね。
でも、面白法人カヤックとして自由さを大事にしている、と。
カヤックでもただ勝手にやっていいわけではなくて、最終的に面白法人にちゃんと還元するような自由な動き方をしてるかどうか。
自由すぎて逸脱が大きくても許されている人もいますが、何かしらの形で面白法人に還元される仕事をするって周囲がわかってるから大丈夫。
「この人は最終的に面白法人に還元するから大丈夫」の判断を、特定の何名かだけが実質的に行ってしまっているアキレス腱である可能性もありますが、いまはこれでやっています。
なるほど。
普通から逸脱して自由にやっていいけど、面白法人カヤックに還元していないとチームメンバーがつける月給ランキングも低くなっていくし、社内でも微妙な立場になっちゃうと。
健康的に自由でいられる環境だ。
自分のためにやってるんだけど所属する限りはリターン返しますよ、というのが成立してるうちはカヤックで活躍できるんじゃないかな。
「このままだと還元が成立しなくなる」という可能性がある場合に、早めに面談で伝えるのも四半期面談をやっている人たちの役割です。そういう役割もありますね。
独自用語と世の中用語の変換ができるから、社員の理解が深まっていく。
ところで、柴田さんの説明ってすごくいいですよねえ。
面白法人とは何かを面白く、わかりやすく話してもらえる。
カヤックが成長した背景に柴田さんがキーマンだった面はかなりありそうだなって感じました。
最近気づいたことがあって、カヤックの独自用語と世の中用語の変換が必要なんですよ。
例えば「ブレストすればいいんだよ、何でもブレストすれば解決するんだよ」ってよく社内で言われるんですが、そんなわけないじゃないですか(笑)
カヤックの社内で使ってる「ブレスト」って一般的な世の中で言われてるものと意味が違うんですよ。
ブレストって、世の中で使われてる意味だと「課題解決のために質より量でたくさんアイデアを出すこと」みたいな感じですよね。
カヤックでは、ブレストの中にある「判断遅延」という、自分の価値判断は保留して相手のアイデアを受け入れるという頭の使い方とか、みんなで話せる状態にしてチームのコミュニケーションの効能を広げることだとか、厳密にはブレストの効能ではないこと全部まぜて「ブレストで解決!」といっている(笑)
間違えてないけど、それじゃわからんというか。
カヤック外の人には伝わらない(笑)
カヤックの社内で使ってる「ブレスト」と世の中で使われてるブレストは、やり方が違うとかじゃなくて言葉に含まれる文脈とかニュアンスが違う。これがカヤックの独自用語と世の中用語の変換か。
他にも、面白法人を説明するときに「まず、自分たちが面白がろう。」って話をしているんですけど、これを「面白がる=非金銭報酬を面白法人からどれだけ得られているか」だって説明をしたことがあるんですね。
そしたら、入社5年目ぐらいの人が「この会社で面白がれていない方だと感じていたのだけど、『面白がる=非金銭報酬』だって説明を聞いたら、自分はお金以外の要素でもカヤックで働くことが楽しいと思ってるから、実はちゃんと面白がれていたんだって気づいてすごい安心しました」って言ってて。
こっちからしたら、わかんないまま5年も悩んでたの?みたいな感じなんですけど(笑)
「ちゃんと説明する」ってことがカヤックさんが面白い会社であることを支えているんでしょうね。
特に、僕は立場的に「会社でやっているこの活動は意味があるのか?」という社員からの疑問に、説明したり答えないといけないんですよ。
さっきの例で言うと「面白がって働く」は独自用語で、「金銭的報酬と非金銭報酬を適切に組み合わせて提供する職場があることが前提で、自ら非金銭報酬を見いだせる人は面白がって働けている」と世の中用語で説明するんですよ。
創業者が話した独自用語のままの世界観とか雰囲気で響くタイプもいれば、世の中用語で伝えないとわからない人もいる。
この話、めちゃくちゃ面白いな。
独自用語のまま響くタイプもいれば、世の中用語で伝えればわかるタイプもいるから、両面とも必要なんだ。
カヤックでは「面白がろう」って言葉がよく社内でも飛び交ってるんですが、これも会社が金銭報酬も、そうじゃない非金銭報酬も提供して整えて、最後は自分が面白いと感じる要素を見つけろよって意味なんです。
そういうバックアップなしに非金銭報酬を感じて頑張れよ、って話だったら意味が全然ちがうじゃないですか。やりがい搾取みたいな話になってしまう。この違いがわからない理解度の人だと「面白がって働く」の説明がズレるわけです。
感覚的に独自用語の意味をわかった上で適切な世の中用語を探してあてはめないと説明ができない。
いやぁ、すごいな。あらゆる会社に柴田さんみたいに言葉を扱える人がいればいいのに(笑)
今日はクリエイターが健全に働くための環境を徹底していったら面白法人になったって形を教えてもらったと思ってるんですけど、すごく丁寧にコミュニケーションをされているなと思いました。
面白法人だけどめちゃくちゃ真面目だな、と。
そうですね。そういうところは真面目にやっている会社だと思います。
カヤックはクリエイター集団らしく経営でも「クラフティング」っていう言葉をよく使うんですけど、陶芸で最初は完成形が見えないけれど、ろくろを回しながら形が見えてくるみたいなイメージで。
実際は電動ろくろは大量生産するときに使うから、そんな自由につくってないらしいんですけど(笑)
まとめ: 「面白法人」は、真面目につくられている。
■ 相互に給与評価に関与することでコミュニケーションを作っている。
■ 偉い人から評価権限をなくしていることで、ボトムアップの仕組みが機能している。
■ 社内政治だけで立ち回ろうとしても実力がない人は上手くいかないようになっている。
■ 金銭報酬と非金銭報酬のチューニングを絶え間なくつづけている(300人と面談するパワープレイで)。
■ 抽象的で他にない社内用語を世の中用語を変換して説明していることが文化や組織づくりに強く機能している 。
面白法人の面白さを知ることができたインタビューでした。本当に面白い。
「ちょっと変わった面白いことをやっている」ではなく「クリエイターのパフォーマンスが出る組織を真面目にやっている」という内容がしっかりわかるインタビューで、クリエイターに健全なサラリーマンやってもらう仕組みになっている……という驚きがありました。
柴田史郎さん X/Twitter
柴田史郎さん note
中途採用 | 面白法人カヤック
学歴や卒業時期は不問!面白法人カヤックの新卒採用
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2024年1月