エキマトペからはじまった、「どうしたら相手が分かりやすいか」を軸にしたチーム作り。
駅のアナウンスや電車の音といった環境音を、視覚的に表現する『エキマトペ』(富士通、JR東日本、DNPによるプロジェクト)。このプロジェクトはSNS上でも大きな話題になりました。
今回は、このプロジェクトへの関わったことをきっかけに「聴覚障害者も含む多様性のあるチーム作りに目覚めた」という株式会社方角の方山れいこさんにお話を伺いました。
※「障害者」表記について: 株式会社方角では、障害は人にあるのではなく社会側にあると考え、一貫して「障害者」と表記しているそうです。本記事も、その方針に合わせ「障害者」と表記いたします。
【株式会社方角 代表取締役】方山 れいこ
1991年生まれ。多摩美術大学美術学部環境デザイン学科卒業。
東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了後、WOW incにてアシスタントプロデューサー、デザイナーとして従事。その後、株式会社方角を設立。
現在は「障害のある社会をデザインで変える」をミッションに掲げ、インクルーシブなデザイン事業を手がける。
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ
Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。
SNSで話題になった、音が見えるサービス『エキマトペ』
今日は、方山さんの株式会社方角(以下、方角)がどんなチームを作っているか伺うつもりなんですが、まずは方山さんをご存知ない読者向けに自己紹介いただけますか?
株式会社方角の方山です。よろしくお願いします。
私はもともと美大を卒業してデザイン会社に就職して、そこから独立して今の方角を作りました。
普通のデザインの仕事もやっているんですが、『エキマトペ』のデザインに関わった際に聴覚障害者の方と一緒にお仕事をする機会がありまして、いまは当事者の利用割合が高いアプリのデザインや企画などのお仕事が多いですね。
『エキマトペ』、Twitterやネットで反響すごかったですねえ。
予想以上の反響で、本当にありがたかったです!
特に聴覚障害者の方々からのポジティブな反応が多く、励みになりました。
実証実験的なものって小回りが効く感じでやる必要があるんで、ウチみたいな小さいデザイン会社が向いていたんだと思います。
『エキマトペ』は、ホームのアナウンスや電車の音を視覚化した装置。
この日テレニュースのYouTube動画を再生してみてください。「音が見える」と思います。
また、大きく話題になったのが、『エキマトペ』を見たあるTwitterユーザーの投稿。
NHKのこちらの記事もご覧いただければ、凄さが伝わるかと思います。
※『エキマトペ』は、富士通、JR東日本、DNPによるプロジェクトです。
『エキマトペ』への聴覚障害者の方々からのポジティブな反応を見て、「これからも期待しているよ」というメッセージをいただいたような気がしたんですよね。
方角さんも、聞こえない方・聞こえにくい方など様々な人が働いていますよね。
デザインの能力がある人なら、聞こえるかどうか関係なく活躍できる。
聴覚障害者向けのデザインの仕事がくるから、当事者であることが強みになるところもあるでしょうし。
そうなんです。
そういう活躍できる職場を探している聴覚障害者と企業を結ぶ求人サービスも最近リリースしたんですよ。
▼ 聴覚障害者に特化した求人サービス「グラツナ」は、株式会社方角がリリースした自社サービス
手話ができないメンバーともご飯に行くし、みんな仲良くしている。
方角さんは、いま何人くらいメンバーがいるんでしたっけ?
生まれつき聞こえない人や、中途失聴の方など色々な人が5名。
聞こえる人が私も入れて3名ですかね。
採用サービス(グラツナ)を作る前からですよね。
最初はどうやって採用されていたんですか?
『エキマトペ』のことをTwitter上で反応している人を見かけて「うちで働いてみる?」とDMしたことが最初ですね。
フットワーク軽い(笑)
コミュニケーションで困ったことってあります?
仕事をする上での違和感はまったくありませんね。
コロナ禍でリモートワークが当たり前になっているので、基本的にはテキストコミュニケーションのみですし。
対面で会うときは筆談や簡単な手話でやりとりすることもありますが。
筆談といえば、以前ぼくが方角さんのオフィス移転パーティにお邪魔したとき、デザイナーさんやみなさんとたくさん筆談でお話したんですよね。
仕事の話から雑談まで色々なお話をしました。みんなお話好きですよね。
ぼくだけテキストコミュニケーション主体のインターネット国から来た人で、みんながぼくに合わせてくれてたみたいなところありましたけど。
そうなんですよ!
イメージ的に静かなのかなと思われることが多いですが、実はとってもおしゃべりなんですよね。
延々としゃべれるんじゃないかと思うぐらいです(笑)
Slackなどのチャットツールを使ったテキストコミュニケーションが中心なら雑談も仕事の話もできますもんね。
基本はリモートワークとのことですが、オフィスに出勤されてる場合もあるんですよね?
はい。多くはないですが、たまにオフィスに集まることもありますね。
メンバーの中には手話がメインの人もいれば、手話ができない人もいるんですけど、オフィスで会ったときも仲良くしていて一緒にごはんを食べに行ったりしてます。
手話とか共通するコミュニケーションの道具なくても仲良くご飯くらい行ける。これ、いい話ですねえ(笑)
普段から相手の伝えたいことをお互い理解しようとする姿勢があるからでしょうね。
とはいえ、簡単な手話くらいできた方が良いので、社内手話教室をやる予定なんですけどね(笑)
クライアントも多様性の許容度が高くなって、コミュニケーションが良くなっていく。
チーム内コミュニケーションはテキスト中心だから上手くいっているところもあるんでしょうけど、クライアントワークが主な事業であるデザイン会社として、顧客とのコミュニケーションで困ることってありません?
音声をテキストにするツールを使いながら聴覚障害者のメンバーもクライアントとのミーティングに同席してもらうこともあります。
クライアントには、少しゆっくりしゃべっていただいたり。
※実際に使っている音声をテキストに自動変換するツールの画面を見せてもらいました
多様なメンバーがいることでパフォーマンス上げる取り組みをクライアントも一緒にやれているってことですよね。
そういえば、ミーティング中に音声認識ツールが誤った文章に変換しちゃうことがあるんですけど、それをクライアントの方がスッとチャットで補足してくれることがあるんですよ。
「どうしたら相手に伝わるか」という観点を持ってコミュニケーションする姿勢をクライアントも実践してくれて、一緒にチームとして動いている一体感をものすごく感じました。うれしかったですね。
多様さを武器にパフォーマンスの出るチーム作りを。
実際に聴覚障害者のメンバーと一緒に仕事してみると、先天的に聞こえない人もいれば、事故や病気などで聞こえなくなったので発話はできるという人もいますし、他にも色々な人がいるとわかります。
だからコミュニケーションスタイルも少しずつ違って、手話を使う人もいれば使わない人もいるんですよね。
お話を伺っているうちに、例えば多国籍なチームが英語でコミュニケーションするのと大差ないなーと思えてきました。
多様なメンバーでパフォーマンスが出るコミュニケーションツールを選んでるだけ、、、というような。
ですです!そうなんですよ。
コミュニケーションツールをテキスト主体にしているだけですよね。
むしろ、お互いに「ちゃんと伝わっているかな?」と気にするようになっている気がします。
むしろ口頭のコミュニケーションが取れることで、すれ違ってしまうことが多い気すらしますね……。
そう言われてみると、Slackなどのチャットツール上でのコミュニケーションも丁寧かもしれませんね。
文字だけではなく図解を入れたりして、相手が理解しやすい伝え方をする文化があるのかも。
多様なメンバーがそろっていることで「どうしたら相手が分かりやすいか」を考える強いチームができているってことですよね。
聴覚障害者に配慮しているというよりも、多様なメンバーがいることでチームのパフォーマンスを上げるってことを自然にやっているのがすごいと思いました。
※デザイナーさんとの仕事風景。手話とチャットなどを組み合わせてコミュニケーションをとっているが、実務として困ることはないという
そうですね。
もちろん、障害者の支援という立場も世の中に必要なのですが、方角では「聴覚障害者も働ける環境」ではなく、「色々なメンバーの特性や経験を強みに変える」ことを目指していければと思っています。
強いチームを作るためにやっていて、それが事業や会社の強みになっているのだからすごいですよね。
他の経営者の方からご相談をいただくこともあるのですが、うちの会社が「伝わらないかもしれないという前提に立って、どうしたら相手が分かりやすいかを実践している」だけですとお伝えすると、わりとみんなスッキリした顔つきに変わるんですよ。
ある会社の経営者の方から「ギャルを採用するのと変わらないね。」と言われたことがあるんですけど(笑)
確かにちょっと違う文化の人と一緒に働くって考えた方が良い体制を作れるのかもしれないなと思いました。
まとめ: 色々なメンバーがいるから”どうしたら相手が分かりやすいか”を軸にできる。
※オフィスでの対面のとき、ちょっとした一言などはブギーボードへの手書きを使っている
強いチームを作るためにメンバーを多国籍にする企業があるように、方角が色々な経験やバックグラウンドを持った人が活躍できる強いチームを目指す話をお聞きできて、とても刺激を受けました。
多様なメンバーがいるからこそ、伝わらないかもしれないという前提に立つことができる。
そして、どうしたら相手が分かりやすいかを考え続けて実践することで強いチームを作ることができる。
それを実践している方角のお話は、チーム内に聴覚障害者がいる・いないは関係なく、強いチームを作りたいと考えている人たちに参考になる内容だったのではないかと思います。
株式会社方角 (Hogaku inc.)
方角方山れいこ @denkiry / Twitter
グラツナ
(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2023年3月