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採用と組織のハードシングス。上場という成功の裏で起きていたこと―――デジタリフト鹿熊さんインタビュー

過去を悔いる鹿熊さん


コロナ禍中に東証グロース市場への上場を果たした株式会社デジタリフト。

その立役者の一人、鹿熊さんは「組織づくりは失敗ばかり……」と振り返ります。今回は、そんな鹿熊さんの「しくじり」についてお話を伺いました。

なお、本記事では過去の酷い状況が公開されていますが、これから同じ失敗をする会社が減ればうれしいという鹿熊さんの好意でお話いただいたもので、現在のデジタリフトさんとは違う組織だという前提でお読みください。

鹿熊さん


【デジタリフト取締役COO】鹿熊亮甫

1993年生まれ。学生時代、フィンテック企業ZUUや、アドテクノロジー企業の株式会社フリークアウトにて新規事業立上げなどに携わり、のちに株式会社デジタリフトの事業にも関わる。
2016年4月にデジタリフト(旧電子広告社)へ新卒入社し、25歳で役員に。28歳で上場を経験。現在は取締役COOとして、事業統括を担当。

フジイユウジ


【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。2011年バンダースナッチを創業。
様々な事業の経営やグロースに携わる中で意思決定のための会議や組織論、チームコミュニケーションに強い興味を持ち、Agendの運営を開始。

新卒入社2年で取締役。そこから3年で上場。

フジイユウジ

鹿熊さん、今日はよろしくお願いします。
まずは株式会社デジタリフトについて、そして鹿熊さんについて簡単にご紹介いただけますか?

株式会社デジタリフトは、お客様のデジタルマーケティング施策を共に考えるチーフ・デジタル・マーケティング・オフィサー 「CdMO」 として、広告運用、SEO、SNS運用、クリエイティブ制作などを行ってる会社です。
私は元々はデジタリフトの出資元であったフリークアウトで鞄持ちみたいな感じのインターンをしていて、そこから2016年にデジタリフト新卒1人目社員として入社しました。
営業や人事をやって、2018年から取締役として上場準備、2021年に東証グロースに上場していまに至るといった感じです。

鹿熊さん

これまでの会社の成長を説明する鹿熊さん

フジイユウジ

新卒入社2年で取締役になって、そこから3年で上場。
それだけ聞くと、超スピードで大成功してるように感じますが、今日はテレビ朝日さんの『しくじり先生 俺みたいになるな!!』みたいなノリで、成功の裏側にある失敗談やキツかった話をお聞きしたいと思ってます(笑)

人を増やせば解決するという勘違い

失敗談というと、やはり採用と組織づくりですね。
さすがに現在は良くなってるから話せるんですけど(笑)
自分が入社した頃はともかく人が足りなくて、人を採用さえすればどうにかなるみたいに思っていたんですよ。
そこで、広告運用の未経験でも素人でもいいのでとにかく人を雇うということをやってしまったんですよね。
教育体制もないのに

鹿熊さん

フジイユウジ

教育体制もないのに未経験でも素人でも採用、言葉を聞くだけでヤバい感じしますね(笑)

いまは上場もして経験者中心の採用ですし、経験が浅くても活躍できるように職場や組織としての環境もつくっています。
そのころは知名度はないし会社も小さいしで、あまりに応募がこないから「未経験から数年でCMOになれる」みたいな求人広告を出してしまったり……

鹿熊さん

フジイユウジ

出てくる話がぜんぶヤバい。

目をつぶる鹿熊さん

色んなところに求人広告を出稿するじゃないですか。費用対効果として誤った考え方をしてしまって、採用数とか採用単価とか見ちゃったんですよね。
とにかく安く採用できる方がいい。そう思い込んでいました。
人を増やさないと事業を伸ばせないという焦りもあって、「求人広告にいくらかけたから、○○人は採用しなきゃ」と思い込んで、どんどん採用しちゃって。
今ならダメだとわかりますが、最初はそういう事もわからないものですよね。

鹿熊さん

フジイユウジ

売上が伸びているからといって戦線拡大しすぎて崩壊するテンプレみたいな動きだ。

数をとるために「未経験でも活躍できます」みたいな求人を出して、それで集まった人たちから頭数を増やすことをゴールにして採用してたんで、それはもう社内は酷い状態でしたね。

鹿熊さん

フジイユウジ

この話、本当に記事にしていいんですか。
あとから「やっぱり消して」とか言われないですよね?(笑)

その酷い時期に会社を支えてくれた社員には経営者として申し訳ないことをしたなと反省していますし、いまは「まったく別の会社か?」と思うくらい変えましたんで……。
やや大げさですけど、上場前の話ですがザックリ100人ぐらい採用して、70人辞めるみたいな感じだったんですよ。
本当に酷かった。
当時は社員からも「ここで数年だけ経験を積んで、経験者採用してる他社に転職するぞ」と腰掛け扱いされていたと思います。全員ではないと思いますが。

鹿熊さん

フジイユウジ

100人ぐらい採用して70人辞めるのはヤバいな。
今日のインタビュー、ここまで「ヤバい」しか言ってない。
当時はなにか手を打ったりしたんですか?

当時、私はマネージャーで、大学のサークルみたいなカジュアルな雰囲気作りをしたらいいのかなと思って、いま振り返るとダメなやり方なんですけど、頑張って飲み会をやってました
体育会系とかじゃないんですが、社員のエンゲージメントが下がっている、コミュニケーションを増やさないといけない。
だから飲み会をやる。
どこかのCMで聞いた事あるような、ダメなことをやっていましたね。
今はもちろん「とりあえず飲み会でコミュニケーション」みたいなことはやっていないですが、当時はバックグラウンドも想いもバラバラな人たちだから、せめて楽しい雰囲気をつくるしかないなと思って……

鹿熊さん

フジイユウジ

どう考えてもその状況が飲みニケーションでどうにかなると思えないんですが……。
けど、他に打ち手もなかったんでしょうね。

はい。ともかく「今は雰囲気づくりでしのぐしかない」みたいな場当たり的な動きでしたね。
あまりに酷かったので、1年くらい経ってからは採用も組織マネジメントの方針もなにもかも変えたくらいで。
その当時は、価値観や考え方、スキルも経験も全部がバラバラの人間が集まった集団だったんですよね。
なんというか、もう誰もが同じ目的に向かって走っていない。

鹿熊さん

フジイユウジ

先ほどお話しされていたように「未経験で入社して、経験者になったら他に行くつもり」の人ばかりのチームで、組織としての目的を見る人なんていないでしょうしね。

そうなんですよ。
なんかシンプルにみんな自分のことしか考えてないなって感じの集団でした。
あ、良いことではあるんですよ。自分のキャリアを考えること自体は。
ただ、その人たちにとってこの会社は未経験から入れるというだけの価値しかない場だったし、会社もその価値しか提供できていなかったという環境がともかくダメだった。
だから、みんな思い思いにバラバラな動きをするし、「この仕事はしたくない」とか「こういうことやりたい」って好き放題言ってましたね。

鹿熊さん

議題が謝罪しかないマネージャー会議。

フジイユウジ

その状態から、よく上場までいきましたね……。
鹿熊さんや社長さんの営業力があったからどうにかなっちゃったんです?

なによりクライアントに恵まれたというのはありますが、役員やマネージャーが走り回って仕事をとってきてました。
なんでかっていうと、営業して欲しいって社員に言うと辞めちゃうから役職者がやるしかなかっただけなんですけどね。
ただ、当時はクライアントに迷惑も沢山かけてしまっていましたね……
あ、今では本当にちゃんとした経験もスキルもあるプロフェッショナルがクライアントのデジタルマーケティングを支えていますよ。
ただそれも、当時の社員が残っていなくてほとんど入れ替わってしまったから、今は違うって言えるんですが……。

鹿熊さん

フジイユウジ

記事にするのが申し訳なくなるくらい、酷い話しかでてこないな。

真剣に話す鹿熊さん

当時のマネージャー会議がともかく酷くて、謝罪の話しかしてなかったんですよ。

鹿熊さん

フジイユウジ

謝罪会議……?

あの案件はヤバいことになっている、こっちの案件は何もできていないとか、そんな話ばかりなので、マネージャー会議は「誰がどこに謝りに行くか」を決める場になっていたんですよね。
誰が同席する?私もいく?
そんな話をしていました。
そんな仕事ばかりのマネージャーも辛いですよね。
そうしているうちに、信頼していた重要な立場のマネージャーも辞め、一般社員も毎月のように退職者がいて……

鹿熊さん

フジイユウジ

話を聞いているだけで吐きそう。

反省してるから話せるんですが、ちゃんと今は変わりましたし、当時に迷惑をかけたクライアントさんとは今でも良い関係だったりしますよ。
先ほどもお話した通り、結果的に人も入れ替わってしまったので、今となってはまったく別の会社みたいになっています。

鹿熊さん

「お客様に寄り添って施策を実施する」という方針を決めたら、一気に変わった。


フジイと鹿熊さんが話している

フジイユウジ

そこから上場までたどり着くの、地道に改善をやりきったってことですよね?
どうやって軌道修正していったんですか?

そこから何とか変えられたのは、人の意見を聞き入れてくれる百本(社長)の人柄があると思います。
「人だけ増やしても破綻するだけで上場どころじゃない」とか直訴して、外部のアドバイザーを入れて採用計画から組織のつくり方までゼロからやりなおしました。
当時は電子広告社って名前だったのを「もっと若い人が入りたくなる社名にしてくれ」って言ったら社名変更もしてくれて。
社名変更の理由は、それだけじゃないですが、色々な意見を受け止めてくれて変化できたのは大きいですよね。

鹿熊さん

微妙な表情の鹿熊さん

フジイユウジ

おお、なるほど。
ちゃんと会社を大きくするためのやるべきことに目を向けられたんですね。
トップや経営陣が会社を大きくしたいと思っても、意識を変えられずに停滞するのはよく見かけますから、社長の百本さんが柔軟だったのが救いだったわけですね。

そうだと思います。
私が、「この会社はともかくダメだ」ってダメダメダメダメダメって言っても、ちゃんと聞いてくれるんですよ。
百本とは年も離れているので、普通だったら怒っちゃうと思うんですよね。23歳も下のやつがダメ出しばっかりしてくるんだから。
でも、ちゃんと聞いてくれたんですよ。
ともかく、組織を変えないといけないって当時のマネージャーや経営陣みんなで話して、基礎から変えていきました。
どんな人を採用しないといけないか、そのためにはどんな手段があるのか、会社は何を目指すのか、入社した人たちにどう活躍してもらうか……

鹿熊さん

フジイユウジ

それまで「未経験から数年でCMOになれる」みたいな求人を出してたくらいヤバかったわけですから、変えるところは多かったでしょうねえ。

「お客様に寄り添って施策を実施する人を採用する」という方針を決めたら、一気に変わりましたね。
それまでやっていた応募が沢山くれば良いという考えの求人広告も止めて、お客様に寄り添って仕事するという価値観に合う人を集めるような求人をするようにしました。
それまでやっていなかった面談・面接の管理もしっかりするようになりましたし。
今では、本当に誇らしい程、お客様想いのメンバーが多くなって、会社の大好きなところです。

鹿熊さん

フジイユウジ

それを短期間で切り替えられたのは、すごいですね。
方針を決めても、ただの飾りになっちゃう会社も多いのに。

現状の会社について語る鹿熊さん

組織も、社員が持っているプロフェッショナル性やスキルで活躍できるよう、個々の特性に合わせる体制にしました。それまでは、全員営業から運用、レポート作成までやる構図になっていたので。
ともかく、お客様に自信をもって施策を提案できる体制をつくることは頑張りましたね。
自分達がいかに色々なものが足りていないかを身をもって体験していたので。

鹿熊さん

フジイユウジ

急に、さっきまで聞いてたのとは別の会社みたいな話がはじまったな

いや、本当にいまや別の会社ですよ……。
売上や利益の伸びだけで「それに応じた組織を」と考えて、採用や組織づくりを安直に考えすぎたのが最大の罪だったと思うんですよね。
別に社長も私も「安直で良い」と思っていたわけじゃなく、働いている人が大事だってわかっていたはずなんです。
でも、わかってるつもりになって、知識もなく自分の経験の範囲だけで人や採用や組織のことをやってしまっていた。
未経験採用で失敗しているのに、自分も採用や組織についての未経験者だって事には気が付いていない痛い状態でした。経験豊かな有識者に頼るとか、そういうことをしていればよかった。
上場が第2創業期みたいなターニングポイントになって、お客様に寄り添って成果を上げたい経験者が入社してくれるようにもなりました。
失敗を反省して組織づくりをしているので、いまは楽しく仕事ができている社員も多いと思います。

鹿熊さん

まとめ: 自分の安直さと無知を認める


デジタリフトのロゴと鹿熊さん


「失敗談を話してください」とお願いしたのはこちらなのですが、聞いているこちらの体調が悪くなるようなハードな話ばかりでした。

鹿熊さんはインタビュー中に「正直、ラッキーもたくさんあったと思います」と謙遜気味に言っていたのですが、早期に自分たちの過ちである安直さと無知に気づいて、実直かつ地道に細かなところまで改善の手を入れたことで対応できたところが、立て直し成功のポイントだったんだなという印象を持ちました。

恐らく、自分の安直さや無知を見つけるのはそう簡単ではなかったと思います。

「売上が伸びていることが原因」で戦線拡大ばかり考えて崩壊する組織も多いので、参考になるところも多かったのではないでしょうか。

いまや価値観ベースの採用に切り替わった


株式会社デジタリフト

(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2023年8月

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