INI株式会社 : 自分たちらしい「誠実さ」と「丁寧な仕事」がビジネスモデルを醸成した。
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25年続くWeb制作会社INIに根づいた、「誠実さ」と「丁寧な仕事」の正体を掘り下げる。
本稿は、『Agend』編集長フジイユウジが、INI株式会社の代表や社員をインタビューして作成したDeep Diveレポートです。
INI株式会社は、小さな支援会社が生まれては消えていくWeb制作・デジタルマーケティング支援業界の中では、2000年の創業から25年以上もWebマーケティング支援・制作支援を本業とする老舗です。
このレポートでは、ビジネス的な接客のために誠実であろうとしたわけではなく、自分たちらしく振る舞ったことで醸成されたINIのビジネスモデルを紐解き、解説していきます。
INI株式会社 の概要
INI株式会社は、社員数28名(取材時点)。
デジタルマーケティング戦略立案、Webインテグレーション、グロース支援、UX戦略などを提供する会社です。
INIのコーポレートサイトに掲載された提供サービスの一部。UXリサーチやUIデザイン、デジタルマーケティング戦略立案からシステム開発など、さまざまな分野の「困ったときに何か相談できる相手」として支援メニューをそろえている。
単なるWeb制作に留まらず、「やさしく、つよい会社を増やそう」を理念に掲げ、短期のCV改善をしながら、チームのマインドや動き方を長期型の安定成長モードへ切り替えていく———そうした“長期視点の支援”を得意とし、コーポレートサイトの実績紹介ページには、東急グループやオルビス、リコー、NTTコミュニケーションズといった有名・大手企業が並んでいます。
INIのコーポレートサイト実績ページより一部抜粋。大手企業や有名ブランドの支援実績が並んでいる。
INI代表の和田さんは、「効率よく稼ぐ・いますぐの結果を求める」という経済合理性が優先された活動から脱却しながら、社会の中で価値を発揮できる(継続できる)企業のあり方を探求していると言います。
以下は、INI株式会社の会社紹介資料です。
”経済合理性が優先される短期的な関係”では顧客に選ばれにくくなっており、⻑期的関係が重要としている。このような世の中の変化を背景に、企業理念を「やさしく、つよい会社を増やそう。」としているとのこと。
説明された当時は、「代表がそういう思想なのだな」という感想はあれど、その思想にもとづいて設計された強いビジネスがあるようには見えておらず、「25年前からある老舗のWeb制作会社」という印象しかありませんでした。
しかし、調査を進めてみると、生き残りが難しい支援領域で25年も大手企業からの依頼が続く理由が見えてきたのです。
生き残りが難しい支援領域で25年。大手企業からの依頼が続くのはなぜか?
前述の通りINIは、大手・有名企業との取引が長く続いています。
INI社員によるとクライアントからは、「良い仕事をする老舗」あるいは「小規模だからこそ、ちょうどいい感じの支援をしてくれる長く付き合えるパートナー」という評価を得ていることが分かりました。
INIのコーポレートサイトより抜粋。支援先企業が顧客と長く関係を育むためのマーケティング支援、プロジェクトのはざまを埋めるような支援などを得意とし、不得意なのは派手なマーケティングやバズ狙いのものなどが率直に書かれている。
一方で、調査をしていて印象的だったのは、「自分たちは、突出した強さがない」と言っている社員が多かったことです。インタビューしたほぼ全ての社員が「自分たちは、クライアントに対して丁寧に仕事をしているだけで、ごくふつうのことしか提供していない」と感じていることがわかりました。
また、INI代表の和田さんからも「自分たちなりの価値観で丁寧で誠実な仕事をしているが、なにかに特化した職人集団というわけではなく、提供価値をひとことでは言いにくい。」という言葉を聞きました。
しかし、そこからさらに質問を繰り返してみると、
- 社員が数千人いるような大手の支援会社と契約していたクライアントが、わざわざINIに切り替えて契約をしてくれた。
- 有名ブランドと契約更新を重ね、長期で支援し続けている。
といったエピソードをいくつも出てくるのです。
廃業や合併が多く、生き残りが難しい支援会社が、特色もなく25年も継続し、大手企業と取引ができるものでしょうか?
INIは積極的な売り込みをしていないので、営業力で生き残ってきたわけでもありません。
見積書を出したら「丁寧な仕事」と信頼される。
本当に「特徴があまりなく、地味である」であるならば、クライアント企業に選ばれる理由はないはずですから、クライアント企業からどんなふうに評価されたのか調べてみることにしました
そこで面白かったのが、「見積書を出しただけで信頼された」というエピソードです。
どんな見積書を出せば、そのような評価を得られるのでしょうか?
- 見積もり時にプロジェクトの進め方や各自の役割、スケジュール案などの資料をまとめておき、説明をしている。
- 見積もりを説明するミーティング時にアジェンダを整えて進行している。
INIでは、見積もりの段階で前提・除外すること・進め方・スケジュール・レビュー方法/フィードバックの型・結果の見え方……といったことを書くのが標準業務フローなのだそうです。
これだけ聞くと、「そんなことか」と感じるかもしれませんが、他社から「言われたことはやります、お値段はいくらです」という見積もりを出されることが多いクライアントからすると不透明なところがなく、ともかく丁寧な説明と誠実な姿勢を感じることができるのだと思います。
特にプロジェクトの進め方や責任範囲の整理が大事であることを知っている、経験あるクライアントの担当者であれば、見積もり時点でINIの丁寧さに気づけるのでしょう。
こういった評価をもらっているものの、INIの社員たちは「ふつうのことをしていたら褒められて、ちょっと不思議です」といった顔をしているのが印象的でした。
クライアントからの印象が良いから誠実に見せるのではない、自分たちの「ふつう」。
INIの誠実さや丁寧さについて聞いている中で、興味深かった別のエピソードのひとつに「とても小さなインシデントでも、INIはクライアントに共有する」といった話もありました。
一般的な企業間の取引なら伝えなくても良いような、表面化すらしなかった小さなインシデントについても報告にまとめているため、クライアントから「ここまで報告に書かなくても良いと思うことまでちゃんと伝えてくれる真面目さがある」と評価されたことがあるという例です。
このエピソードからは「特にトラブルが起きたわけでもなく、伝えなくてもクライアントから悪く思われないだろうけど、だからといって伝えない理由にはならない」という姿勢がINIの標準であることが見受けられます。
この情報からわかる重要なポイントは、クライアントへの印象を良くしようとして「誠実」に振る舞っているのではなく、自分たちの標準的な倫理観からこの行動を選択しているに過ぎないという点です。
相談されたことを自分たちの売り物に結びつけない。
他にも興味深いエピソードはたくさんあります。
新規の相談であれ、取引中のクライアントからの相談であれ、「それ、ウチでやりましょうか?」と返したら受注になる状況でも、自分たちが得意な領域でなければ「それを専門でやっている良い会社を探しましょう」という返答をしているのだそうです。
代表の和田さんは「課題解決が必要なときに自分たちの売り物に紐づけたら解決しなくなる」と真顔で言っていました。
他の良い解決方法があるのに自分たちができることだけで、売上を上げる機会にしてしまったら誠実ではない。INIが顧客の課題解決に向き合うときは常にそのような姿勢を持って行われているそうです。
これもまた、印象が良くなることや利益を得るために誠実であろうとしているのではなく、自分たちの標準的な倫理観として自然に選択された行動であることがわかりました。
これらの話をヒントに「誠実」と言われたエピソードについてインタビューを進めていくと、25年も継続して大手企業と取引してきたINIの特色、評価されているポイントは「誠実」や「丁寧な仕事」であることが見えてきました。
「INIはそんなに特色はない」と言っていたことも理解できます。自分たちにとって「ふつう」が世の中の標準的な仕事よりもはるかに丁寧であることに自覚がないのですから。
多くの支援会社が掲げる「誠実」や「伴走」。
接客手段”としての偽の誠実さについての考察。
「誠実」「伴走」を掲げている企業はとても多いです。B2Bで受託・支援をやっている会社のコーポレートに「誠実」「伴走」が書かれていない方が珍しいかもしれません。
しかし、クライアントからの印象を良くすることや受注を獲得する“接客手段”として偽の誠実さを選択した会社が本当に誠実でいられるわけはありません。
ここまでINIの実例を出してきたように、“接客手段”としての誠実さでは「伝えないほうが印象が良い不都合な情報を伝える」ことや「受注になるかもしれない相談ごとをビジネス機会にしない」といった行動がとれなくなり、矛盾を抱えることになるからです。
また、印象を良くすることや受注を獲得する“接客手段”として偽の誠実さを使っていると、クライアントに対しての「安請け合い」が横行します。親切であろう、相手の要望に応えようという「安請け合い」がもとになって廃業や事業縮小に追い込まれた受託制作の企業や支援会社は沢山あります。
代表の和田さんは「安請け合いは誠実じゃないですよ。無理しないといけないことをできると言ってしまうのは誠実ではないので」と言っていました。
これらのことから、INI社員の行動は“接客手段”ではなく、”自分たちらしく、ふつうにしているだけ”という選択行動をしています。狙って誠実であろうとしているのではなく、結果的に相手が誠実さを感じている非戦略的な誠実さを発揮しているというわけです。
誠実を生み出す構造。
INI社員の行動は“接客手段”ではなく、”自分たちらしく、ふつうにしているだけ”という、誠実であろうとしているのではなく、結果的に相手が誠実さを感じているだけというものではないかという仮説が見えてきました。
そして、その非戦略的な(つまり、ごく自然な姿勢としての)誠実さの価値に気づいたクライアントから選ばれ、支持されているように見えます。
この自然な誠実さを支えているのは、INIの「丁寧な仕事」です。
INIの丁寧な仕事には、定型と非定型のふたつがあります。
| 分類 |
アウトプット |
事例 |
| 定型 |
ルール、ドキュメント |
・見積もり時点で前提/除外/進め方/成果の見え方を明示。
・期待を超えるポイントを決定してプロジェクトをキックオフする。 |
| 非定型 |
発言、反応、姿勢 |
・軽微なインシデントの共有
・相談は相手の問題解決と捉えて、自分たちの売上を上げる機会としない。 |
他社がなかなか到達できない「誠実さにつながる丁寧な仕事」ができているのは、この両輪がそろった状態が「ふつう」であるという標準レベルの高さにあるように思います。
他社がなかなか到達できない「誠実さにつながる丁寧な仕事」ができる、それが「ふつう」であるという標準レベルの高さは、なぜ実現できるのでしょうか…?
働いている人たちと話していると「自分たちは丁寧に仕事をしているだけで、特色がない」という自己認識の人が多いのが面白いポイントでした。「INIの理念や和田さんの思想のことも、正直あまり理解できているわけではない」という発言を聞くこともあり、「代表に言われたから丁寧な仕事をしている」というわけでもなさそうです。
ヒアリングを通じて印象深かったのは、INIで働く人たちが「丁寧に仕事をして対価をもらえることが当たり前」という環境に居心地の良さを感じている、という話が多く集まったところです。
企業で働いている人たちは、丁寧な仕事をさせてもらえない現実に直面することは多いはずです。いますぐの数字づくり、納得感のない優先順位の変更などなど……。
そういった「耐える仕事」ではなく、真面目に丁寧な仕事をやれることが落ち着く、居心地が良い、クライアントのためになる実感がある、そういった仕事にプライドをもって仕事ができる——
その「丁寧さを求められることが居心地が良い真面目な人たち」というソフトスキルを持った集団がまずあり、そこに見積もり時に提出するドキュメントのルールや、プロジェクトの進め方の型といった定型の仕事道具が与えられたことで「INIレベルの丁寧な仕事」が生まれているのでしょう。
丁寧・誠実な仕事よりも短期的な成果を求められがちな社会。それに対してINIで働くことは「誠実でいられる」という環境であり、丁寧な仕事をすることに居心地の良さを感じる真面目な人たちがINIの従業員となります。そして長年INIが丁寧に積み上げてきた丁寧な仕事をするためのルールやドキュメント群というツール。
このふたつがそろうことで「無理に誠実でいようとする」のではなく、自然体で「誠実でいられる」状態が作られています。
INIの社内の行動指針となるクレドにも「誠実であること」が書かれていますが、社員インタビューをしているときに誰ひとりとして「クレドに書かれているから〜」という発言する人はいませんでした。
そういった、社員の発言や行動を観察してみると、INIの「誠実さ」はクレドに書かれているから誠実に行動するのではなく、経営者から求められているから誠実でいようとする接客的な誠実さでもなく、「そうするのが自分たちにとって当たり前であり、居心地の良い仕事のやり方であるから」という自然な感覚を持って発揮されているのだと感じます。
自分たちらしさが、つよさ。
冒頭に書いた通り、調査前は「25年前からある、老舗のWeb制作会社」といった印象しか持っていませんでしたが、あらためて「短期的な経済合理性の追求から脱却したい」という和田さんのスライドを見てみると、印象がまったく違います。
本記事の冒頭にも掲載したINIの会社案内。短期的な経済合理性の追求ではなく、長期的な関係性を育むことができる社会になってきていると書かれています。
売上や利益を出さなくても良いということではなく、短期的な売上や利益の追求によって自分たちらしくいられなくなる不幸を避けたいのだという考えをもっていることも分かりました。
INIのすべての社員が、この和田さんの思想を深く理解しているというよりも、「丁寧さを求められることが居心地が良い真面目な人たち」が自分たちらしくいられる会社であり、自分たちらしく、ふつうにしていることがINIの事業のエンジンになっている、ということは間違いありません。
結論: “誠実な姿勢で、丁寧に仕事をする”というビジネスモデル
INIは、「誠実さ」を接客のような“手段”として実践しているのではなく、日々のふるまいとして自然に体現してきました。
見積もり段階での前提や除外条件、進め方、レビュー方法までを明示する。小さなインシデントであっても隠さず共有する。相談を売上を上げる機会と捉えず、適切なチームビルディングをプロデュースする。
いずれも、相手の印象を良くするための演出ではなく、自分たちの標準的な倫理観から選ばれている行動です。
誠実さを発揮できる人たち+丁寧な仕事をするためのツール群。これがそろっていることで「自分たちらしくしている」だけで顧客価値となり、誠実さが換金される。
結果的に同業他社との強い差別化になっている。
ビジネスモデルというのは、「再現性のあるアクションが繰り返し換金されるもの」です。INIの倫理観や丁寧な仕事が換金されている事象は、再現性があってモデル化した表現が可能な「ビジネスモデル」と言えます。
- 定型的な「丁寧な仕事」をするツールを用意することで、安請け合いをせずに無理なく「丁寧な仕事」を続けられる。
- 接客的ではない「丁寧な仕事」ができることは、INI社員にとって居心地がよく、無理なく、自分たちらしく「誠実」でいられる仕事環境になっている。
- 安請け合いをするような「接客的な誠実さ」は、クライアントの希望を叶え続ける苦しい仕事になるので継続性がない。
つまり、”誠実な姿勢で、丁寧に仕事をする” というクライアントにとっての強い魅力的品質を無理なく生み出し、それを換金し続けている。
それがINIの独特なビジネスモデルになっています。
25年間に醸成された「無理をしなくても、自分たちらしく仕事をしていることが換金される」という少し変わった(しかし、外から見ると特に変わったものにも見えない)ビジネスモデルを持っていることが、結果的に同業他社との差別化になり、顧客価値を生み出しているのです。
狙って誠実であろうとする“維持するコストの高い理想”ではなく、非戦略的な“自然に続けられる日常”であることが、このビジネスモデルを作り出している。
INIが自分たちらしく働き続けるための最小にして強固な、自然に醸成された仕組み。
ここに、25年を支えてきた静かで強い競争力が見えます。
INI株式会社